第88話山のように増えていくソシャゲを見ながら自分に合いそうなものを探すときってドキドキしませんか? たまには新しい出会いも必要です

 大きな胸には夢が詰まっており、小さな胸には希望が残されている。


 そんな詩人の歌の様な事を考えながら、何故かセシルと共に正座させられているジルアです。


「大体ご主人は毎度毎度無茶し過ぎなのです! 私達のフォローなんていっつも考えないで動くじゃないですか! 何時になったら自重という文字を覚えてくれるんですか! セシルもセシルで隙あらばご主人とイチャイチャしようとしないで下さい! 」


「いや、あれは……ね? 少しだけ感情が高ぶっただけなのよ? シロちゃんとの休戦条約を忘れた訳じゃないのよ? 」


「何それ? 私そんな話聞いた事無いんだけど? 」




 シロにお説教を受けているうちにおかしな話の方向になってきたので俺も口を出してしまう。


 休戦条約とは何なんだ? この2人実は仲が悪いのか?


「イチャイチャするのもその辺にしといてくれよ? ライアもようやく落ち着いたんだからそろそろ先に進まないか? 」


 アクトが息をようやく整えたライアを気遣いながらこちらに言葉を掛けてくる。


 実はライアなのだが、俺達の後を追ってきていたはずがまるきっり違う方向へと進んでおり、傷を癒し終えた仲間達が探す羽目になっていたらしい……どうやらライアは一人で行動させると大変な事になる様だ。


「そうだね、みんなも大分回復したし、次のフィールドへと向かおうか」


 森のダンジョンのフィールドボスであった巨木を倒した辺りには今までなかった古びた門が何時のまにか現れており、門の中では色々な光が混ざり合っている。


 セシルやアクトが言うには、ボスを倒す事で次のフィールドへと転移できる門が現れるダンジョンもあると言うから、今回目の前にあるこの門がどうやらそれになるのだろう。


 因みにあの巨木のボスは『エンシェントエント』という名前だったらしく、倒した辺りに大量の木材と葉っぱがドロップしていた……【イベントリ】が無ければ持ち帰れない数だったよ。




 準備を整えた俺達が次のフィールドに向かうために古びた門を潜り抜けた瞬間、全員が身体を震わせ身動きが取れなくなる!


「馬鹿にゃ ⁈ フェンリルクラスの魔力ですと!このダンジョンどうなってるにゃ ⁈ 」


 全員の気持ちを代弁してくれたケットシーだが、その美しい毛並みが全て逆立っている姿は既にコメディー状態である。


「全員警戒! セシルとシロは周囲にを探知して! 残りの人はライアを中心に円陣を組むよ」


 俺の言葉にシロとセシルは素早く対応して意識を探知へと向けてゆく。


 俺とケットシーとアクトでライアを乗せたアトルフォスを囲むようにして周囲からの奇襲に備えてみるが……


「駄目です、ご主人! 魔力が濃すぎて他の魔物達は怯えているだけしか分かりません! 」


「ジルアちゃん……この魔力の持ち主の居場所は大体把握出来たけど、本当にそちらに向かうの? 私、正直言って近寄りたくないのだけど」


「門も消えちゃっているから逃げ道はないよ! 私だって漏らしそうだけど仕方ないもん」


 怯えるシロとセシルに喝を入れようと頑張ってみるが、自分のお股すら危険水準に近づいている今日この頃、俺もこの魔力の相手なんぞに会いたくはない。


「ダンジョンボスを倒したら現れる門には地上に戻れる機能があるんだが……消えちまったからな。ここで死ぬかこのフィールドを制覇するかの二つしか選択肢はないと思え」


 額から脂汗を流しながらタクトは辛そうな表情で俺達の進むべき道を教えてくれる。






 第2フィールドであるこのフィールドは、岩と砂で覆われた茶色い世界で、目につく魔物もいない為に順調に莫大な魔力の持ち主の元へと進んでいく……


 みんなこのフィールドに満ちている魔力の影響の所為か顔色が悪くなっており足取りもふらふらしている。


「あと少しで目的の場所へと着けそうだし、取り敢えずこの魔力の持ち主と出会った時の対応を考えよう……いきなり攻撃するのは無しで」


 俺の言葉に頷くみんな。


 まぁこれだけのプレシャーをフィールド全体に与える相手に下手な手を打たないのは当然のことか……




 そうして話し合いを終えた俺達は更に先を進んでいく。


 そうして岩に囲まれた洞窟の前に到着した訳なのだが……やばい、この洞窟の穴直径30m以上あるんだが、一体どんな生物がこんな所にいるんだろう。



 流石にこの状況は予想外だったので俺達は辺りを探索し、この洞窟の主人の情報を集めることにする。


 どうやらこの洞窟の主人はかなり強大な体の持ち主のようで、入り口には3m近い足跡がいくつも残っている……のだが、そこから突然足跡が消えていたりしている。


「これは……ドラゴン種ですかにゃあ。足跡の形も特徴的ですが、空を飛べると思って間違いないですにゃ……竜種の上位種ならこの魔力の凄さも納得ですにゃ」


 ケットシーが駄目押しの確認をしてくれたおかげで俺達のテンションはだだ下がりである……あー俺の二度目の人生早かったなぁ。


「ジルアちゃん……いざという時は逃げなさい。私とシロが時間を稼ぐから貴女とライアちゃんは逃げるタイミングを間違えないでね」


「ご主人……シロはご主人と一緒に暮らせて幸せでした。次に生まれ変わることがあってもご主人と同じ世界がいいです」


「なぁ?やっぱ俺も残るって話になってるよな? まぁ、流石に俺も女子供より先に逃げる気は無いが……とりあえず相手には誠意を見せて話し合おうぜ?」


「な、何で皆さんそんな悲しい事を言うのですか! 私達みんなの力を合わせれば、倒すとまでは言いませんが何とかなるはずです! 」


「まぁまぁ……直ぐに戦闘になると決まったわけでも無いし、多少は楽観的にいかないと。それに良いドラゴンかも知れないよ? 」




 足取りがさらに重くなるのを感じながら思い思いの言葉を呟き、俺達は洞窟の中へと入り込んでいくのであった……





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