自分のリズムに合わせる、という話

 親愛なる読者の皆様は今、どんな状態でこの私のくだらないエッセイに付き合っていただいているのだろうか? パソコンに向かいながら、あるいはごろごろしながらスマホで、通勤通学中の電車やバスの中ということもあるだろう。


 その近くには、机や壁や、自分の膝なんかがあるだろう。

 それではそこを一定のリズムで十回叩いてみてほしい。


 さて、いかがだっただろうか?


 ここで私は一定の、としか修飾をしなかった。きっとおもいおもいの早さでリズムを刻んでくれただろう。その早さは意外にも個々人で大きく異なっているものである。


 たとえば私が今から同じことをしてみる。十回叩くまでにかかった時間は三秒六三だった。おそらく早い方だと思われる。気持ちが急いていることが多い人間なのでしかたない。


 人間の意識というものは綿々と続く巻物のようではなく、格子のように一定のリズムで明滅しているものだ。意識には必ず無意識が裏側に張りついていて、これを剥がすことは簡単なことではない。ならばこれをそこに存在するものとして、きちんと受け入れてしまう方がいい。


 この話のどこが格闘ゲームと繋がってくるのか。それはそのままゲームの速度に関わるのである。


 今知ったこのリズムに合わせて、自分のプレイするゲームやキャラクターを選んでみる、というのはどうだろうか。格闘ゲームはそのゲームデザインによって展開の早さが大きく異なる。リズムが早い人間は早いゲームを遅い人間は遅いゲームがもしかすると肌に合うかもしれない。


 またキャラクターによってもリズムが異なる。スピードタイプや鈍重なパワータイプなど、リズムが合うキャラクターという観点で選んでみると、思いがけず自分にしっくりとくるキャラが見つかるかもしれない。


 さらに細かな部分だと、コンボや防御にもかかわってくる。

 猶予〇フレームの高難易度コンボなのに、やけに簡単に感じて数回でできるようになってしまった、という経験はないだろうか? あるいはもっと早い中段も見切れるはずなのに、やたらと食らってしまう中段技がないだろうか?


 これは自分のリズムとコンボのタイミングが合っていたり、逆に中段技と自分のリズムが噛み合っていないために起こるのではないかと思う。自分の意識の裏側にある無意識の部分にちょうどそこが合致していると、目に見えていてもまったく動けない一瞬というものによって吸い込まれるように食らってしまうものだ。


 ならばどうすればいいのだろうか。それは自分自身のリズムを変えてしまうことだ。

 たった十回のリズムでも繰り返せば少しずつ変わっているはずだ。ほんのコンマ一秒、と思うかもしれないが、フレームなら六フレームだ。大きな差と言っていい。

 十で割ったとしてもコンマゼロ一秒。格ツクゲームならこれでも一フレーム変わったことになる。これでコンボが繋がったり繋がらなかったりするのだからいかに普段気の狂うようなことをしているのかが理解できる。


 ゲームをプレイする前にいつもと違うことをしてみるというのはどうだろうか。

 例えばコーヒーを飲む。よし、と声に出す。逆に無言で始める。

 たったこれだけで人間の意識は微妙に変化して、それが数フレームという格闘ゲームでしか認識しない単位の違いとして現れてくる。

 今までできていたことができなくなった、というときはいつも自分がやっていることを思い出してみるのもいいかもしれない。


 ここまで読み進めてきた、ということによっても、きっとあなたのリズムはもう変わっている。もう一度十回叩いてみるのはどうだろうか? これほど人間の中にあるリズムは繊細なものなのである。


 そういえば私の勝率がいいときは決まって小説を書きあげたときだ。完成したという高揚感が私のリズムにいい影響を与えているのだろう。ただその高揚感を得られるのは早くても月に一回程度。いいリズムの調整法があれば、もっと白星は増えるのかもしれない、などと考えてしまうのだ。

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