間合いを見切る、という話

 ヴァンプリはプレイヤー人数が少ないので、簡単に超上級者と戦うことができる。多く集まっても十数人しかサーバーにいないのだから仕方がない。相手を選んで対戦を組んでいては丸一日対戦できないことになってしまう日もあるだろう。


 しかし、裏を返せばこれは商業ゲームではなかなか難しいことだ。近年の格闘ゲームは戦績に応じてクラス分けがされ、基本的にランダムマッチでは同程度の実力の相手とマッチするようになっている。同じくらいの実力の相手との対戦は勝負が伯仲はくちゅうし面白くなることは間違いない。連敗がかさむということもなく、勝利の味を知ることもできる。ただやはり上達したいと思い始めてくると一方的な展開の中にもさまざまなことを考えさせてくれる上級者との対戦はこれ以上ない経験になる。


 今回はそんな虐殺といっても過言ではない戦跡の中で見つけたまだ真似のできない技術について考察してみたい。


 とある人物がサーバーにいる。名前は伏せるがこの方が鬼のように強く、私はよくて勝率一割、しかも相手が使っているのはサブのサブのサブキャラ(要するに本気とは言い難い)でこれである。メインキャラは二〇〇〇戦ほど相手をしてもらったがまだ一度しか勝ったことがない。


 どのキャラでも華麗に立ち回り、的確に攻撃を当て、咄嗟とっさにコンボも決める。ときどき実は高度なAIが操作しているのではないかと疑いたくなるほどなのだが、一番すごいと思ったことは攻撃を外さない、というところである。もちろんフェイントのための空振りはあるのだが、きっちりと当てたい攻撃は少なくともガードさせてくる。


 格闘ゲームは乱数で攻撃が外れる、ということはないので、外さないというのはつまり攻撃のリーチがしっかりとわかっているということだ。私は現実の格闘技をやっているのでよくわかるのだが、格闘技経験者と未経験者ではこの攻撃のリーチ、つまり間合いだとか制空権だとか言われるものの認識がまったく違う。


 自分の体格や身に着けた技術によって自分にとって適切な位置というものを理解することは戦う上でとても重要だ。格闘ゲームにおいてはどれほどプレイしてもキャラの性能は変わらないのでそれはつまりプレイヤー自身がキャラの間合いを理解してやる必要がある。戦闘をしている二人のキャラを横から見る格闘ゲームにおいてこれはかなり難しい。


 自分が殴られる方が大変そうに思えるが、人間の目は肉食動物と同じで横に二つ並んでいるので、立体視によって前後の感覚を捉えることは得意だ。攻撃の恐怖に慣れてしまえば難しくない。しかし横に並んだ二つのものの距離を測るのは思っている以上に難しい。ましてキャラは常に動き続けているのだ。


 これはゲームの経験を積み重ねてしっかりと二人のキャラの位置関係から自分のキャラが持つ攻撃のうちどれが届きどれが届かないかと常に読み取っているということだろう。これをいちいち考えていたら間違いなく頭が追いつかないだろうから格闘技と同じく感覚で読み取っているはずだ。


 これができるのとできないのでは実際の攻防において大きな違いを生み出してくる。まずはヒット確認の問題だ。相手に当たる距離であることがわかっているのなら空振りした後のことを考える必要がなくなる。つまりこの後起こることはヒットしたかガードされたかかわされたかの三種類だけ。当たらないかもしれないという結果を未然に回避することができるのだ。その内かわされた場合はたいてい仕切り直すか相手の攻撃を食らうのでこれもどうしようもない。


 つまりヒットすればコンボにガードされたら固めに、という二つのことだけを考えればいいので自然と反応速度も上がってくるはずだ。


 そしてもう一つは防御のとき、つまり牽制技を置いたり、暴れたりするときだ。牽制は長いリーチの技で先端部分を当てるほどいい。距離が離れると相手が見切りにくくなり不意打ちになり、反撃を受けにくいからだ。しかし先端を意識し過ぎて空振ってしまうと隙を晒すことになる。少なくとも相手にガードさせることができるなら攻撃の手を緩めることに繋がり、自然と自分のターンをとりやすくなっていく。切り返しや暴れの際も間合いの先端を当てるように出すことは仕切り直しがしやすく有効だ。そもそも格闘ゲームにおいてはリーチが長いほど隙が大きくなる傾向にあるので、適切な間合いの技を出すということは隙を最小限に抑えることにも繋がるのだ。


 ここまで考察してきたが、これはあくまで私が対戦した上級者を分析したものであって私自身はこれをまったく出来はしない。いつかあの高みまで辿り着いたときに、この考えが正しかったのかどうか知ることができるのだろう。

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