第42話 零れ落ちた花
「首都に戻したのよ、”天帝”がね」
さらりと、リザが答えた。
「私たちのやったことは、反逆罪よ」
「少尉がいては、何かと不都合が多い」
イライジャとレクスが補足を続けた。ヨシュアを安心させるかのように、穏やかでゆっくりとした口調だった。
無論、全てが嘘である。実際には、センリはイヴの転移魔法にかかっていない。つまり、彼女はそのまま”白月”と交戦していた場所に置き去りにされていたのだ。無事ではいまい。
センリの目的、というよりも責務は、”白月”討伐の他にない。それが成されなければ、部下を全滅に追いやった不名誉は到底挽回できないからだ。このままでは自身が、アミリティ家が嘲笑と侮蔑に晒され恥辱にまみれる、何より彼女が恐れる事態であった。
彼女は頑として認めはしないものの、討伐には”特殺隊”の協力が不可避と薄々理解はできていた。腕に覚えはあるが、相手は五国連合軍最強の兵士、駒なくしては心許ない。”令印”で命を縛れば、意のままにはできる。事を成したら、都合の悪い口を塞げばいい、生殺与奪権を与えている以上、薄汚い罪人部隊のひとつやふたつで上層部もとやかくは言うまいという目論見だ。
実際行っていても、アミリティ家との関係悪化をよしとせず、不問に付されていただろう。ドゥーチェ首脳陣に、彼女たちの軍事力を認め、国防に役立てようという正しい認識が出来ている者は一人としていなかったのだから。
無難な計画だった。相手が”特殺隊”でなければ、だが。
センリは己の矜持を貴ぶあまり、”特殺隊”との接触を避け続けた結果、従順さに潜む策謀を見抜くことができなかった。全てが後手後手に回り、意のままに動かしているつもりが、いいようにあしらわれているだけだった。結局彼女の失敗は、生来持ち合わせていた、変わることのない『貴族』故の驕りである。
全てが水泡に帰したと知ったら彼女はどうするか、レクス達には手に取るようにわかっていた。錯乱し”白月”に単身挑もうとするならまだいい方だが、下手をすれば『反逆者』の首を獲り体面を少しでも保とうとしかねない。だからこそ、自分たちとは遠く離れた場所に飛ばしたのだ。万が一が起こったら、手傷を追った状況では手に余る相手ではあるのだ。
殺そうと思えばできた。それをしなかったのは、優しさではなく無関心からだった。腹立たしくはあれ、隊員たちには殺意を抱くほどの存在には成り得なかった。所詮、玩具を与えられた愚かな娘、脅威が去れば思い出すこともない。今後どうなろうと、どうでもよかった。皮肉にも、この点においてセンリと”特殺隊”は意見の一致を見ていたのだ。
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