第41話 生まれ変わりの日
水と携行食糧を腹に収めると、満腹感と共にどうにかヨシュアは一区切りをつけることができた。時間は巻き戻らない、今このままを受け入れ、そのうえで行動するしかないのだ。
「これから……」
ヨシュアは、言いかけて気づいた。今や”特殺隊”はその意味を成していないのだ、”令印”の鎖の無くなった彼女たちが、ドゥーチェ軍の命令に従うはずもない。国家の管理下を離れたという事は、同時に自分が隊長である意味も消失させていた。いや、反逆者の首魁と名指しされている可能性もある。この状況で魔術師を消すという選択肢を選ぶのは、五国連合軍のほかに彼女たちしかいない、そう遅くなく目星をつけられるだろう。
「……」
襲ってきたのは、虚無感だった。諦観にも似た冷静さに包まれると、途端に今までの苦悩が馬鹿馬鹿しくなってきた。
名ばかりとは言え、隊長と呼ばれていると、夢想家が抱くような身の丈を超えた考えが溜まる一方だった。”特殺隊”の命運、ドゥーチェの未来、連合軍との融和、センリとの連携、”白月”の撃退、どれも自分が手をかけることも叶わないほど途方もなく高い壁だった。
結局全てが、預かり知らぬところで始まり終わっていた。何とかしようということ自体が、自惚れだったのだ。
「はは……」
散々自分を縛ってきた正義感、義務感が無為だったと認めるのは胸が痛むが、気が軽くもなった。諦観、いままで味わい尽くし、何度も立ち上がってきたそれが今回は一際色濃かった。払う気概はある、だがそれを湧き立てるのに今までにない長い時間が必要そうだ。
そうだ、俺はただの男だ、子供じみた誇大妄想はそろそろ止めにしよう。そんなふうにヨシュアは思った。ここには父はいないし、歯向かうべき理不尽も今はないのだから。
「大丈夫ですか? ……”天帝”の魔法でおかしくなったんじゃないか?」
「そんなことはあり得ません、イヴは完璧なのです」
「喧嘩するなって……」
ヨシュアは立ち上がり、空を仰いだ。『人生には、それまでから全く違う人間になる、生まれ変わりの日がある』どこかで聞いたか読んだかした、そんな言葉が浮かんでくる。記念すべき日にしてはやや曇り気味だが、贅沢は言ってられない。
隊員たちを今一度眺めた、皆、死の恐怖から解放されてはいるのだ、それで良しとしよう。そう、小さなことに喜びを見出し―
「あれ?」
それも、小さなことだった。
センリの姿が、見えなかった。
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