テクニカルキャラを使う、という話

 格ツクゲーに加えて『ブレイブルー』をプレイしているという話は以前にも書いたが、現在私はカルル=クローバーを練習中である。そう、あのカルルである。個性の強いブレイブルーの中でもトップクラスにクセが強く操作難易度の高いキャラクターだ。


 ブレイブルーをプレイした人なら、なんでヘタクソがカルル使ってんだよ、と言いたくなるところだと思うが、テクニカルキャラというのは実はヘタクソに優しいキャラでもあるのだ。それについて少し考えてみたい。


 まずこのカルルというキャラだが、カルル自身とニルヴァーナ(ロボットみたいな兵器。通称姉)の二体のキャラを同時に操作して二対一の形で勝負する、という一風変わったキャラである。またそれぞれの行動は干渉しあわないので本体と同時に姉が攻撃、あるいは本体硬直中に姉がフォローといった他のキャラにはない動きがたくさん見られる。


 どうしてカルルを使おうと思ったかというと、元々ヴァンガードプリンセスが本体とサポートの二キャラを扱うゲームなのでカルルをやってみては、というアドバイスをもとに始めたのだ。どちらかと言うとヴァンプリの挙動はレリウスの方が近いのだが、サポート性能は姉の方がいいということで、カルルを選んだ。もちろん外見も大きく影響を与えたのは言うまでもない。


 一対一を想定している格闘ゲームで二キャラが画面上に存在するというのはまずプレイヤー両者に違和感を与え、また処理する情報量を増やすのでとにかく大変である。また姉に頼りすぎるとゲージがなくなって一時的に機能を停止してしまうので、使い放題というわけにもいかず、この管理も大変だ。


 さらに姉は操作しなければその場から動かないので、一つのレバーで二キャラの移動を同時に行うというめちゃくちゃな入力精度を要求される。ただ歩くだけでも最初は思い通りにいかないほどなのだ。


 この難しさからか、steam版のブレイブルーでは四月一〇日現在でランキングに載っているカルルは七八人という状態だった。PS版と比べればプレイ人口が少ないとはいえ、いかにプレイするだけでも大変かという証左だろう。


 では、そんなテクニカルキャラ、あるいは職人キャラなどと呼称されるキャラクターがどうして格ゲー下手を自称する私にとって優しいのだろうか?


 私の言う格ゲー下手とはすなわち格ゲー力がない、定石をきちんと実行できないことだという話は以前に触れた。距離や相手との位置関係によって出すと有利な技は決まっており、それが適切に選べないと不利な戦いを強いられてしまう。


 だが、こういうテクニカルキャラにはその定石が当てはまらないことが多いのだ。


 そもそもテクニカルキャラのコンセプトは操作がとても難しい代わりにその能力をしっかりと発揮できれば性能はトップクラス、というものだ。格闘ゲームは人間対人間を想定しているので、当然ミスも起こりうると考えられている。いかにトッププレイヤーとは言っても終始ミスのないプレイができるわけではない。


 それゆえにきちんと操作さえできれば、他のキャラクターでは絶対にありえない状況を簡単に作り上げることができる。それはつまり定石が通用しない場面であり、こうなると格ゲー力の勝負という盤面は簡単にひっくり返されてしまうことになるのだ。


 某マンガのセリフを借りるなら、『バカとザコこそテクキャラを使え!』といったところだろうか。


 ではカルルを例に挙げて少し考えてみよう。


 たとえば密着状態。小技や投げが有利な場面になる。しかしカルルには第三の選択肢として姉でとりあえず殴る、というものが生まれる。本体はローリスクにチキンガード(空中でバリアを張ること。ほとんどの攻撃をガードできる)やバックステップをしながら、相手にとりあえず攻撃を加える、ということができる。


 ガードさせれば、それだけで大幅に有利。当たればそこからコンボも見えてくる。相手としては小技や投げをかわしながら殴られるリスクを背負い、またガードしたところで自分には不利な状況が続く。この場合は対策としてチキガ狩りの空中投げやバックステップ狩りの中攻撃を出すことになり、定石から外れた行動をする必要が出てくる。もちろんリスクも高くなる。


 カルルの真骨頂である起き攻めになってくるとその理不尽さはさらに増してくる。起き上がりに姉の攻撃が置いてあるというだけで、相手は緊急受け身を強要されるというだけで辛いのに、そこからとりあえずガードをしてカルル本体の崩しを一回以上ガードしなくてはならない。


 投げや小技による暴れはまったく通用しないので、暴れは無敵技のみ、それもカルルが遠くにいるときは安易に振れるものではない。もちろん対カルルの定石が積みあがっていることには間違いないが、専用の対策を強いれるというだけでも格ゲー下手には優しいものだ。


 もう一つ、単純な硬直差が変わってくる、という点でもテクニカルキャラは格ゲー下手に優しい。本体の硬直を姉がフォローする、ということはつまり大きな不利がつく技を使っても姉の追撃で容易に隙を消すことができるということになる。


 基本的に大きく不利がつく技というのは判定が強かったりダメージが高かったりとできれば当てたい技であることが多い。本来なら有利がとれる技やダウンをとってリスクを下げて振る技を突発的に出すことができるというのは大きな強みであり、またなんとなくで振ってしまった場合でも不利にならない、というのはやはり定石の埒外らちがいに相手を連れ込むことができるという点で格ゲー下手にも優しいキャラなのである。


 こういったテクニカルな隙消しは二体操作キャラ以外でも見られる。有名なのはギルティギアのジョニーが使うミストファイナーキャンセル(ミスキャン)だろうか。通常技を居合の構えでキャンセルし、その構えを即座にボタンでキャンセルする。ただの隙消し、有利フレームの確保という効果に対してはあまりにも難しい操作ではあるが、それゆえに完璧にこなせば常に動きやすい状態を確保してくれる。


 格ゲーが下手だと思っていると、つい操作の簡単な投げキャラやスタンダードキャラを選びがちだが、操作が簡単ということは誰もが最初に選ぼうと考えるということでもあり、性能や対策が知られていることも多い。


 たまには視点を変えて、普段は敬遠していた難しいキャラクターとともに戦いに赴くというのも、新たな格ゲーの楽しみを見つけるチャンスになるかもしれない。

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