0勝上等! ヘタクソ格ゲー戦記

神坂 理樹人

はじめに

 こうして日々小説を書いていると、つまりは趣味は執筆なんだろう、という声が聞こえてきそうではあるが、実際のところ必ずしもそうとは言えない。もちろん執筆は大好物であり、暇さえあれば何か面白い発想はないかと考えているのではあるが、それだけではいつか嫌になってしまうだろう。


 執筆は趣味の範囲で言えば筋トレによく似ている。アイデアが思いつかないと首を捻って言葉を絞り出し、更新を宣言したからと自分で自分を追い込む。そして完成した作品を読んで自分を褒め称えるのである。言い換えるならば執筆という趣味はかなり能動的であり、違う世界に分け入っていくという点において部屋にいながらにしてアウトドアな趣味と言えるだろう。そういうわけで非常に体力あるいは精神力をすり減らしながら達成感や承認欲求を満たすものとなっている。


 しかし、こればかりでは心が休まらない。十万字近い作品を完成させようとすれば、遅筆の私には一ヶ月、二ヶ月さらに長い期間も時には必要になる。もちろんウェブ上で読者の動向を認識し、感想や応援の声をもらえば力になるとはいえ、未完の作品は未完である。完成に最後の句点を打ち込んで初めて大きな喜びを得られるものだ。この間の陰鬱いんうつとした感情、つまりはこの作品は面白くないのではないか、すでに破綻しているのではないのかという不安と闘い続けるのは書き続けるという上でもよろしくない。自然、他の趣味もできてくる。


 それが私の場合、格闘ゲームということになる。一世を風靡ふうびした格闘ゲームブームにまったく乗らず、当時はRPGばかりをプレイしていたが、多忙になるにつれストーリーを追いかけながらプレイしなくてはならないRPGは長期間プレイが滞るとすっかり話を忘れてしまってそれっきりということも起こる。子どもの頃にはあれほど熱中していたものだというのに。


 そうして辿り着いたのが、一戦が短く大きなストーリーもなく達成感を得られる格闘ゲームというわけだ。


 しかしゲームが好きな皆様はご存じのとおりと思われるが、格闘ゲームはゲーム界でも修羅の国だの魔境だのと形容される場所である。長年の経験とたゆまぬ修練を続けてきた猛者がとても人間業とは思えぬ手さばきで画面の向こう側に分身を作っているかのようにプレイする。インターネットの普及により初心者同士の対戦も簡単になったとはいえ、まだまだ練習と実践を繰り返しては自分自身に磨きをかけていく。そんな世界である。


 なんと執筆と同じく自分を追い込む趣味ではないか。まったく気が休まらないではないか。それなのになぜか今日もプレイしてしまう。そんな不思議な魅力がある。執筆は失敗したと感じればそれだけでこの世から作品を抹消したくなるが、格闘ゲームはどうにも負けの中にも楽しみを見つけることができる。それはおそらく自分の敗北すなわち相手の勝利であり、相手の鮮やかなプレイを見て私は楽しんでいるのだろう。


 このエッセイの中では勝っても負けても楽しめる格闘ゲームの魅力を紹介し、私の勝利の余韻を書き殴り、敗北の言い訳を並べ立て、このエッセイを読んだ多くの人に格闘ゲームをプレイしてもらいたいと願っている。

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