中段が見えない、という話

 格闘ゲームには中段技と呼ばれるものがある。独特の呼称なのでイメージがつきにくいだろう。中段、真ん中あたりということでボディブローを思い浮かべるかもしれないが、それは違う。定義するならば「立ちガードはできるがしゃがみガードできない攻撃」ということになる。基本的にジャンプ攻撃がこれに当たる。他に地上中段技と言って、地上で立っている状態から上から打ち下ろすようなモーションの技や小さく飛び上がって放つ技はこれになっていることが多い(もちろん例外は数多くある)。


 2D格闘ゲームのガードはしゃがみが基本だ。相手がジャンプしない限りしゃがんでいれば打撃はガードできる。その例外となるのが、今述べた地上中段技なのだ。

 では見えないとはどういうことかというと、この中段技は発生(技が出るまでにかかる時間)が遅いのだ。人間の普通の反射速度はだいたい0.2秒と言われている。フレームに直すと12Fだ。中段技は一部を除けばだいたい20~30Fほどかかり、つまり技が出たことを確認してからしゃがみガード立ちガードに切り替えればガードができるということになる。


 では、それができるかと言われれば、私はまったくできないのである。見えていないのだ。


 まず数字上では20Fといってもそれはボタンが押された瞬間から計測したものである。キャラがちょっと腕を振り上げはじめたとか飛び上がるために少し膝を曲げたとか言われても認識することは難しい。腕を上げきったとき、キャラが飛び上がったときにようやく中段が来ると気付くのだ。そこからレバーを入れている物理的な時間も足すと、ガードできる時間はとうに過ぎ去っている。


 さらに相手はフェイントをかけてくる。何度も下段技(しゃがみガードはできるが立ちガードができない技。しゃがんだ状態での攻撃の半分くらいは下段技である)をガードさせて意識をそちらに向かわせてここぞとばかりに中段技を飛ばしてくるわけだ。またガード不能な投げ技もある。様々なパターンを頭に入れて行動しているので、反応が遅れるのは当然、ということになる。


 じゃあ強い奴はなんで見えるんだよ、という話になってくる。


 理由は様々にある。まずは単純な反射速度だ。早ければ早いほど対応が間に合う可能性は上がる。これはかなりの部分が才能にかかってくるだろう。では他にはどういうところを見ているのだろうか。


 まずは最初の方に話した人読みである。こいつはこの距離だと中段を振ってくる、という読みで意識をしておく。また知識による意識も必要になってくる。技には有利な距離や状況がある。コンボに繋がったり、相手の技をスカせたりというものだ。技の有効な距離がわかっていれば、それを選択肢に入れまた不利な選択肢を外すことも出来る。相手の立場になって考える、チェス盤をひっくり返すというやつである。これには自分の使っているキャラだけでなく相手の使っているキャラについても知っておく必要があるのだ。


 最後は経験によるものだ。何度も見た技なら出がかりのより早い段階で技を察知し、手慣れた動きで対応策をレバー入力することが出来る。あわよくばただのガードではなく、無敵技での割り込みや特殊なガードシステムを用いて一転攻勢、反撃にうって出ることも可能だろう。これをされると攻撃側は下手に中段が使えなくなり、攻撃のリズムまで狂わされてしまうのだ。そしてそのまま押し負けるということが往々おうおうにしてある。


 こうして文章にするとしっかりと整理できるのだが、実際にプレイしているときはそんなこと微塵も思っていない。相手が中段を振ってくるという状況はすなわち私が攻撃を必死にガードしているとき、目の前の様々な攻撃に対処しつつどうやってこの状況を打破するか、と考えているときなのだ。とりあえずレバーを斜め後ろに入れて頭を冷やそう、そんな甘い考えをあざわらうかのように中段技というやつは忌々いまいましくも私のキャラの頭をどつくのである。


 やはり目で追っていてはいつまでもガードできない。そんなことを考えながら相手の華麗なコンボをぼんやりと見続けることしかできないのだ。

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