負け筋を潰す、という話

 私が格ゲーマーであることは散々これまで述べてきたが、他のジャンルのゲームはやらないのか、と聞かれると答えはノー、である。どのジャンルでもたいてい下手と普通の中間あたりをさまよっている身ではあるが、たいてい楽しくプレイしている。さて、格闘ゲーム以外でも対人戦、つまり人間相手に読み合いをして勝負するゲームは多数存在する。そういうゲームはある程度運が絡む代わりに格闘ゲームと違ってゆっくりと思考を巡らせることができる。そういったジャンルのセオリーから格闘ゲームの戦いに活かせないか、と今回は考えてみよう。


 負け筋を潰す、という言葉を聞いたことがあるだろうか。この言葉を私が初めて聞いたのは『ポケットモンスター』シリーズの対戦をネット記事で学んでいるときだった。後にカードゲームに触れたときにも聞いた。要するに「これをすれば勝てるという行動よりこれをしないと負けるという行動を優先する」ということだ。とかく相手の持っているカードやモンスターがわからない状態で対戦する以上、常に最悪の事態を想定して行動するのが真の強者ということだろう。たぶん孫子にもそう書いてある。


 では格闘ゲームにおける一つの場面を使って考えてみよう。お互いの体力が一割弱。自分は起き攻めをしかけられているところだ。あなたのキャラクターは都合よく昇竜(無敵技)を使うことができる。さて、ここであなたはどんな行動を選択するだろうか。


 どうすれば勝てるか、と考えると昇竜を撃って当てることができれば勝つことができる。それ以外に投げ暴れも択に入ってくるだろう。逆にどうすれば負けないかと考えると相手の攻撃を受けないことが必要なので、バックステップやガードをして打撃を防ぐ、グラップ、垂直ジャンプをして投げをかわすという選択肢になってくるだろう。ただこれは非常に単純な計算だ。


 さらに負けない択を狭めてみよう。体力は一割程度残っているので、弱攻撃の連打や中攻撃単発ならば喰らってもいいということになる。そこからコンボが伸びて一割ダメージは十分あり得るが、もし相手キャラがコンボ伸びないという状態ならば弱攻撃は思い切って択から捨ててしまう。たとえば投げ無敵がある中攻撃が選択肢に入ってくる。投げを抜けつつ一撃で倒される強攻撃より発生が早い、という具合だ。もちろん反確があってはならないが。


 こうして考えてみると負け筋を潰す、という行為はあまり格闘ゲームには活かせないように思えてくる。カードゲームのような読み合いは基本的に様々なアド(アドバンテージ。有利な状況)をとっていくゲームである。読み合いに勝つとゲームはどんどん有利に展開していくのである。それに対して格闘ゲームではせいぜい体力差がつくことと起き攻めが一回できる程度で、それも次の読み合いでカードゲームと比べると簡単にひっくり返すことができる。前述した状況ならリスクリターンの差を考えれば昇竜はあまりにも博打ばくちと言わざるを得ないが、それでも友人同士で楽しく対戦しているくらいのレベルならあっても笑いあえるレベルの読みである。まったくもって無意味ということはない。


 負け筋を潰すという行動は格闘ゲームにおいては基本的に最終段階で守りを固める戦法になる。そもそも格闘ゲームにおいては自分の行動と相手の行動はすべてお互いに把握することができる。手札もデッキも公開されているようなものである。その状態で想定される最悪の状態というものは相手にとっての最高の攻撃であり、誰もが自然と警戒していることである。これではあまり戦術の足しにはならないだろう。


 しかし自分の戦いを思い出してみると、意外とこれができていないのではないか、と思う。最悪の事態というのは何も防御側にのみ起きうることではない。常に読み合いが発生する格闘ゲームでは攻めるときにもしっかりと相手の反撃を想定する必要がある。こちらが体力で有利にあるのに届かない牽制を置いたり、飛び込む必要はない。時間切れで勝てるのだからわざわざ隙を晒す必要はないのだ。しっかりと相手の出方を窺いながら焦れて攻撃してきたところをしっかり追い返してやればいいのだ。攻撃を通されて体力を逆転されてから攻撃を焦りはじめればいい。


 結局のところ負けない立ち回りというのは隙を晒さない、という意味ではとても重要なことだ。とはいえ私はゲームを楽しむうえで歩き合いは大嫌いである。お互いに距離を測りながらうろうろとしているとつい前ダッシュを仕掛けたり飛びにいってしまう。かといって攻めが強いキャラを使いたがるかというとそうでもなく、攻め続けていると疲れてしまうのだ。楽しみながらゲームを続けるならはやはりなんでもできる器用貧乏なキャラに限る、と私は思っている。そういうキャラならばいっそう状況を判断して適切な行動を選ぶべきなのだが。

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