第43話 見いつけた!

 ヨシュア自身、センリに好感を持っているかと言われたら疑問が残る。だが、彼はそういう相手でも助けようとしてしまうだろう、それがわかっているからこそ、彼女たちはわざわざそれらしく話をつくりあげたのだった。


「勝ち目はなかったのです、イヴは断言します」


「血を流したのも久しぶりさね!」


 嘘を信じ込ませるコツは、ほどよく真実を混ぜること。”白月”にそのまま挑んでいれば、間違いなく犠牲者を出していただろう兵である真実が、説得力を増す。

 その上でヨシュアは、彼女たちを信じ切れなかった。無論信頼はしている、だからこそ、彼女たちは敵対者に容赦がないということも知っていた。センリをそのまま手つかずで置いておくとは考えづらい。いっそ殺したと言った方が、信じただろう。


「なんなら行ってみる? とっくに起きてなんとか家にいるだろうから、あたしらが置いたところにはもういないと思うわよ。何しろ急いでたから」


「都会は~ひろ~い~」


「少し休めば、イヴはまた魔法が使えます」


「あの……私たちの事、もう向こうにばれてます……」


「移動後、戦闘になる」

 

 ダメ押しに、”特殺隊”は確認の手段を提示した。巧みに、行ってもセンリと再会できるかはわからず、反逆も露呈していると匂わせてだ。これなら、実行に移しても言い訳が立つ。

 ちなみに露呈は真実である、出向いたところですぐさま戦闘というわけにはならないだろうが、歓迎はされましい。首脳陣は、早速センリとの連絡手段の模索と、討伐隊を送るか否かの不毛な議論を重ねていた。


「……わかった」


 ヨシュアの判断を動かしたのは、彼女たちの話術ではない。『生まれ変わりの日』による諦観だった。正直、考えることにもう疲れていた。信じるという『逃げ』を、彼は選んだのだ。安堵と、敗北感が同時に襲ってきた。だがまだ浸る時ではない、戦争は続いているのだから。

 それを知らぬ”特殺隊”の何人かは、ヨシュアらしからぬその違和感を敏感に感じ取っていた。だが、事を荒げる利は何もない。


「ね~これからど~する~?」


 ジャニが纏わりついてくるのを、ヨシュアは適当に払った。今一番気になることと言えば―


「そうだな……まず家に戻らないとな」


「はあ⁉ あんなど田舎いやよ!」


「なら来なきゃいいさね!」


「”アランドラ”も迷惑ですわ……臭いで畑が枯れらあ!」


「隊長さん、イヴだけが連れて行ってあげるのです」


 早速言い争う彼女たちに、ヨシュアは苦笑した。そして、”特殺隊”が解散状態にあっても付いてくるつもりの隊員を不思議に思った。まだ自分には、何か利用価値があるのだろうか?

 無論何もない、ただ彼女たちの純粋な欲求だった。それを態度に、まして口に出すことは絶対にあり得なかったが。


「匿う場所に、心当たりあり」


「レクス」


 喧騒を他所に、ヨシュアは自然とレクスの髪に触れ、いつかのように梳いていた。レクスもされるがままであった、ほんの僅かだが、微笑が口の端に浮かんでいる。

 心を落ち着かせるためのそれでなく、ただ何となく、日常の一部としての行いだった。


「髪にも、気を使わないとな」


「……承知」


 皮肉にも、平穏は堕落の果てにあった。

 初めて、”特殺隊”でないレクス・サーラーとヨシュアは会っていた。彼女には押し殺し、隠して来た『少女』の顔が浮かんでいる。他の隊員……彼女たちにも、それがあるのだろうか? 


「レクス―」


「ヨシュアさ~ん‼」


 そしてそれは、すぐにまた覆い隠されてしまった。

 遠くからのはずなのに、耳の奥、腹の底まで響く甲高い叫びによって。

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