コンボをする、という話

 格闘ゲームのもっとも見ていてわかりやすい部分と言えばやはりコンボだろう。誰が見ても複雑な操作を失敗なくこなす姿はゲーマーというよりもアスリートに見えてくる。もちろんこれは誰もがすぐにできることではなく、多くの時間を費やして練習した先にようやくできるようになるものだ。このコンボが私はまったくできないのである。


 これに関しては原因は明確で単純に練習不足である。人によって格闘ゲームの魅力は異なり、トレモ勢などと呼ばれ、対戦よりもコンボ練習の方が好きだと言ってはばからない人もいるくらいなのだが、私はやはり対戦をしているときの方が好きだ。同じ操作を何度も繰り返すコンボ練習はついつい疎かになり、八割ほど成功しているなら大丈夫だろう、と早々に切り上げてしまう。これが大きな間違いである。


 コンボ練習はその名の通り練習なので、止まっている相手に対して順番にタイミングよくボタンを押し、コマンドを入れれば成立する。ヒット確認も必要なければ、〆の判断も必要ない。バーストのような防御システムに怯えることもない。心を落ち着けてコンボにだけ集中していればいい。


 しかし実際の対戦中となるとこうはいかない。上記の要素に加えて、まず始動技を当てるための刺し合いを制さなくてはいけないし、勝利という目的を持って対戦をしているとそうそうコンボだけに頭を割くことは難しい。たいていどこかで迷いやミスが出てコンボを完走できないまま落としてしまう。こうなるとダメージがとれないだけでなく、ひどいときは受け身が間に合った相手に反確までとられてしまう。これでは勝ちようがない。


 コンボ練習をするのなら完走率は百パーセントを目標にするのが間違いない。できないのならばコンボは妥協点を見つけていく方がいいだろう。練習ではうまくいっているのに対戦ではできないということがあるくらいなのに練習で完璧にならないものを実戦で使おうなどという方が間違っているのだ。


 そして妥協点を探していくと、私の場合はそれがどんどん下がっていくのである。中足波動レベルだけ出来れば十分か、と考えてしまうときもある。またキャラ限と呼ばれる当たり判定の大きなキャラには入るコンボだとか軽量級、中量級、重量級で途中のコンボルートを変えるだとか言われるともう投げ出したくなる。対戦中に相手のキャラがどんな特性をもっているかなどすぐに忘れてしまうのだ。


 ではコンボがどれほど重要か、というとこれははっきりとしていて読み合いで勝つ回数を減らせるという点で非常に重要である。じゃんけんに例えるなら二回勝てば勝利の相手と対戦するのに自分は四回勝たなければ勝利にならないと考えればどれほど辛いかということになる。刺し合いのリスクを下げられれば大胆な択を選んで相手に仕掛けることもでき、相対的に立ち回りにも影響してくるはずだ。


 そういうわけでコンボ練習というのは勝利に近づくために必要なことではなく、単純に近道でもある。さらにいえばコンボ練習は一人でも完璧になるまで練習ができるという意味でも重要なのだ。


 格闘ゲームのテクニックは山のようにあるが、それは結局のところ相手の行動に対して対抗するための技であり、それはやはり対戦で手痛くやられながら覚えていくものである。つまり対戦相手という存在がなければ完璧になるまで練習することは難しい。それに対してコンボ練習というのは自分との闘いなのでゲームを起動してトレーニングモードに入れば一人で延々と完成まで繰り返すことができる。特に同レベル帯が探しにくい初心者は一人で練習して強くなっていけるコンボ練習は精神的にも助かるだろう。


 結局のところコンボ練習をやる気にならない理由としては、私が格闘ゲームは負けても楽しい、と思っているからだろう。一人でコンボ練習をするくらいなら対戦をしてコンボを落としている方が楽しいのだ。それがたとえ勝利に繋がらなくてもだ。そういうわけでついついコンボは簡単なものばかりを選んでしまう。


 コンボというものは格闘ゲームからは切っても切り離せないものだ。そして多くの練習が必要という意味でゲームらしさを薄くしている要素でもあるだろう。なので私はあえて言いたい。楽しむための格闘ゲームにコンボ練習などいらない、と。


 とはいえそれが言い訳であることもわかっている。対戦のリプレイを見ながらここでコンボが完走できていればなぁ、と思い少しだけトレーニングモードへと向かうのだ。

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