第70話イベント期間が長ければ悠長に進めてクリア出来ず、短ければ諦める。そんな自分ですが楽しめているので無問題です

 子供達と市場に行ってある程度の店を周りながら食べ物を買ってあげたのだが、店の人達に驚かれるわ、更にお土産を渡されるわで大変だったとだけ言っておこう……




 満足した子供達と別れ、冒険者ギルドに着いた時には既にみんなが集まっていた。


「ごめんね、みんな。少し寄り道しちゃった」


 そう言って謝る俺を何故かニヤニヤと笑いながら見ている仲間達……何かあったのか?


「子供達と一緒に戯れるジルアちゃんはとても素敵でしたわ。今度絵に描いて飾らないといけませんわ」


「ご主人は人気者ですね。シロは誇らしいです」


「あれを見てると心が癒されるわね。ジルアちゃんもストレスが溜まっていたならゆっくりしてもいいのよ? 」


「あんな光景を見るとお前さんがエルフだったという事を思い出しちまうな」




 ……こいつら、俺が市場にいた時見ていたんだな。


「見てたなら声ぐらい掛けてよ! こっちは色々大変だったんだから」


 俺が顔を真っ赤にして反論すると、益々にやける仲間達……ムカツク!




「はいはい、遊んでないでこっちに来てくださいねジルアさん。魔物の買い取り金とフィリのクエスト代金を払いますからさっさと終わらせますよ……全くフィリがいない時に限って私に回ってくるんだから……」


 シフォンに両手で抱かれた俺はそのまま受付まで連れて行かれる。


 周りの冒険者達は羨ましそうにこちらを見てるが、俺の気分は捕まった子犬のようだ……あともう少し胸があれば良いんだが。


「何か邪悪な気配を感じましたが気の所為ですかね? 今回の魔物の売り上げ金額は合計金貨25枚と銀貨38枚になります。全部売却で宜しいんですよね? 」


「うん。こちらとしてはそれで大助かりだけどこんなに高くて良いの?」


 確かゴブリンだと銀貨1枚程度の魔石価格だったはずである。


「今回はゴブリンがほとんどいませんでしたからね。動物型の魔物は買取価格も高値なんですよ。お肉や骨に、魔石と捨てる所がありませんからね。オークなんかは結構良い値がつきますし」


 なるほど……逆に言えばゴブリンは魔石以外価値が無いのか。


「それとフィリからのクエスト代金の銀貨3枚です……あの部屋を本当に掃除出来たんですか? ジルアさんは素晴らしい清掃能力をお持ちなんですね」


 シフォンさんが同情するような目でこちらに言ってくれるが、中々激しい部屋だったよ……スライムは満足そうだったけどね。


 冒険者ギルドでの清算も終えて、みんなに四等分にして渡す。


 俺の分が無いんじゃ無いかって? 俺にはもらう資格はないのさ……




 そういう訳で伯爵の館に戻ろうとしたんだが、ライアの発言が俺達を驚かせる事になってしまう。


「あら?私はこれからレベルが上がり終えるまでジルアちゃんのお家に住まわせてもらうつもりですわよ? 父上にも許可を貰いましたし」


「え? そんな話聞いてないよ ⁈ 」


「そう言えば父上からお金と手紙を預かっておりましたの。これをお受け取り下さいな」


 ライアが無理矢理渡して来た手紙を読んでみると、どうやらこれからライアの身の周りを安全にする為の準備をするから預かって欲しいという流れの文面が書かれていた。


 お金の方はこの間の盗賊ギルドの討伐と今回の詫び金として金貨100枚を入れているそうだ……これ、断れないようにしているよね、絶対。


「そういう訳でジルアちゃんの家にお泊り会をしに行きますわ! 」


「部屋が厳しくなりそうですね。シロちゃんと私はジルアちゃんの部屋で寝る事にしましょう」


「賛成です! これ以上他の人にご主人との交流時間を取られたくないのです! 」


「あ––。俺はソファーでもあればそこで寝るから。それが駄目ならこの間の馬車の中でも良いぞ……いや、そっちの方が良いかもな?」


 思い思いに喋る仲間達を見ながら、俺は自宅での部屋割りをどうしようかと考えるのであった……






「それでどうしてこうなったの? 」


 俺は家鳴りと座敷童、そして大元の原因であろうミーアを正座させて事情を聞いている。


 いつもの馬車に乗って俺達の家に向かって帰っていると、家の周りが少し騒がしい。


 また世界の守護者が来たのかと思いきや、家の周りが黒い手によって整備されていたのだった。


 家から離れても動けるのかと驚いていたのも束の間、家が目に入る距離になると明らかに俺達が出る前と様子の違う我が家が俺達の帰りを待っていた訳だ。


 具体的にいうと、家の周りに鉄条網が配置され鉄条網の前には3m近く掘られた堀がいつの間にか出来上がっている。


 堀の中にはスライムと思われる物体がうねうねと動いているし、時折「ジュッ」という音まで聞こえてくる。


 鉄条網より内側は芝生がどのようにして生えたのか分からないが、綺麗に張られており美しさを見せる中で、無骨なトーチカが何箇所かに配置されている……


 そんな中、家まで何とか帰ってくると窓に重火器が装備され、屋根には見た事もないドーム型レーダーを装備し、家の壁に鉄板がはめ込まれた上に3倍近くの大きさになった我が家……というか防衛施設が俺達を出迎えてくれたのだった。


 因みに玄関前で、震える家鳴りとやりきった顔の座敷童とミーアを見た瞬間、犯人が誰なのか分かった事は言うまでもない。




「ですが、前の家のままだと防衛力に問題がありすぎです。我々にとってここは最終防衛線です。いくら力を入れても入れ過ぎにはならないはずです! 」


 軍人モードに入っている座敷童にデコピンをかまし、次は家鳴りの弁明を聞いてみる。


「わ、我はな、止めたのじゃぞ? しかし、この2人がのりのりでな、我には止める事が出来なんだのじゃ! 」


 涙目で訴える家鳴りは、まぁセーフという事にしておこう……最後のミーアはにこにこしていて弁明を聞くまでも無いような気がするが……


「やる気満々な座敷童さんに、それならばと知恵を出してくれた家鳴りさん。そんな2人に私も感動しまして、精一杯ご助力致しました。問題があるならば、どうぞこの身をお好きなようにお叱りくださいませ」


 既に赤ら顔なミーアを残し、逃げようとした家鳴りの首元を掴んで取り押さえた俺は、家鳴りを全身マッサージの刑にしてやる。


 激しい悲鳴から艶のある悲鳴になる頃には、セシルやシロ、そしてライアは俺のそばから離れてドン引きしており、座敷童は失神してる。


 それなのに何故か恍惚としているミーアがいるが、あいつは完全に無視の刑だ!


「おぃ……お前、結構エグいのな」


 真っ赤な顔で下を向きながら俺に文句を言うアクトがいたが、それは冤罪だと思う。


 悪い事をした子にはお仕置きが必要だからだ!


 因みに黒い手と青い毛玉は俺の前で服従のポーズの真っ最中だ。




 軍事基地と化した俺の家から夕暮れの空に向かってサーチライトが発光している。


 それを見る俺の目には、我が家が何故か悲しそうに見えたのだった……




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