第5話 団欒

 ヨシュアが漸く教会に足を向けたのは、日が傾きかけたころだった。律儀に馬を見舞い、床ずれの炎症を発見しスミに手伝ってもらいながら治療する羽目になったのだ。病気で気の立っている暴れ馬を制するのは一苦労、スミの蟲による麻酔がなければもっと手間取っていただろう。


「ごめんな、つき合わせちゃって」

「いいんですよ隊長さん……」


 教会に向かって歩きながらスミをヨシュアが労うと、彼女は頬を赤らめながら恥じらうように俯く。蟲を纏っているのことに眼を瞑れば、そのまま絵になるような美しい姿だった。


「あー……」


 ヨシュアが目のやりどころに困って何気なしに夜空を見上げ時、光る何かが眉間に直撃した。


「あばっ」

「隊長さん―」

「何してんのよ”蠱惑姫”なんかと」


 馬鹿にしたように肩をすくめて、『黄金狂時代』リザ・コロンボが呻くヨシュアに歩み寄ってきた。すらりとした体躯に、我の強そうな鋭い目つきと凛々しい眉、小馬鹿にするようににやけた口元から覗く発達した犬歯が野性的な印象を与えた。スミの顔がさっと曇り、纏った蟲がざわついた。


「いたたたた」

「ロハでよくやるわね」


 ヨシュアの顔から直撃した金貨がこぼれ、リザはそれを拾い上げて指で弄ぶ。数回指の間を行き来する間に、金貨のそれは飴のように溶け指輪へと形成されて収まった。


「いいだろ別に」

「ま、勝手にすれば? それより遅いのよ、ほら来なさい」

「わかったから……」


 リザはヨシュアの手を掴んで教会へと引っ張っていく。不機嫌そうなスミが、ややあって続いた。


 到着した教会では、”特殺隊”の面々が好き勝手に座って、これまた好き勝手な内容の夕食をつついていた。肉、魚、野菜、菓子、貴族階級でも毎日はとれないような豪奢な者だった。


「みんなごめん」


「遅刻」

「もぐもぐ」

「ま、待ってたんだよ?」

「隊長、待ちくたびれたよ!」

「なってませんわね……俺はそういうのが一番むかつくんだよ! ボケ!」

「遅えよ」

「奉仕はつけあがらせるわよ?」

「お疲れ様です隊長さん」

 

 面々は口々に好き放題言いつつ、料理片手にさりげなくかつ素早くヨシュアの傍に集まっていった。


「作戦会議はどうなった?」

「食べながら話す」

「うん、頼むレクス」


 ヨシュアは皆に隊長に認められている。それはヨシュアが優しいだけでなく、彼女らを罪人と理解したうえで、それでも人として扱っているからだった。ヨシュアは最初から彼女たちを異名でなく本名で呼んだし、何かしてもらえば礼をし、異議があればそれを唱えた。極々当たり前のことであったが、それができる人間に彼女らは殆ど初めて出会った。

 嘘偽りのない、まっすぐな立ち姿。それは彼女たちが軽蔑しつつ、ほとんど憧れに近く望んでいた眩しい光だったのだ。


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