第34話携帯を変える時引き継ぎ作業のあるソシャゲは大変だよね?

 スプリガンの契約が突然切れた…


 その瞬間、俺は全ての競争獣を帰し、競争獣の中で2番目に早い『風月』を呼び出す。


 俺の召喚に応じ、15m程の細身のワイバーンが薄緑の鱗を光らせながら現れる。


 ワイバーンの風属性を濃縮し続けた風月は「ヴァーミリアンスタジアム」で生み出した飛竜であり、かなりの虚弱体質で扱い辛い競争獣となった。


 しかし体調さえ良ければ課金競争獣よりも早く、何度か優勝を勝ち取った重量級中型の競争獣だ。


 呼び出した風月は余り調子が良いとはいえなかったが、今は緊急事態である。


「シロ、今回だけは選択権を与える。今から死地に向かう。流石に勝てるとは言い切れない。それでも来るか?」


 俺の真剣な言葉に息を飲むシロ、しかし彼女は間をおかず頷き返す。


「分かった。今から家に帰るぞ!風月、済まないが緊急事態だ。十分な状態でない事は分かっているがそれでも頼む!私を全速力で運んでくれ!」


『ギャォォォォォン ‼︎ 』


 俺の願いに風月は天に吠えて答えてくれる。


 俺達は風月に乗ると風月はその身を天へと向け、大きく羽ばたく!


 翼の一振りで天へと舞った風月は、俺の指示通りに俺達の家に向かって大きく羽ばたいていく。







「ジルアちゃん、相手はどのぐらいの強さだと見ているのかな?」


 気がつくとシロと共に、何故かセシルまで乗っていた。


 シロがセシルに飛び掛かろうとするのを抑え込み、俺はセシルの目を見ながらセシルが何故このような事をしたか考えてみる。


「どうしてここにいる、セシル」


 俺はなるべく風月の負担にならないようこの場を納める為、出来るだけ冷静に対応する。


「もちろんジルアちゃんの助けになるためさ」


 顔は笑っているが目は本気のようだ。


 俺はシロをなだめる為に、撫でながら話を続ける。


「スプリガンを一撃で行動不可能にするぐらいだからフェアリーダンスのコスト5…ティターニアクラスが最低レベルだと考えている」


 俺の言葉にセシルは考えながら俺に質問して来る。


「それだとジルアちゃん本人のレベルでは勝てないね。他に何か奥の手はあるのかな?」


 セシルの客観的な答えに俺も同意しながら話を進める。


「家の中ならパズルスライムで対応は出来る…が家ごと吹き飛ばされる可能性もある。それにそれ程の相手だ、並みのスライムでは効かないだろうしな。奥の手はあるにはあるが…自爆覚悟だと思ってくれ」


 俺の言葉にセシルは頷きながら話を続けていく。


「なら、俺は相手の注意をシロちゃんと引くことに専念しよう。正直、ティターニアクラスがどれ程の強さか今のままだと想像がつかない。相手の力量を見抜く事から始めよう」


 俺もそれには同意する。


 スプリガンの力すら完全には分かってないからだ。


「ご主人、こいつの言う事を信じるのですか?こいつが黒幕の可能性もあるじゃないですか!」


 蕩けそうな顔のシロが何とか気力で叫んで来る…撫ですぎたかな?


「あぁ…こいつが黒幕なら既に俺達は死んでいるからな」


 俺の言葉に絶句するシロ。


 しかし、本当の事なので隠す理由が無い。


「シロ、それよりお前はスプリガンと2日ほど行動したがどの位の強さだと感じた?」


 俺の言葉に頭を傾かながらシロは当然の事のように俺に答えてくれる。


「そりゃー強かったですよ、あの馬鹿。オーガやヘルハウンドなんか片手間に倒していましたからね。でも一番凄いのはご主人ですけどね!」


 シロの言葉に青褪めるセシル。


 これはかなりヤバそうだ。


 魔力制御を身につけた俺のお股もかなり危険を感じ取っている。


「じゃあ、そんなスプリガンを一撃で動けなくするのが今回の相手だ。気張れよシロ! もうすぐ到着だ」


 シロが何か言おうとするが既に風月に家に向けて急降下を命じた後である。


 風月の急降下により俺達は地上にダイブするような状態になり、さながらジェットコースターのようである。


 そして、その目的地に無残に粉々にされた石像の破片と、無数の刃を刺されたまま崩れ落ちているスプリガン、左腕を失いながらも後ろの青い毛玉を守りながら黒い全身鎧を身に纏った相手に鬼切包丁を向けている家鳴りを見た瞬間、俺は風月の背中から飛び降り、自分に(ブースト)を掛け全身鎧の相手に襲いかかった!


「うおおおおおぉぉぉお!」


 雄叫びを挙げながら(パラレル・ドライヴ)で四人に分かれ、俺は初級魔術の(オーラ・ブレイド)でショートソードに闘気を纏わせ前後左右から襲い掛かる!







 光が見えたと思った瞬間、俺の体は家に吹き飛ばされ、全身を感じた事のない痛みに襲われる…


「ご主人!」


 シロの声は聞こえるが、立つどころか起き上がることさえ俺の体は拒絶している…


「貴様 ! よくも ! 」


 シロの叫び声が俺に力を与え、なんとか上半身を起こした時、俺が目にしたのは森の中へと衝撃を撒き散らしながら木々をなぎ倒していくシロの血塗れの姿だった…




「ふっ…ざっ…けんな!」


 俺は(ヒール)を己の体に掛け続け震える脚を殴りつけ、無理矢理立ち上がると全身鎧に中級雷魔法の(サンダー・ランス)を乱れ撃つ!


 雷の龍と見えるその姿に、セシルは絶句し、家鳴りは震える。


 無数の雷の龍が全身鎧に襲い掛かり、雷の嵐が巻き起こる中、俺は家鳴りとスプリガンに(ヒール)を掛け続ける。







 …しかし、スプリガンにはもう(ヒール)が発動しなかった…







「主人…守りきったぞ…守りきったんだからさ、笑って…褒めて…くれ…よ」


 途切れ途切れの言葉の中、満足気な顔でこちらを見て微笑むスプリガン。


 俺も泣きながら微笑み返し、俺の誇りを褒めてやる。


「お前は! 最高の! 妖精だ! 」


 嗚咽により途切れ途切れとなった俺の褒め言葉に、スプリガンは顔を顰めながらも満足気に目を瞑り、光の粒子となって天へと還る。







「スプリガン…さぁ…ん」


 血塗れのシロが目から涙を零しながらこちらに向かってくる。


 しっかりとした足取りのシロに(ヒール)を掛けながら雷の嵐が未だ消えない戦場に目を向けたまま俺はセシルに尋ねる。


「セシル。あれ程の化け物なら噂ぐらいは知らないか?正直、『アレ』の情報が無いと話にならん」


 セシルは俺の話を聞いていないのか、ただ呆然とその言葉を口にする。


「本当にいたのか…『世界の守護者』なんて…」




 セシルのその呟きと共に、雷の嵐は薙ぎ払われたかのように散り散りにされていく。


 その中心にいたと思われる全身鎧は、ボロボロになった左手のガントレットから血の煙を上げ、全身から肉の焼けた臭いをさせながら俺達の目の前に悠然と立ち続けていた。




「セシル!奴の事を早く言え!時間がない!」


 俺は(ファイア・アロー)の弾幕で全身鎧の動きを止めながら、セシルに叫ぶ。


 俺の声に反応したセシルは震えながらも奴の正体を俺達に語ってくれた。


「通称『世界の守護者』。主に『異世界転生者』を狩り続ける、世界の代行者…らしい」




 俺は俺達の死刑執行書に誰かがサインを書いたような気がした…










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