第6話 甘ちゃん隊長

「まずは物資の調達が最優先」

「まあここには何にもないしな」


 レクスの言葉にヨシュアは頷く、補給がない以上全て自分たちで何とかするしかない。毎日必ず敵兵から奪えるわけでもない、物資があり過ぎるて困ることはないのだ。


「寒村ですからね……あんたの糞故郷と一緒だな、隊長さんよ? っへ」

「うるさいぞジェームズ」


 ”天使と悪魔”ジェシカとジェームズのからかいをヨシュアは軽くいなす。最初は随分からかわれたものだが、今となっては日常の一部だった。


「明日は偵察から始める」

「それしかないか。……なあお前ら、その時も……なるべく殺すなよ? いけないことなんだぞ」


 ヨシュアの苦言に、一同は一斉に反発する。食事の度、集合の度の風物詩だ。


「はっ、あんたはどうなんだい⁉ 殺しにきてるやつを黙ってみてるのかい?」

「殺すと~楽しいよ~」

「斬れなきゃつまらん」

「スガワは論外として……まあ、そうなんだけどさあ」


「捕虜が増えすぎて負担が増大してる」

「その諸々あたしがだしてるのよ! タダじゃないの!」

「お金だけじゃなく、監視や尋問だけでも手間がかかるわ」

「ぐう……」


 そう、ヨシュアの行動は必ずしもいい結果だけを残してはいなかった。彼が次々に生け捕るせいで、捕虜へ割く時間と労力は増える一方である。対価として得られる情報は大して役立つものがない。


「でも……俺は、これが正しいと思う……よ」


 スープをかき混ぜながらヨシュアはボソボソと呟いた。所詮、甘い考えであることはわかっている。今までもそうだ、暗黙の了解であったり声をあげれば悪い方へいくことがわかっていてもヨシュアは声を上げずにはいられなかった。だからこそここまで堕ちて、だからこそ”特殺隊”から認められていたのだ。




「ふう……」


 夜半、ヨシュアは捕虜収容所の近くまで足を運んでいた。収容所といっても、牧場をそのまま使っているだけである。

 風に乗って、陽気な歌声が聞こえてきた。ヨシュアが拷問虐待を禁じているのもあって、捕虜たちは監視下にこそあるが基本なんの縛りも受けず日々を過ごしている。苦役もなく食事も豊富、捕虜の方が余程よい暮らしができていると喜ぶものすらいた。今では暇を持て余して自家菜園を作っていたり村の補強に手を貸すことを進言している有様だった。捕虜となっている連合兵士たちの大半が、無理に徴兵されたヨシュアと然程変らない立場だからこその現象だった。


「彼らだからこそ」

「うわあ⁉ レ、レクス⁉」


 ヨシュアは腰を抜かさんばかりに驚いた、すぐ側にレクスがいつの間にか立っていたのだ。音も、気配すらなかった。


「お、脅かすなよ……」


 レクスは収容所を見据えたまま、淡々と言葉を紡いだ。


「彼らだからこそ成り立っている」

「……そうだな」


 レクスは隠さない、近い将来起こり得る事実をヨシュアに突きつける。自分と彼らは友好的な関係を築けている、ドゥーチェと連合もその綻びを紡ぎなおせるのではないか、そんなヨシュアの夢想を打ち砕く。恨み神髄で戦っているものは、捕虜になるを良しとせず挑んで散るか自害した。

 最早話し合いでどうにかなるものではない、そもそもの切欠はドゥーチェの侵攻なのだ。加害者からの歩み寄りなど、逆鱗を逆なでする以外の何物でもない。ヨシュアも”特殺隊”も戦争に直接関与していないにしろ、『加害者』にしかなれないのだ。


「でも俺は……」

「破綻をきたさない限りは容認する」

「……ありがとう」


 その傲慢を、ヨシュアは諦めきれなかった。わかっていても、何度砕けても、せずにはいられない。狂気とも呪いとも言える『善良』から、彼は逃げなかった。

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