布石を打つ、という話

 格闘ゲームは読み合いが重要だという話は何度もしてきているが、それはつまり相手を騙したり意識を偏らせたりすることで自分が有利に試合を運べるということでもある。格ツクゲームではプレイヤーが少ない関係上、同じ人と連戦することもあり、この布石を序盤に打っておくことで中終盤に相手に苦しい読みを強いることができる。


 例えるならば野球の内角球のようなものだろうか。内側を意識させてからアウトローに投げ込むと見逃しがとりやすくなる、というと少しは伝わるだろうか。


 では格闘ゲームにおける内角球とはなんだろうか。ある日の対戦で私は前日から久しぶりに『ストリートファイターⅢ 3rdSTRIKE(通称3rd)』をプレイしており、いつもと大きく立ち回りが変わっていた。というのも3rdはブロッキングや移動投げの存在の関係で非常に投げの性能が高く、とにかくまずは投げる、というのが戦術の基本になっている。そういうこともあってその日は序盤から崩しに投げを多用していたのだ。


 投げというのはほとんどのゲームで発生が早く、見てから反応することはできないので読んでジャンプするかグラップディフェンスするか投げ無敵技を振るかということになり、早め早めの対策を考えなくてはならない。序盤から投げを何度も通されてしまうとつい投げが入る距離ではないかと意識がそちらに向いてしまう。


 そうするとどうだろう。中盤から下段や中段による打撃の崩しが易々と通っていく。ゲームにもよるがヴァンプリでは投げよりも打撃の方が当たったときのダメージが高く、打撃の崩しが通れば有利に対戦を運ぶことができる。その日は戦績も悪くなく、余裕をもって勝利する対戦が多くあった。


 これが布石を打つということだろう、と私は理解している。序盤投げをうまく使えていたからこそ後で楽ができたのだ。投げだけではない。徹底して下段技を振り続けて相手にしゃがみガードをさせてから中段技を振ることもまた布石である。狙いとは別の攻撃を続けることによってうまく試合を運ぶのは格闘ゲームに限らず様々なスポーツで行われていることだろう。


 しかし、もちろんリスクもある。たいてい対戦中は一番リスクの高い攻撃をもらうのを避けようとするはずだ。つまり布石を打つときの技は自然と攻撃が通ってもダメージの少ない選択肢ということになる。つまり対戦の序盤にはダメージレースで負けがちになってしまう危険性がある。対戦が短ければ後から返ってくるリターンに対して割に合わないかもしれない。対戦数が少なければ悠長にしている間に対戦が終わってしまう。


 つまり突き詰めるなら前の崩しの対策では意味を為さない択をとって崩していき、逆を読んでくる頃になったら今度はあえて同じ崩しを重ねる、というように裏の裏をかいていくのが理想ということになる。私は器用貧乏なキャラクターが好きなので複数の択をしっかりと取っていかなければ勝利は遠のいていくだろう。


 こうして突き詰めていくと、格ゲーは運ゲーである、と言われる部分が見えてくる。相手が何を出すかというのは相手にしかわからない。それに対して対策ははっきりしているので結局対策が当たるかどうかということになっていく。もちろん対策を正確に入力できるかという点や見てから反応することができる択をしっかりと見るという部分が絡んでくるので技術によってかなりの部分でリスクを減らすことができる。そこに到達するまでには当然ながら練習が必要になってくる。


 まったく気が遠くなるような話だ。攻めていても守っていても頭は常にフル回転していなければならない。なんとも疲れる趣味である。それでも終わった後には失敗したことを反省し次の対戦ではどうしようかとついつい考えてしまう。出来なかったことが次回にできるようになっていくとまた格闘ゲームが楽しくなってしまうのだ。


 惜しむらくは気分転換にはなっても休憩にはならないことだろうか。連戦を終えた翌日はすっかり頭が疲れていて執筆にも影響が出てしまうのはどうにかしたいところだ。

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