第31話課金ゲームの一周年記念とかは大盤振る舞いだね。その年に終了の場合もあるけど

 シロを起こしに部屋に入る。


 既にシロは着替えており戦闘準備を済ませていた。


「ご主人。何時でもお供出来ます。」


 余程俺の顔は酷い状態だったのか顔をハンカチで拭いてくれる。


「ちーん!」もしておいたよ。


「今から街に行き、盗賊ギルドと一戦を交える。奴らが居そうな場所に心当たりは無いか?」


 俺よりも各地を放浪していたシロの方がこういう荒事には詳しいだろう。


 シロは少し考えていたが、何か思いついたのか俺に進言してくる。


「確か西の川を使って私を運ぶとか私を攫った奴らは言っていました。船場の近くが怪しいかと」


 それを聞いて街の構造を考える。


 確かに北には山があり移動しづらい。


 東の森は地元の人間でも近寄らない程だ。


 そう考えれば西の川を川を渡るか、西の川を使い、南に行くしか無いか。


「西に向かうか南に向かうかあいつらは話してなかったか?」


 俺の言葉にシロは「南だと思います」と確信めいた答えをする。


「南だと思う理由は?」


 俺はこの辺の地理にはまだ詳しくないしシロも攫われたからそれ程時間は経ってないはずだ。


 それなのに南だと言える理由は何だろう?


「南には王都がありますから。私は西から攫われましたし」


 その言葉で船着場を探ることを決める。




 外に出るとスプリガンが周りの確認をしていた。


 俺は(サモン・サーヴァント)を使い更に四体の石像を創り出す。


 現在の一体は命令を続行させ、残りの石像をスプリガンに付けるつもりだ。


「お前達は全員スプリガンに従え。スプリガン、済まないが今出せる戦力はここまでだ、後は頼む」


 俺の言葉に頷く巨人と化したスプリガン。


 シロもその姿を知っていたのかあまり驚きはない。


 俺は競走獣で二人が乗れ、なおかつそこそこ早い中型重量級の『無影』を呼び出す。


 無影はサラブレッドをふたまわり程大きくした黒毛の馬なのだが、性能はそれ程でもない。


 こいつの特長は乗っている人間ごと他人に気づかれにくくするという特性にある。


 流石に体を触られると分かってしまうが中々使える性能だ。


 特に混戦が予想される場所では良い働きをしてくれていた。







「西の川が見えた!川沿いを北上するぞ!」


「了解です。しかしどうやって盗賊の隠れ家を割り出しますか?」


 ここまで飛ばしてきた無影を労わりながらも、アーバンパレスの西の川に辿り着いた俺達は更に北を目指す。


 シロが俺に確認して来るが俺には一つだけ方法がある。


「船着場まで行けばシロの探知でこれと同じ物がある場所を調べて欲しい」


 俺はそう言うと懐からナイフを取り出す。


 これはこの間襲撃してきた奴らが持っていた物だが全員が同じ物を持っていた。


(サンダー・アロー)を使用した所為か何本かは無事だったのでそれを何かに使えないかと保存しておいたのだ。


 派手な装飾や特長などはまるでないナイフだがあれだけの人数が持ち歩いていたものだ、何か関係はあると思っている。


 …これで駄目ならギルマスに助けてもらおう…




「反応ありました。かなりの人数がそこにいます。でも持っている人間にも気づかれた可能性があります」


「よくやった。一番多い場所から攻めるぞ!」


 俺達はシロの案内でかなり寂れた宿屋に到着する。




 今の所大きな動きはなさそうだが早めに潰していくとしよう。


「いらつしゃい。お泊りですか?」


 人の良さそうな青年が出てくる。


 シロの顔を見ると頷いたので当たりか。


 確かに人の気配を他にも感じる。


 俺は中級幻術魔法の(チャーム)を使う。


 効果があれば味方にしてしまう凶悪な魔法だ。


 効果時間はゲームでもあまり長くはなかったので単刀直入に行きたいところだ。


「あれ?ジルアちゃんじゃないですか。こんな所に来たらうちのボスに見つかってしまうよ?今はかなり頭にきているようだからね」


 気さくに話しかけてくる相手にシロは驚いているが今は会話に集中しよう。


「今ボスはどこにいるの?トリフ男爵の身内を攫ったとかで領主様がお怒りみたいだけど?」


 俺の言葉に動揺してから左右を見てから小声で話し出す青年。


 どうやら俺のブラフはこの男にかなりの信憑性を与えたようだ。


「それどこで聞いたの?…参ったなぁ。あれは副団長の勇み足なのに…」


 困ったような顔で俺に聞く辺りまだ内部でもあまり知られていない事なのか?


「ふーん。なら副団長だけで済ますから場所を教えてくれない?こちらで助けてくるから。そちらもこれ以上下手打ちたくないでしょ?」


 シロは目を剥き、男は黙る。


 あれ?穏便にするつもりなのにまずったかな?


「…そうだな。あのドラゴンを呼ばれたら流石にうちも終わりだしな。本当に副団長だけで止めてくれるの?」


 恐る恐る聞く青年。


 うーん、この男それ程の権力を持っているのか?無ければこんな話出来ないはずなんだが…


「分かった、確約するよ。ただし、嘘は無しね。どうせ魔法もかかっていないんでしょ?」


 シロはもう動揺のあまり俺と青年に行ったり来たりの視線を浴びせている。


 青年の方も予想外だったのか言葉が出るのが遅れた。


「…はぁ。気づいたのは何時?俺ちゃんと掛かったふり出来てたと思うんだけど」


「疑ったのはさっきかな。下っ端が私に副団長だけで済むように話なんか持って行けないと思ったから。後、これだけ人がいるのに貴方が出てきた…からかな?」


 俺が気になった事を言うと青年は降参のポーズである両手を挙げ首を振る。


「あー結構ミスしたんだな俺。でもジルアちゃんのチャームなら掛かっても良いかなって思ってたし…お前らは手を出すなよ?この人はお前らが総出で掛かって勝てる相手じゃないからな。《ドラゴンファンタジア》じゃ姿格好もさることながら実力派だったしな」


 後の台詞は仲間に向けたものだろうが…






 …流石に予想外すぎた。


 しかし、ここで話すには少し問題があり過ぎる。


「その話は後で、そちらから人員は出すの?出さなくてもいいけど印象は悪くなるよ?」


 俺の問いに面白そうなものを見つけたような顔で答えてくる青年。


 くそ、後で全部問いただしてやる!


「そうだね、こちらからも30名ほど連れて行こう。そちらは二人で…十分だね」


 シロが相手を睨んでいる。


 俺もついでに睨まれている。


 はぁ…シロにもちゃんと説明しないとな。




 予想外の盗賊退治がこれから始まる。









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