第69話ソシャゲの共闘バトルって中々しづらくありませんか? 自分はほとんどした事がないです

 南の平原で魔物を刈り尽くした俺達は冒険者ギルドに向かい、魔物を売り渡す事にする。


 こんなに持っていても【イベントリ】を圧迫するだけだしね。


「いきなり来ては大量の魔物の売り渡しだなんて……相変わらずですね、ジルアさん」


 目元を押さえながら何かに耐えているシフォンさんに申し訳ないと思いながらも、俺とライア嬢は冒険者ギルドの裏手にある魔物解体場に魔物を大量に置いていく。


「私も冒険者になりたかったですわ」


 実は、ライア嬢が冒険者になる事は父親のタバサ伯爵からきつく止められていた。


 どうやら叔父に当たるマロンと一緒だと、どこに行くのか分からなくなる……という俺達にも納得出来る理由だった。


「そんな事を言っては駄目ですよ。ライア様は伯爵令嬢。何かあったら大変ですから」


 俺が何とか機嫌を直してもらおうとフォローをすると、ライア嬢が口を尖らせてこちらに文句を言ってくる。


「ジルアさん。私の事はライアでお願いします。大体同じ日本人なんですから、そんな堅苦しい言い方は慣れてないでしょう? 」


 ライアが上目遣いで言ってくるので、俺は苦笑いをしながら頷く。


「きゃー! 良かったですわ。私、同世代の人と中々会う事もなかったからシロちゃんやジルアちゃんとは仲良くなりたいと思っていましたから」


 俺を抱き上げ、くるくる回るライアに俺は真っ赤になりながら抵抗する。


「駄目だって! 私はこれでも20を越えた男なんだから、そんな事をしたらいけないって! 」


「今は可愛いエルフですから問題無いですわ! 」


 俺を抱き上げくるくる回るライアを、解体場にいた大人達は何か微笑ましいものでもみるような目で俺達を温かく見守っていた。




 魔物の売り上げ金を計算するのに時間が掛かると言われた俺達は、別行動をする事にする。


 俺はフィリから頼まれていたフィリの部屋の掃除を、他のみんなは買い物をする事となり俺は問題のフィリの部屋に借りた鍵で入る事にする。


 以前よりも混沌とした部屋を見た瞬間、イレースライムをすかさず投げて、跳ねまくるスライムを遠い目で見ながら早く綺麗なる事だけを祈る……


 無事に仕事を済ませた俺は冒険者ギルドに戻ろうとするが、帰り道でいつの間にか沢山の子供達に囲まれてしまい、戸惑ってしまう……そういや以前に子供から変な目で見られていた事があったが、何か俺に言いたい事でもあるのかな?


「何か用でもあるのかな?」


 目の前にいるリーダーっぽい男の子に話しかけてみるが、顔を真っ赤にするだけで返答がない。


 仕方が無いので他の子達も見てみるが、視線が合う度、俯いたり目をそらしたりして中々目を合わすことすらしてくれない……この子達は一体何がしたいんだ?


 埒が明かないので、その場を去ろうとした時、1人の少女がこちらに向かって叫んでくる。


「エルフ様、お願いがあるんです。傷ついた妖精さんを助けてくれませんか?」


 涙目の女の子の叫びを聞いた俺は、彼女に詳しい話を聞く事にしたのであった。




 少女の話によると、俺がこの世界に来る少し前に子供達の遊び場である公園に弱った妖精を見つけたのが始まりらしい。


 子供達はみんなで妖精を助けようとしたのだが、食べ物は花の蜜を僅かに飲むだけで、傷薬なども受け付けないらしい。


 徐々に弱っていく妖精を大人に見せるかどうか考えていた時、どうやら俺の事を知って何とかしてもらおうと考えたそうだ。


 しかし、俺は街の人に人気がある為中々近づけず、話す機会が見つからなかったようだ。


「お願いです。このままじゃあの子が死んじゃう! 何でもしますから助けてあげて! 」


 周りの子供達も俺に必死にお願いする姿を見て、俺はにっこりと微笑むとみんなを元気付ける為に態と強い口調で応えてあげる。


「安心して。エルフの私が来たからには大丈夫だよ。その場所まで連れて行ってくれたらすぐに元気にしちゃうから」


 子供達の喜ぶ姿を見ながら、俺は何としてもその妖精を助ける事を自分の心に誓うのだった。




 しばらく歩いた場所にある公園に俺が来ると、微かにだが魔力の波長を感じた。


 その場所にまで走っていくと、木の箱に毛布を敷かれたその上にぐったりとしている妖精を見つける事が出来た。


 とりあえず(ヒーリング)を掛けてみるが状態は良くならない。


(マナ・トランス)を掛けてみると僅かだが妖精が動いたのを確認出来た。


 どうやらこの分だと魔力切れになりかけたのだろう……俺は抱きかかえると(マナ・トランス)をゆっくりと掛けながら妖精が目覚める事を待つ事にする。


 その姿を見ていた子供達は大喜びでこちらを見ている。


 しばらくすると妖精の目がうっすらと開き、俺の目と合う。


 ぼんやりと俺を見ていた妖精だが、突然目を見開くと俺の胸から飛び跳ね、くるくると俺の周りを飛び始める。


『申し訳ありません、名を知らぬエルフ様。私のようなものの為に魔力を使われるなど大変な事をさせてしまい感謝のしようがありません』


 多少は落ち着いたのか、俺の前に来ると頭を下げ続ける妖精を俺は手に取るとびっくりしている妖精にみんなが見えるように抱いてから優しく妖精に語りかける。


「この子供達が君の事を心配して私を呼びに来てくれたんだよ。君は私に謝るよりもこの子達にお礼を言わないといけないよ」


 俺の言葉に妖精は涙すると子供達の方に飛び上がり、子供達の周りを回る。


『ありがとう。小さな友達。貴方達のお陰で私は助かったわ。本当にありがとう』


 喜ぶ子供達の周りを何回か周り終えると、もう一度俺の元まで戻ってきて軽く頭を下げる。


『エルフの姫さま。此度は本当にありがとうございました。このお礼は必ずさせて頂きます。私にはしなければならない事がありますのでそれが終わり次第、お礼に向かわせて頂きます』


「そんなに気を使わなくていいよ。やる事があるなら早く向かいな。お礼もしなくていいよ。私はこの子達に会えた事が1番の報酬だからね」


 俺がそう言うと妖精は徐々に空へと上がっていき、見えなくなるまで昇っていった……




「エルフ様、妖精さんは何て言っていたの?」


 最初に俺に叫んだ子が嬉しそうに聞いてくる……妖精の言葉はみんなには分からないのか。


「妖精さんはみんなにありがとうございましたって言っていたよ……私からもお礼を言うね。あの子を助けてくれてありがとう。今から市場に行くからみんなに食べ物を奢ってあげる。それじゃ、みんなで市場に行こう! 」


 俺の言葉に大喜びの子供達。


 それを見て、俺はこの世界に来て本当に良かったと心から思えたのだった。





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