サブキャラを使う、という話

 サブキャラとは自分がもっとも使用するキャラ(メインキャラ)とは別に、ゲーム内で使用する他のキャラのことである。使う理由は様々で楽しむため、そのキャラを勉強するため、相手に手加減するためとプレイヤーによって変わってくる。私もヴァンプリではなんとか中級者の領域に足を踏み入れたと言えそうなところまで来ているのでこのサブキャラの一人くらいいるとなにかと助かるということで最近は練習していた。


 していた、と言ったのはつい先日諦めたからである。別のキャラを使っているとあっという間にメインキャラの動きを忘れるからだ。他のプレイヤーに言わせると、使い込んだメインキャラの動きを数日浮気した程度で忘れるはずがない、というのだが、私に言わせればまったく不可解である。コンボの失敗が増えるのは当然のこと、使える必殺技や通常技の性能すら頭の中で絡まって、立ち回りレベルで障害が発生する。


 使っているキャラが違うことは理解しているし、そもそも姿かたちが違うのだから忘れるということもあるまい。それでも対戦してみるとこれがまったくうまくいかないのだ。


 今回の件を少し具体的に例示してみよう。私のメインキャラ、サキは性能のいい必殺技とガードさせて有利な技が多いいわゆる「固めて崩す」タイプである。やや特殊な性能だが飛び道具もあり、どの距離でもやることがなくならないハイスタンダードタイプである。中距離でしっかり牽制をして、豊富な対空で相手を落としてプレッシャーをかけ、画面端で強力なコンボを叩きこむ、そんなタイプである。


 対してサブキャラに選んだあやねは中距離で振り回せる通常技とシンプルなまっすぐと設置型の飛び道具、優秀なジャンプ攻撃を駆使して逃げ回るのが得意なタイプである。切り返しが辛いが強力なコマンド投げを持ち、近距離でもプレッシャーをかけていけるタイプだ。無敵昇竜はないが、「飛ばせて落とす」という使い方もできなくない性能になっている。


 私としては別のキャラを使うなら毛色の違うキャラを選びたい、という理由と結局見た目が可愛いからという二つの理由で選んだわけなのだが、頭の悪い私にはすっかりキャラごとに使い分けるということができなくなってしまった。


 主戦場となるのは中距離なので同じなのだが、サキはそこからいかに攻めて固めるかという目的を持っているのに対して、あやねはしっかり守って相手を焦らせ隙を作らせることが重要である。自分から積極的に仕掛ける必要はない。強力なコマンド投げがあるとはいえ、こけると超必殺技すら切り返しには頼りなく苦戦を強いられることになるのだ。


 こういう立ち回りレベルの基礎からやり直していくと、自分が格闘ゲームに慣れてきていることを実感することはできた。やらなければいけないことはすぐに見えてくるので練習する際に何を考えればいいのかと悩む必要はなかった。しかしなんとか最低限の形になったというところで違う問題が出てきたのである。


 今度はサキがまったくわからなくなったのである。


 サキはあやねとは逆に仕掛けるところでしっかり相手に攻撃を当てていかなければジリ貧になりがちだ。そしてなにより強力な超必殺技のためにもカウンターヒット確認が大切なキャラである。普段ならしっかりコマンドを仕込んで待機しているところをすっかりと忘れてしまって確認したのに技が出ない、ということが頻発した。またあやねのコマンド投げを何故か使おうとして突進技を出す(しかも反確あり)わ、牽制の通常技を対空で出す(あやねの通常対空と間違える)わと散々だった。


 特別勝利に貪欲な方ではないが、これでは対戦相手にも失礼である。私はこれ以上いけない、とサキ一本に戻すことにしたのだ。


 しかし思い返してみると、私は対戦中何も考えていないのではないかということに気がついた。コンボは手に馴染んだものだけを使っていてあまり発展させようとはしない。重視するのは状況判断が必要ないことだ。崩しも単純で成功率の高いものを繰り返しているだけのように感じる。人読みで何度も切り返されてようやく変えようと思うくらいだ。もしかするとこの辺りに私が強くなれない理由があるのかもしれない。


 しかし、みなさんも考えてみてほしい。学生時代打ち込んだスポーツや芸術に今も同じ熱量で取り組んでいる人はいるだろうか。その数は母数に比べれば決して多くないはずだ。eースポーツと呼ばれるだけあって、格闘ゲームは掘り進めようと思えば底知れない技術と知識が必要になってくる。そしてそれに付随して練習も必要になってくる。


 だが、プロ野球選手は決して草野球を楽しむ休日のおじさんたちを否定しないだろう。それと同じように忙しい生活の中でなんとか作ることができた休暇にまったりと格闘ゲームを楽しむ。私はそれでもいいのだと動きの鈍ったサキを見ながら改めて思ったのだ。

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