自分を信じる、という話

 ゲームに限らず、勝負ごとに強い人というのは直接戦わなくてもなんとなくわかるものだ。ならそれはいったいどこから来ているのか、というとおそらく自信を持っているという部分だと思う。


 自分の考えをはっきりと口に出し、あるいは実践しているところを見ると、私のような半端人間はどこか気後れしてしまうものだ。そしてそれは一瞬一瞬に様々な選択を選び続ける格闘ゲームにおいて大きな差となって現れる。体力ゲージとは別に相手の精神を削るような立ち回りの根源はいったいどこにあるのだろうか。


 格ゲーにぼったくる、という言葉がある。普通の意味だと「法外な料金をとること、力ずくで奪い取ること」とあるが、格ゲーにおけるそれは「相手が知らないのをいいことに不利な技をガンガン使う」といった感じの意味になる。


 たとえばストリートファイターⅤにおけるリュウの波動拳はガード時-6F。中攻撃の発生が5~6Fなので密着からだと反確をとられる。竜巻旋風脚になると-10~13Fで密着なので強攻撃の反確も見えてくる。


 ではこれに反撃できるか、というと実際は難しい。以前にも話したが、6Fとは0.1秒。まったくの無意識から反応するのは難しい。それに中足キャンセルなどからだと波動拳を打たずに別の行動をする可能性もあるわけで、適当に暴れていいものでもない。


 特に初心者となればその可能性はさらに薄くなってくる。


 こういうときにどうすればいいだろうか。嘘をつかないデータを信じるのか、俺の信じる波動拳を信じるか。という話だ。


 強い人ほど自分を信じている、と対戦していて感じることが多い。こちらはこの連携をどうやって対処しようかと悪戦苦闘している間にも体力はみるみるうちに減っていく。ようやく対応できたところで次の手が襲いかかってくる。


 こう考えると強い人というのは何も波動拳を信じているわけではない。波動拳が破られたら昇竜拳。昇竜拳が破られたら真っ向勝負で自分が勝つと信じているのだ。


 つまりはフレーム表とにらめっこして隙間を埋めたり、トレーニングモードで練習を重ねて多くの手札を用意した結果、相手の強さを計るようにまずはぼったくりにくるのである。


 そんなことをしっかりとやっている人になんとなくで勝とうというのは無理というよりも失礼なのかもしれない。


 とはいえ自分もやらないことはない。不利フレームでの無敵暴れはもちろんのこと、反応が遅れればつかんでしまえるコマンド投げは初心者同士の対戦では猛威を振るう。


 ストⅤではアレックスの中フラッシュチョップはヒット時+3Fで立中Pと弱パワーボムが届くので打撃と投げの二択を迫ることができる。しかしガード時は-4Fで密着ではないので発生3~4Fの弱攻撃の先端が当たる程度と痛くはないが反確となっている。


 しかし、距離は同じである。つまり相手が日和って様子を見たり、とっさの反撃が遅れようものなら強引に吸い込んで投げたり、遅れた打撃の出がかりに立中Pを刺したりすることができる。


 反確をもらうのはもちろんのこと、不利フレームから何か攻撃をするということはカウンターヒットになって大きなダメージをもらうリスクがある。それでも画面上で動きとして自信があるようにふるまうことによって、「こいつは強いんじゃないか」と思わせることこそがこの動きの最も重要なポイントなのだ。


 この択が通れば相手は委縮して戦いを有利に進められるし、通らなかったとしても次はガードしたり無敵やアーマーのある技で相手の反撃に対応していけばいいのだ。そのために必要なことは対策の対策をしっかりと頭に入れて、対戦中でもすぐに思い出せるように心を落ち着けておくことだろう。


 とは言っても実際のところ格上との対戦が多い自分にとってはなかなか通してもらえないことも事実だ。少しくらいの不利は見ないふりをしてまずは前のめりに戦って相手の対応を見るくらいの余裕が欲しいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る