第25話 声
ヨシュアは、逸る鼓動を抑えて”白月”を観察する。少しでも、相手を知っておかなければならない。女軍人の上司という立場から、てっきり彼女がやや歳をとった感じだと勝手に思っていたが受ける印象は全く異なるものだった。
実に『奇妙』な格好である、まず頭部はすり傷だらけで骨董品のような簡易な兜で覆われている、そのくせ胴体も手足もむき出しのままだった。軍服は着崩されており、その下に覗く簡素なシャツとズボンと革靴も相まって、粗野と言うよりは束縛を嫌う自由意志の表現に見えた。
左手には、ジェシカ達が証言したように少女を象った人形が納まっていた、ヨシュアには知る由もないが、布でできた素朴なそれは、彼女の出身地ではありふれた玩具である。腰に覗く剣は、連合軍が一般兵に支給している極めて簡素なものだった。背は平均的だ、丁度リザと同じくらいだろうか。
その割に、ヨシュアに驚きは少ない。緊張も手伝っているが、そもそも常日頃身近にいる”特殺隊”が奇天烈な格好をしている連中だ。正直、異様さならジャニに軍配が上がるだろうと、密かに思っていた。
「……」
「……」
互いに無言である。どちらが先に口火を切るかも交渉に影響する、細かい策の練れないヨシュアはひたすら”白月”の出方を待った。故郷や『ゴル村』の人々の、一方的なお喋りを聞くだけの受け身とはまた違った苦痛があるが、我慢はできる。それにしても股間が痛い、本当に大丈夫だろうか。
「貴公の名は?」
そしてそれは来た、”白月”からの最初の発言だ。隠密中の”特殺隊”に緊張が走った、ヨシュアはどう答え、それがどう作用するのか。
「……は?」
ヨシュアの返事は、そのちぐはぐさに、思わず出てしまった素の言葉だった。”特殺隊”の面々にはない、外見と声の乖離によってだ。
”白月”のその言葉は、掲げた左手の人形から発せられたものだった。まるで人形劇、それ自体も面食らったのだが、声そのものも問題だった、腹の底に響くように低く渋い重みのある壮年の男の声だったのだ。美声と言っていいだろう。
「やっぱり……変ですか?」
”白月”はヨシュアの言を受けて、人形の口を指でこすらせまごつかせるような動作を取って、言葉を続けた。声そのものは変わらず、口調だけが不安げなものになっていた、ますます、人形劇の一場面である。
「あ……いや……」
ヨシュアは、どう答えたらいいかわからなかった。その言葉通りの感想だったが、”白月”の口調には恥じるような響きがあって、そのまま伝えると傷つけてしまうのではないかと躊躇したからである。
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