技を仕込む、という話

 勝つためにやらなければならないことはたくさんある。それはコンボの練習や立ち回り、キャラ対策の勉強といった対戦が始まる前から、対戦中も相手への対応、ゲージ管理に間合いといった細やかなポイントをまんべんなくこなしていく必要がある。


 その中にはやっているつもりでもできないものから、やっても効果がなかなか実感できないものまである。


 今回は対戦中にすぐ考えることをやめてしまう仕込みについて考えてみたい。


 仕込みとはとある行動中に別のコマンドを入力しておく、というテクニックだ。よく使われるのは遅らせグラップや必殺技仕込みだろうか。


 遅らせグラップはガードにグラップディフェンス(投げ抜け)を入れることで相手が攻撃していればガード。投げていれば投げ抜けができる。打撃と投げの両方に対応することができるというわけだ。


 これは二つの行動に対応できる、という利点があり、もちろんそれを読んでの対抗策があるということを除いてもやっておいて損はない。相手にバレるまでは毎回やっておいていいくらいのものだ。


 ただこれが面倒でしかたがない。ほぼ同時に二つの行動を入力するので手が忙しいのはもちろんのこと、二つ入力して対応するということは片方は必ず失敗した不要だった選択肢ということになる。


 どうしても勝ちたい、という人間にとっては毎回やって当然のことだが、楽しく格闘ゲームを、と思っているとどうしてもサボりたくなってしまう。


 たとえば牽制に必殺技を仕込む。これを置き技に仕込んでおくと、相手が近づいてきて攻撃がヒットすればそのままキャンセル必殺技が出て、当たっていなければ何も出ないので隙が小さくて済む、ということになる。


 立ち回りゲーで中攻撃の通常技の牽制は当たってもダメージはせいぜい10%弱。弱攻撃ならさらに少なくなる。かといってヒットストップの少ない技を単発でヒット確認するのは難しい。


 そこで攻撃が当たらない距離で牽制を振るときに相手が前進して当たったときのために必殺技キャンセルのタイミングで入力しておくのだ。そうすると当たったときにはキャンセルで必殺技が出てコンボになり、外れていれば、技の硬直中なのでキャンセルがかからず技が出ない、ということになる。


 コンボになればダメージが上がるだけでなく、ダウンをとって起き攻めに移行することもできるようになり、状況を勝ちへと引き寄せることができる。こちらも勝つためにはやった方がいいに違いない。


 だが、これが結構面倒だ。毎回必殺技のコマンドを入力するのは大変だし、そっちに気が向くと、肝心の立ち回りが疎かになる。さらに普段のキャンセルと違い、ヒットストップがないこともあって仕込んだはずの技が漏れてしまって不要な隙をさらすことにもなりかねない。


 そしてなによりもこれが面倒というのは倦怠感を生んでしまうのである。


 毎回レバーを入れていると、作業感が出てきて眠さも出てくるし、相手が様子見をしているとまったく効果が出てこないこともよくある。かといって置き牽制をやめれば相手の接近を許してしまう。


 こういうときはさっぱりと今日の対戦はやめにしてしまうくらいがいい。格闘ゲームは楽しくやるものであって、無理をしてまでやり続ける必要はない。またやりたくなったらやればいいのだ。


 とはいえたまにはどうしても勝ちたいと思える対戦はやってくるものだ。そのときは全力でひとつひとつ技を仕込んで、少しでも勝てるようにしなければならない。そのときまでには何も考えずともできるように毎日の繰り返しが大事になってくる。


 そう自分に言い聞かせつつも、やっぱり今日もサボってしまうのが0勝の理由のひとつなんだと思ってしまうのだ。

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