格ゲーを見る、という話

 近年はeスポーツの名前もずいぶんと知れ渡って、世界各地で大会が開かれていることも伝わりやすくなった。ストリーミングも活発で、トッププロの試合をYoutubeやTwitchで簡単に見ることができる。


 まさにフィジカルスポーツ観戦と同じで、こういった動きがもっと広まってほしいと思う反面、やはり広がるのは難しいんじゃないか、と思うときもある。今回は格ゲーマーは観戦中どこを見ているかについて話をしたい。


 最近プレイしているストリートファイターV(以下SFV)は、2D格闘ゲームでは今一番プレイ人口が多いゲームと言っていいだろう。また日本人が特に強いゲームなので、とりあえず日本選手を長く応援できる、という点でも格ゲー観戦初心者にもオススメしやすい。


 ただ観戦していて思うのは、格闘ゲームはただ見ていても面白さが伝わりにくい、ということだ。


 格闘ゲームは派手なコンボや演出が入る超必殺技など、見た目にも楽しい部分はあるが、やはりトッププロの読みとそれを通すための立ち回りに洗練された技術を見ることができるのが最大の面白さだろう。


 この面白さを理解するためには、その格闘ゲームそのものへの理解が必要になってくるのだ。


 たとえば野球を見ていて、ピッチャーが160km/h近いボールを投げたり、ドームの観客席上段にまで届くホームランを見れば、誰でもすごいと感動するはずだ。


 しかし、キャッチャーのリードによる配球やワンアウト三塁のランナーの動きと守備のシフトの駆け引きなんかはしっかりと野球を理解していなければ見ていてもすぐにはわからない。


 格闘ゲームの面白さはこのテクニックとそれを利用する場面が的確にわからなければ、どういう読み合いが起きて、選手がどういう選択をしたのかがわかりにくいのだ。


 さらに言うと、格闘ゲームには視聴していてフィジカル的なインパクトはない、というのも難点だ。


 野球の例えなら、ボールを150km/hで投げることなど多くの人には不可能だ。体力下り坂の男なら、100km/hですら投げるのは難しい。


 しかし、格闘ゲームは画面の向こうで起きていることだ。手から炎や雷や波動拳を出そうが、空中で軌道を変えてダッシュしようが、ゲームだから、と納得できてしまう。動きそのものに感動するようなインパクトはないのだ。


 さらに言えば波動拳はコマンド入力ができれば誰でも同じものを出せてしまう。プロの波動拳は威力が高い、隙が少ないということはない。『どうしてそこで波動拳を撃ったのか』『何故その波動拳が当たるのか』に凄さが凝縮されているのだ。それを理解するのは簡単ではない。


 また格闘ゲームの対戦はリアルタイムでどんどん試合が展開していくため、実況や解説が追いつかない。カードゲームのように思考する時間があったりするわけではないので、読み合いが常に連続で起きているのに観戦者がついていく必要がある。


 自分で理解して楽しまなければ、対戦を見ていても地味な小技始動のコンボばかりが見えるだけになってしまうのだ。


 このゲームの理解にはだいたい半年はかかると思う。ヘタクソとはいえ格ゲー経験者の私がそう感じるのだから、格ゲーをやったことがないともっとかかるかもしれない。


 他のゲームの知識があってもゲームごとにシステムの違いなどから定石が変わり、すぐに理解するのは難しい。


 今の私のレベルで感じるSFVの対戦の見どころは、投げシケ狩り(シミー)とクラカン対応強攻撃の置き、刺しかえしではないかと思う。せっかくなのでこの二つのテクニックを紹介するので、SFVの対戦を見てみてほしい。


 シミーとは、相手のグラップ(投げ抜け)を読んで距離をとり、投げが漏れたところの硬直に打撃を刺す、というテクニックだ。SFシリーズは3から遅らせグラップという打撃と投げ両方に広く対応できるテクニックがあり、守り側の強い択として存在していた。


 SFVではここにメスが入り、以前は遅らせグラップは弱Pや弱Kが漏れていたが、投げが漏れるようになった。つまり失敗したときの隙が大きくなったのである。


 そこで起き攻めや当て投げ狙いと見せかけた弱攻撃の後、あえて後ろに歩くことで投げ間合いから出て投げシケを誘い、その硬直に攻撃を入れる、というテクニックが生まれた。


 攻めているときに急に攻撃の手を止めるので、知らないと消極的に見えるが、無敵暴れにも勝てるので、攻防一体の重要な攻めだ。しかし後ろに歩いて投げ間合いから離れるだけの時間が必要なので、密着からではなくやや離れた場所から行うのでわかりにくい。


 もちろん投げシケを恐れてグラップしない相手を投げる、という裏択もあるので、その攻防に注目してみてもらいたい。


 もう一つの置き、刺し返しは解説するまでもないと思う。格ゲーの基本である相手のダッシュや牽制を潰すように攻撃を先に出しておくことを置き、相手の置いた牽制の隙に攻撃を当てることを刺し返しという。


 ここにSFVのリターンが絡んでくる。一部の強攻撃にはクラッシュカウンター属性というものがあり、カウンターヒット時に普段よりのけ反りが大きくなって高威力のコンボが入る技がある。ただし当然だが強攻撃ゆえに隙も大きく、適当に振っても発生前を潰されたり、ガード後に確反をもらったりする。


 しかし、リターンを考えれば振れるとき振っておくことが重要だ。相手との間合い、弱P弱Kによる置き牽制、完璧な対空。


 そういった堅実な行動で相手を縛り上げ、当たりそうな場所で強攻撃を振る。強攻撃を恐れさせることができればまた相手の行動を制限できる。


 自分で対戦していると、頭で思っていても画面上ではできなくてイライラするときもある。いらだったり疲れていたりするときは動きも悪くなって、よけいにイライラしてくるものだ。そういうときはプロの対戦を見て参考にすると同時に、格闘ゲームをやっていたからこそこの面白さがわかるのだ、と自分を納得させている。

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