勝利への嗅覚、という話

 コンマ数秒の世界で戦う格闘ゲームの世界ではすべての行動を見てから判断することは難しい。だからこそプレイヤーは反復練習で反射的な反応を鍛えたり、トレーニングモードや実戦の経験値を積み上げて対戦を有利に運べるように工夫を凝らしている。


 そういうわけで、格闘ゲームは好きなとき自由に遊ぶゲームの側面から少し外れたところに毎日プレイしていないと腕が鈍るというマイナスの側面を持っている。どのゲームでも起こりうることだが、一対一で他プレイヤーと戦うというコンセプトの関係で、腕が落ちるとそれが言い訳のできない内容としてわかりやすく結果に反映される。


 そうなってくると、どうしても楽しみ方も変わってくるのが実情だ。


 今回は腕が鈍ったときに感じる格闘ゲームの違和感の一つについて語っていきたい。


 日を空けるとコンボがうまく出なかったり、やたらと対空が出なかったりと散々なことになることが往々にしてあるわけだが、その中でもあと少しで勝ちきれない、という場面に遭遇することはないだろうか。


 勝ったと思ったら相手の体力が見えないくらいの長さで残ったり、小足一発で沈む相手にあれよあれよと逆転を許したりするあの場面だ。


 自分でもよくわからないまま、相手の択を片っ端からもらい逆転されると、運が悪いというだけでは説明できない状態に陥ってしまう。


 こういうときは決まって目の前の情報の収集を怠っているのだ。


 対戦中は何も相手の動きを見ているだけではない。残りタイム、お互いの体力、ゲージ状況。そう言ったものを確認して立ち回りを考えている。リアルタイムで状況が変わる中で相手の動きやヒットガード確認といった確認作業、対空への意識などを考えているときちんと自発的に考えないと薄れていってしまう部分というものがある。


 それは勝利への筋道の立て方である。以前にも「勝利への道筋を立てる、という話」でまったく同じ言葉を使っているが、先に何をすれば相手の体力を0にできるのかと考えておくことだ。


 実際の対戦では、状況に応じて道筋を上方下方修正しながら、勝ちへの糸を少しずつたぐり寄せていくことになる。


 いつものように私がプレイしているストリートファイターVで考えてみよう。


 相手の体力が3割強。ゲージは1本。この状況で勝利への道筋を考えてみる。


 一つは簡単だ。ジャンプ攻撃が通れば1ゲージコンボで体力を削り切れる。


 次に考えられるのは地上攻撃からゲージ技で締めて残りの体力を中下段択と投げで削り切る。残り体力が投げ一発分以下になっていると単純な打撃と投げの二択が即死になるため、プレッシャーを格段に上げられる。


 最後にゲージは有利状況や接近に使い、ノーゲージで2コンボ入れて相手の体力を削りきることだ。実力勝負になるが、近距離タイプが遠距離タイプと戦っている場合など近づいてしまえばなんとかなるような状況では、ダメージにならなくとも状況を作るためにゲージを吐くことも考えられる。


 こんな考えを目まぐるしく状況が変わる対戦中に瞬間瞬間で捉えようと思うと、意識的に頭を使う必要があることがわかってもらえるだろう。毎日対戦をして頭を慣らしておかないと久しぶりにネット対戦の海に飛び込んでいくのは無謀なのだ。


 こういうときはゆっくりと体を慣らしていくために、負けを気にせず対戦を続けることが必要になってくる。楽しみながら強くなるというのはなかなか難しいものだ。


 時には何も考えずにジャンプ攻撃だけを振って対戦するのもある意味ではアリなのかもしれない。自分の考えに縛られてしまっては、結局勝ちは遠のいていってしまうものだ。


 勝ちに行く、経験を積む、楽しむを同時に成り立たせるのは難しい。その日の気分で今日はどんなプレイをしたいのか考えることもまた、格ゲ-特有の楽しみ方なのかもしれない。

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