フェイントをかける、という話

 フェイント、という言葉を知らない読者はたぶんいないだろう。辞書によると、『スポーツで、相手を惑わす見せかけの動作のこと。牽制動作』とある。eスポーツたる格闘ゲームにおいてもこの行為はもちろん存在する。しかし、これが案外普通のスポーツと同じ感覚で使うと失敗するのだ。今回はそんな話をしてみよう。


 格闘ゲームのフェイントは主に崩しに使われる。つまり下段技を見せておいて中段技、あるいは投げ技を狙う。あるいは当たらない位置での牽制技を振り、様子見させて近寄るというものがこれにあたる。

 相手に一つの選択肢を見せつけることで、次に行う本当の崩しに対して迷いを生じさせるわけだ。ではスポーツにおけるフェイントとどこが違うのだろうか。


 いつものように格闘技、ではあまり伝わらないので、もっとメジャーなスポーツ、サッカーで考えてみよう。ドリブルしているところに前からディフェンダーが現れた。これに対して左右に体を振ったり、あえて味方とは別の方向を向いてパスを出したりするわけだ。


 これと格闘ゲームにおけるフェイントの違いはどこにあるだろうか。


 それは、相手との力関係である。


 サッカーにおいてはボールを持っている方が有利なことには間違いない。そのままではゴールに向かっていかれてしまう。そして、ボールをどうするかの主導権は攻めている側にある。相手が不用意な行動をすれば、そこをついて抜き去る。それがフェイントの意義である。


 それに対して格闘ゲームではフェイントはただの当たらない攻撃である。つまり突き詰めて考えるなら無駄な行動でしかないのである。しかもこの動作を基本的に途中で止めることはゲームのシステム上できないことになる。

 身も蓋もない言い方をすれば、まったく無意味な行動のために隙をさらし、相手に付け入る隙をわざわざ提供すると言い換えることができる。フェイントは心理的に攻撃するものではあるが、ゲーム上はフェイントをかける方が不利なのである。


 そのため格闘ゲームにおいてはフェイントは積極的にしかけるものではなく、リスクの低い行動のタイミングでゲームを有利に進めるために行わなくてはならない。ここが盲点なのだ。


 私自身、スポーツの感覚でフェイントをかけていたが、これをすると、少し慣れた相手には必ず隙を突かれて自分がダメージを受けている。現在は逆にまったくフェイントのタイミングを見失っている。現実は厳しい。


 では格闘ゲームにおけるフェイントのかけどころはどこなのか考えてみよう。

 まずはもっともわかりやすいのが起き攻めのタイミングだ。相手が倒れて自分は様々な行動をする時間がたっぷりある。たとえば全体動作の短い小足なら下段のフェイントとして簡単に振れるだろう。ダッシュで相手を押しておいて暴れを誘うというフェイントもできる。

 きちんと感覚をつかんでいれば、硬直の短い中段技を使ってみたり、投げシケを見せたりもできる。またあえて当たらない位置に持続の長い飛び道具を置き、ガードしようとした相手を投げる、といった行動も可能だろう。


 次に考えられるのが、遠距離での牽制だ。判定の強い技や持続の長い技を置くようにすれば相手は近づくことを躊躇ちゅうちょする。その間に自分が有利な距離に動くわけだ。飛び道具があるならさらに楽ができるだろう。

 この場合、強力な突進技を持った相手には簡単に振ることはできない。持続が長い技は裏を返せば動作時間が長いということだ。しっかり見てから入り込まれると一気に不利になる。

 逆に近距離が強いが近づくまでに苦労する投げキャラなどには積極的に牽制をしかけて近づかれないようにする。これも立派なフェイントだ。相手がれて強引に来るならば崩しが通ることも増えてくるだろう。突然判定の先端をつかまれないようにしたいところだ。


 さて、今回はスポーツと格闘ゲームのフェイントの違いについて考えてみた。eスポーツと言いつつも実際に動くのは人間ではなくキャラクターである以上ルールに従って動き、マラドーナのようなことはやってくれない。

 キャラクターの動きをしっかりと把握し、リスクの少ない場面できっちりと相手を翻弄してこそ、初めて上級者たちのいる攻防の頂が見えてくるのだろう。

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