我慢する、という話

 ボクシングの試合を見ていると、セコンドから

「もっと手を出せ! 足を動かせ!」

 という指示が飛んでいるのが聞こえてくる。


 格闘技においては先手必勝。たくさん動いて翻弄し、たくさん殴って相手を追い込んでいくのが定石となっている。パンチを一発撃ち込まれればクリーンヒットはもちろん、ガードの上からでも体力は奪われるし、どんどんコーナーに押し込まれていく。


 そういうわけで格闘技では手数を出した方がいい、というのが普通の考え方だ。


 それに比べて格ゲーはどうだろうか。


 攻撃ごとに有利不利のフレーム差があり、技によっては反確もある。ヒット、ガードを問わず攻撃にはノックバックが発生して、両者の距離は少しずつ離れていく。画面端はあるが、追いこまれてもガードキャンセルや無敵技などの切り返し技が用意されている。


 格ゲーはあくまでゲームなので、一方的な展開ばかりにならないようにシステム上で様々な配慮がなされているのだ。現実を完全に再現していたら2メートルを超える格闘家に女性や子どもが勝てるはずもないのだから当たり前と言えば当たり前だ。


 そういうわけで、格ゲーには格闘技にはない戦術が存在する。その一つがガンガードである。手を出したいところをぐっとこらえて、守りに徹するのだ。


 相手の出方をしっかりと見て中下段の崩しを見切り、グラップを仕込み、有利をとって反撃に出る。徹底できればこれほど怖い相手もいない。


 波動昇竜や待ちガイルといったいわゆる「飛ばせて落とす」との一番の違いは完全に受動になること、そしてあくまで展開の中の一つの戦術であって、これ一辺倒では勝てないところだ。


 ガードしかしていなければ削りダメージでどんどん体力が削れてダメージレースで負けてしまう。相手の苛烈な攻めの間、暴れずじっと我慢する。虎視眈々と逆転の一撃を待つスタイルは古流空手を思わせる。


 もちろん完遂するには反射神経だけでなく、確定反撃をとる練習をしたり、経験を積んで相手の行動を咎める読みの鋭さも必要になってくる。


 どうしても格闘と聞くと相手を攻撃することの方に意識が向いてしまう。そもそも格ゲーマーは攻めているときの方が好きな人も多い。そういうわけで特に初心者から初級者の間では子どものケンカのような殴り合いになることも少なくない。


 そういう試合ではダメージの高いコンボの始動が入った方が勝つ、つまり「事故った」試合が増えてくる。こうなると負けた原因もあいまいになって、成長に繋がりにくくなってしまう。


 では、ガンガードをするべきポイントはいったいどこだろうか。


 自分が不利な時ほど暴れず我慢するのだから、一番多い場面はやはり被起き攻めのタイミングだろう。


 こちらはダウンしていて何もできない間に、相手はジャンプ、地上中段、設置飛び道具といった時間のかかる攻めを安全に展開できる。もちろんその裏となる下段や投げも密着から仕掛けることが可能だ。キャラや状況によってはリバーサル無敵をガードできる詐欺飛びもしかけられるかもしれない。


 こういうときこそ落ち着いて、レバーを斜め後ろに入れて相手の出方をうかがいたい。起き攻めはしかける側も有利な展開を続けようと攻め気が上がっている。その裏をかくように無敵技で暴れることも可能ではあるが、そうすると相手がどんな起き攻めをしかけてきたのかわからなくなってしまう。


 それから、相手の有利連携のときだ。有利不利はしっかり覚えないとわからないので、知識を身につけてからでないとわからないが、しっかりと有利のとれる技を振ってくる相手は暴れ潰しも仕込んでいることが多い。


 下手な暴れは傷口を広げることになりかねない。逆に固めているように見えて、実は隙間だらけの連携をしているときもある。そういうときは割り込みポイントを見極めて、相手の手癖に割り込んでいきたい。


 最後に忘れがちな中~遠距離での牽制合戦だ。ダッシュで接近されるのは怖いが、だからといって当たりもしない技を振り回していると火力の高いコンボ始動であるジャンプ攻撃を通してしまうことになる。


 ウロチョロと前後に歩きつつも、しっかりと上を見て対空を意識するのも立派なガンガード戦術の一つではないか、と思うのだ。


 格ゲーでは相手の癖や得意なコンボや展開を知ることは重要だ。暴れはその機会をみすみす逃してしまうことになる。特に三本先取や十本先取といった連続して同じ相手と対戦するときは情報を手に入れることはさらに重要になってくる。


 自分に有利な展開を作っていくことも重要だが、体力の残っているうちに相手の情報を手に入れ、そこに対策を打つ、というのは格闘技というより近代戦争の様相を呈してくるように感じられる。


 たまにはボタンを押す手を止めて、相手の動きをじっくり見ることもまた格ゲーの楽しさの一つではないかと思うのだ。

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