ぶっぱなす、という話

 ぶっぱなすあるいはぶっぱなし、という言葉がある。これは当たる確証のない場面で大技を出すことを言うが、その他にも読み合いを拒否するために近づいてきた相手に無敵技を振るときなどにも用いる場合がある。省略してぶっぱと呼ばれるのが通例だろう。私はこのぶっぱが嫌いである。嫌いというよりも苦手と言った方が近いかもしれない。


 断っておくが、ぶっぱなしは悪いことではない。それゆえにぶっぱなしを多用するプレイヤーも行為自体も非難するつもりもない。さらに言うならば私がヴァンプリで使用しているサキというキャラは無敵昇竜や無敵の長い中段技、発生が早く空中ガード不可の超必とぶっぱなす要素がたくさんある。事実対戦中にぶっぱなしを行なうことは多々ある。


 ぶっぱなしは一見すると自暴自棄やリスク管理をしない雑なプレイと捉えられがちだが、実際はそうではない。ハイリスクローリターンでも読み合いに勝てばそれは勝利に近づくことに違いはない。ぶっぱなす、という行為をやるプレイヤーだと思わせることができれば読み合いに一つのくさびを打つことができる。相手の攻勢を削ぐ要因にもなりうる。立派な戦略であり、必要な行動なのだ。


 では私がこのぶっぱなしが嫌いなのは何故か、と問われるとそれは非常にゲーム的な行動だからである。ゲームをやっているんだからゲーム的な行動をして何が悪い、と言われればまったくその通りで返す言葉がない。これは私の性格に起因するところであり、いまいち私が格闘ゲームで強くなれない原因だろう。


 ぶっぱなしがゲーム的と言ったのはもちろん現実とのギャップによるものである。ゲームにおいて昇竜をぶっぱなして確反にフルコンボをもらったとしよう。自分のキャラの体力はゲームにもよるが三割ほど、ゲージが絡めば最大で七割ほどもっていかれるだろうか。かなり痛いしっぺ返しであることは間違いない。


 しかし現実に置き換えると大きな確反とはすなわち死である。無防備なところに相手のもっとも得意とする攻撃が飛んでくれば必然命に係わる。安全に配慮したスポーツ格闘技でも起こりうる。路上でのケンカであればなおさらだろう。この辺りがまったく関係ないと思っていながらも頭を過ぎるのである。残念ながら私はまだ格闘ゲームより格闘技の経験の方が長い。この脳の混乱はまだ直すのに時間がかかるだろう。


 それでも対戦中にぶっぱなすんでしょ、と思われる方もいるかもしれないが、これがまた厄介なのである。ぶっぱなしはその文字通り頭を空にして最速で行うからこそ意味がある。


「ぶっぱなす」と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ! つまり「ぶっぱなした」なら使ってもいいッ!


 という戦略なのである。


 相手の様子をある程度見てからだとか、相手がダッシュで走り込んできたらだとかよこしまな感情で少しでも勝率を上げようと画策すると、必ず遅れが生じる。それは相手がぶっぱを感じ取って様子見ガードを始めたり、ぶっぱが遅れて荒らすつもりが間に合わないという事態に発展する。そうなると、せっかくの戦略としてのぶっぱがまったく意味をなさなくなってしまうのだ。


 私はこれのせいで敗戦するケースが多いように感じる。直接的な原因にはなっていなくとも相手を抑制していなければ適切な対応がとりづらいし、勢いづいた相手を止める術がなくなってしまう。


 では逆に現実的でリスクの少ない戦略とはなんだろうか。それはバックステップである。現実の格闘においては拳銃でも隠し持っていない限り脚の長さより遠くに攻撃は届かない。その範囲から出てしまうのがもっとも安全な行為と言える。懐に潜り込む、という戦略もありうる。格闘ゲームにおいては遠距離キャラに対して基本的な対策として挙げられる行為だろう。これらは攻撃を受けるリスクを下げるだけでなく、自分の攻撃を当てやすくなるというメリットにも繋がる。それゆえにプレイヤーの熟練度が上がるほど格闘ゲームではキャラが攻撃せずに前後に歩くという姿をよく見かけるのである。


 ぶっぱなし、というのはすなわち裏の選択肢である。それゆえに過度に使用すると下手という非難を受けることも少なくない。しかしやはりまったく使わないのもこれもまた下手というより他にないのだ。実力差があれば別だが、私のように最下層から対戦相手を見上げているような立場では必要なときにはきちんと使っていくべき行為なのである。


 こうして文章にすれば少しは意識できるようになるかもしれないと思ったが、ここまで書いてきてやはり生来の性分はなんともし難いだろう、と薄々感じてきている。今日も私は画面端でガードをしながら思い出したように昇竜を撃ち、着地に痛い反撃をもらうのだろう。

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