第7話 白月の予感

 ”特殺隊”において戦闘行動にヨシュアが参加する意味はあまりない。彼自身弱くはないが強くもない、入隊して教わった槍術の心得が多少あるだけだった。簡単な突きと薙ぎ払いだけ、都度隊員が必ずカバーに入っている。それでもヨシュアは必ず同行した、救える命が少しでもあると信じていたからだ。

 

「大漁だぜ!」

「いい刀じゃねえか、これもらいっ」

「それはあたしのよ!」

「先に私がみつけましたの……手え離しな糞袋が‼」


「……うう」


 だが、今回それは叶わなかった。投降を呼びかけるも応じる兵士はおらず、全滅の運びである。戦果である物資を奪い合う隊員たちの横に積まれた死体の山の幾人かはヨシュア自身が手にかけたものだ。その感触が今でも残っている。


 地獄に堕ちろドゥーチェ人。


 そう言い残し事切れた同い年くらいの青年の言葉が頭に木霊する。ヨシュア自身は、優性人種論を狂気の沙汰と認識していたし同じ考えの者も多い、だが、彼らにとってそれは些事に過ぎないのだ。皆等しく、憎きドゥーチェ人である。

 ヨシュアは、彼らも同胞のドゥーチェ人の言い分を分かってしまう。敗戦後の占領で虐げられていたドゥーチェはそれを糧に躍進し反撃した、父も集落の皆も優性人種そのものは狂信的と嫌っていたが、かつて苦杯を舐めさせられた国々を打ち破る姿には歓喜の声を上げていた。それを浴びた連合国は同じくその痛みを糧にドゥーチェを追い詰めている、恐らくヨシュアの故郷と全く同じ光景がそこかしこで広がっていたはずであった。善も悪もない、痛みのぶつけ合いをどうして止められようか。


「大丈夫ですか隊長さん?」

「あ……ああ、ちょっと疲れただけだ」


 スミに気遣われ、ヨシュアは無理に笑顔を作る。ヨシュア最大の不幸は、その強い心にあった。同じ考えの者がいても、現実に押しつぶされそれを忘れるか諦める。だが彼はそうではなかったのだ。次の戦いでも、きっと一人でも助けようとするだろう。


「隊長、気になる」

「どうした?」

「”白月”が接近している」

「なに?」


 連合国軍の旗には5色に彩られた5つの抽象を象った絵が刻まれている。如何なる敵にも屈しない気高さを纏う”赤狼”、静粛さと激しさを同居させる”青海”、豊穣を示す”緑甲虫”、威厳と安らぎの意を含んだ”黒鷹”、始まりを意味する”白月”。いずれも5国の国旗から集められたものである。そしてその名をそのまま冠する精鋭部隊があった。”白月”の部隊は、その中でも最も手練れと噂の一隊である。


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