飛んでいる敵を落とす、という話Ⅱ

 ここまでは対空に使える技、という部分で話をしてきたが、これがゲームごとに違うシステムによって対空が読み合いに発展することになる。たとえばこれが『ストⅡ』ならば、飛んでいるキャラは攻撃以外の行動の選択肢がないため、対空されると技が当たるか反撃されるかの二択になってしまう。昇竜が間に合えば、ほぼ百パーセント対空した側が勝つと言ってもいい。


 しかし現在の格闘ゲームの多くは空中でもさまざまな行動パターンが用意されており、対空攻撃を読んで手痛い反撃を狙ってくる場合がある。こうなってくるとどちらかがジャンプするだけで読み合いが発生し、単純に反応だけで対空技を振っていくことはできなくなる。


 その最たる例が特殊ガードである。有名なものはやはり『ストⅢ』のブロッキングだろう。これはレバーを前に入れることで相手の攻撃を無効化しつつガード硬直を短くする、というシステムで他の格闘ゲームでもジャストディフェンスや弾き、リフレクトガードといったコマンドや効果の大小はあるものの似たようなシステムは多く存在する。


 これによって、相手の対空攻撃を読んで攻撃を無効化しつつ、無防備になった相手に改めて攻撃を加える、という戦術が生まれる。リスクは高いがリターンも大きく、一度通されると対空攻撃に迷いが生じて、今度は本命のジャンプ攻撃を通されるということも多くなってくる。対空は安定行動とは言えなくなってくるわけだ。


 そういうときに役立つのが「潜る」とか「くぐる」いうテクニックである。これは名前の通り相手がジャンプしたときに攻撃でもジャンプでもなく「前にダッシュあるいはステップする」というものである。システムや技に前転のような無敵移動技があるキャラならば、さらに安全に行えるだろう。本来いるはずの場所に相手がいなくなるので攻撃は当然外れ、無防備な背中から攻撃を受けることになる。格闘ゲームでは背中から受けるとダメージが増えるということは基本的にないが、ガードしにくくなることは間違いない。


 相手の攻撃が当たらないので行動を見てからこちらも対応策を狙うことができるし、打点の低い技でも対空しやすくなる。特に着地に下段を合わせるような使い方をすると、普段の飛び込みでは頭にない下段技なので当たりやすいように感じる。


 ただこれは浅めの飛び込みには使えないのでそういう時はリスクを避けてバックステップしてしまうのも一つの手段である。長い無敵時間があるものが多く、距離も離れるのでリスクを軽減でき、相手が攻撃していれば着地硬直に反撃できる場合もある。特に飛び込みというのは相手との距離を近づけるために行われる攻撃なので、距離が詰められなかったならば対空としては成功している、と言ってもいいかもしれない。


 さてここまで長々と語るほどどうして対空が好きなのか、と聞かれれば、それは「地味だが派手」な場面だからだ。一見矛盾しているようだがそうではない。格闘ゲームに存在する面白さの地味な部分と派手な部分が同時に楽しめるからなのだ。


 対空という場面は対戦中で見れば幾度となく起こる読み合いの一合に過ぎない。特別決死の覚悟で行われる行為でもなければ、守る側もそれほど大きなリスクを背負っているわけではない。ともすれば見逃してしまうようなものではあるが、これは私が何度も語ってきた読み合いの一合であることに違いはない。選択肢も多く存在し、ただ技を振ればいいというものでもない。そういう意味でこの対空の一場面には格闘ゲームの面白さの地味な部分が詰まっていると言えるだろう。


 そして対空は飛び込んできた相手を追い返すという性質上、成功するとたいていの場合相手が吹き飛んでいくのである。格闘ゲームの派手な面白さというのは華麗なコンボや演出の入った超必殺技に目が行きがちではあるが、この吹き飛ぶという部分が大切なのだ。


 読み合いに勝った場合、勝った側の意識はすぐに次の段階に移る。つまりコンボを始めるための技選択あるいは起き攻めなど次の択を選ぶ部分である。それに対して対空は相手が吹き飛び、一ヒットであればそのまま空中で受け身をとって結果ほぼ五分ということになりやすい。つまり自分の対空が成功し、相手が吹き飛ぶ様を感慨深く眺めていても許される時間なのだ。


 誰の目にも明らかな自分が読み合いに勝ったという証。これこそが格闘ゲームの派手な面白さと言わずして何を言おうかというものだ。


 もちろん勝利を目指すのであればその瞬間にゲージ状況を確認し、少しでも有利に立ち回れるように飛び道具で固めたりダッシュで近づくべきだろう。しかし対戦における勝利など二の次にしたくなる。そういう魅力が対空という一瞬に詰め込まれているのだ。

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