第20話無課金で課金ゲームを遊ぶ時は割り切りが必要。でないと楽しめないよ?

 ゴブリンキングの誕生によりこの街、アーバンパレスに侵攻の話は既に街中で話題になっていた。

 街から逃げ出す人もいたが多くの民はこの街を守る為に何かをしているらしい。

 俺とシロは急遽冒険者ギルドに向かう事にしたが冒険者ギルドは既に防衛体制に入っており、人の数が従来の三倍以上集まっている。

 そんな中、小さな鐘の音が辺りに響き渡る。

 俺達は冒険者達のカードがこの鐘の音の奏でる意味をまだ知らなかった。


「なんかずっとこのカードから小さな鐘の音が聞こえるんだが…シロ何か知ってる?」


「私も冒険者になるのは初めてですからね、知らない事も多いです」


 人を掻き分けギルド内にやっと入る。

 完全武装の男達が装備の確認を真剣にしているのを見ると心が踊ってしまう。

 何時もならみんなが話しかけてくれるのだが今日は誰も話しかけてこない。

 鉄の擦れる音と鐘の音が聞こえるだけだ。



「殺気立っていますね…ご主人」


「そりゃ絶望的な数だしな…」


 人々が話しているのを来る間に聞いたのだがゴブリンだけで一万以上である。

 この街にも1万人以上の人がいるが戦える人間は2000もいないだろう。

 人間が負けた場合、街は滅亡し、人は食糧やゴブリンを増やす為の苗床にされるのは明らかだ。ここで殲滅しないと国が滅びる。


「ジルアちゃん!来ちゃったんですか…」


 フィリがこちらに気づいたのか近寄ってくる。

 汗にまみれた額にほつれた髪がまとわりついているがそれを直す時間すら惜しいようだ。

 俺は真剣にこれから何をすればいいのか聞く事にする。


「フィリさん。俺は何をすれば良い?ゴブリンなら100や200ならなんとか出来る。最前列でもいい」


 俺の言葉にフィリは驚いている。

 仕方もない。

 戦争で最前列など死ぬだけだ。

 ましてや相手は一万を越える軍団。

 普通に考えれば死にに行くようなものだ。


「駄目です!お二人には避難民の誘導というクエストが発行されています。これは指名依頼です。断る事は出来ません!」


 冷たい口調で突き放すようにフィリが俺達の行動に釘を刺す。

 どうやら俺達を戦わすつもりは無いらしい。

 しかし俺達はここに来るまでに老人が武器を持ち、子供が投石の準備をしているのを見ている。

 若い男達が門の前に集まり決死の覚悟をしているのを見ている。

 何よりここの男達が死ぬ覚悟をしているのを肌で感じ取っている。


「…それで避難誘導をする人の数は?何時から出発だ?どこに向かう?避難経路の安全確保はしてるのか?」


 俺の質問にフィリさんは動揺を隠せず答える事が出来ない。

 俺は溜め息を吐くと冒険者ギルドを出る為、背を向ける。


「ど、何処に行くんですか?話はまだ…」


「装備を補充してきます。帰ってきたら説明出来るようにしといて下さい」


 俺はそれだけ言うと出ようとする。

 しかし、冒険者達に囲まれ出る事を阻害される。


「悪いな。チョロチョロされると迷惑なんだ。ここにいてくれ」


「ルーキーが焦ってんじゃねえ。ここで大人しくしてな」


「悪いがお前らはただの予備だ。俺らだけで終わらせちまうからガキらしくここで大人しく言う事を聞いてな」


 冒険者達の様々な言葉に俺とシロが反論しようとするが相手の目を見て止まってしまう。

 冒険者達の目は澄んだ瞳で俺達を優しく見ていたからだ。

 そして準備の終わった冒険者達は一人一人と一つの方向へ向かって行く。


「シフォンさん。正直に答えてください。彼等は何処に向かっているんですか?」


 俺のかすれた声にシフォンさんは戸惑いながらも答えてくれる


「現在騎士団が門前で集結しゴブリン達を食い止める予定です。冒険者達はその隙にゴブリンキングへの奇襲を敢行します。その為に裏手に回る必要がありますので東の森に集結予定です。ただし、この説明を聞いた以上東の森に行く事は固く禁じさせて貰います」


 俺の行動を読んだのか先に先手を打たれた。

 ゴブリンの軍団は南から来ている。

 南は平原のため視界が良く奇襲には困難だ。東の森は魔獣などがいる為にかなりの危険が生じるはずだ。

 西には川が流れているからそちらからは両軍共に進軍出来ないしな。


「分かりました。東には行きません。それで避難民はどうなってるんですか?どうせいないんでしょ?フィリさん」


 俺の言葉に体を震わすフィリ。

 シフォンも目を背ける。

 この場にいる冒険者達は俺たちと同じルーキーの成人に満たない者ばかりだ。

 この世界の成人は15歳なので俺は成人なんだがなぁ…


「それで俺達の本当の仕事は何ですか?今度こそ教えてくださいよ?東には向かわないと確約したんだから」


 その言葉にフィリは表情を固め俺達数十名に宣言する。


「貴方達の仕事は城壁からの援護です。門の近くの階段から城壁に登れますのでそちらに集合してください。もし門が破られそうになった場合住民の避難を優先します」


 その言葉を聞いて俺とシロは全力で南の門に向かう。

 人々は既に準備が終わりその時を待っている。俺はシロと共に城壁を駆け上りゴブリンの軍団を見てその余りの強大さに唖然としてしまう。

 群れというより塊。

 その塊が徐々にこちらへと向かって来ている。

 アレが俺達の敵なのか?アリの大群がこちらに来ているみたいじゃないか。アレをどうにか出来るものなのか?俺にはそうは思えない。


「これは…一つの街でどうこうできる範囲を超えてます…」


 シロの言葉が鐘の音に合わさって聞こえる。そう言えばこの音は本当になんなんだろう。俺は目の前の現実から少し逃避してしまうが騎士団の眼前にゴブリン達が集結するのを見て行動を開始する。

 出来るだけゴブリンのいる広い範囲に拡散させ(ファイア・アロー)を100本程作り出す。


「ご、ご主人⁈それは…」


「手加減無用だ。全力でいかせてもらう!」


 宣言と共に城壁の上からゴブリン達を食い散らかす為、飢えた狼のように炎の矢が駆け抜ける。

 炎の矢が着弾するとその場から4〜5m程度の火球ができ、その範囲内の物を全て焼き尽くすかのように燃え上がる!


「な、何だあれは⁈」


「上級魔法使いがやったのか⁈」


「ゴブリンの軍団に穴が空いたぞ!」


「奴らの足が止まった。今だ!」


 軍勢同士の戦いの中、そんな声が聞こえる。俺はもう一度同じ数の炎の矢を用意し、浮き足立ったゴブリン達の最前列に打ち込む!


「れ、連続だと⁈あの規模の魔法を連続で打てる奴がいるのか⁈」


「すげえ…あの魔法が当たった所は何も残ってないぞ?」


「ジルアちゃん最高!格好可愛い!」


 …最後だけおかしいがこれで敵の動きは鈍ったはず。

 ゴブリンキングへの奇襲もしやすくなったはずだ。


 開幕の炎は俺が上げてやった。

 前哨戦はここ迄だ。これから本当の戦いが始まる…







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