隊長‼ ”特殺隊”はあなたについていきます!

あいうえお

第1話 隊長さんは良い人です

「散るな! 固まれ! 敵は寡兵だ!」


奇襲を凌ぐには、初劇を耐えきることが重要。ミール少尉はかつて上官からそう教わった。部隊の一兵士だった時も、自らがそれを率いる立場になったときも、実践し生き残ってきた。


「た、隊長!」

「怖気づくな! 俺の傍にいろ!」

 

若い新兵ばかりだが、こちらは100近く、対する襲撃者は僅か10ほどである。これでは破れかぶれの特攻だ、耐えきれば必ず勝機はある。


「一番殺した奴が昼飯おごりだあ!」

「「「異議なし‼」」」


 ―はずだった。


「1つ、2つ」

「ぎゃあああああ!」

「ごあああああ!」


 常人の二回りはある、巨大な“機械鎧(オートマタ)”に身を包んだ少女だった。遮断鏡から覗くその顔は、気品とあどけなさの同居するものだったが、老婆のような白髪がそれを裏切っていた。ご褒美をちらつかされ、連れていかれた劇の間行儀よく待つことを命じられた子供の顔のまま“機械鎧”の掌から放たれる火焔が、兵士を次々に灰燼に変えていく。


「あははははっ‼ さあさあ踊ろうよ!」


兵士の首が胴体と泣き別れ転げ落ち、間を置いて胴体から鮮血が噴き出る。派手な蛍光色の斑模様着は戦場よりも曲芸場、いや王宮の道化の間が相応しい。おまけにその少女は、道化の面まで被っているのだ。戦場では狂気の産物でしかない。


「ふんぬっ‼」

「ごぼっ⁉」

「うし! 次!」

「やめてくれええええ‼ 頼む! 頼む! 頼むうううう‼」


 体のどこかを掴んで握る、それだけでそこから肉も骨も全て抉り取られた。それを可能にしているのは、彼女のその肉体だ。偉大なる芸術家によって削り出された益荒男の彫刻もかくやというその巨躯は、至る所に古傷が浮かんでいることを差し引いても惚れ惚れするものであった。その威容と顔に施された恐ろしい刺青も、彼女が女であることを隠せはしない。


「さあ、いっぱい食べて……みんな……」

「ひいいい……い……イ……い……」


 生来一度も日の光を浴びたことがなさそうなほど白い肌に、黒いローブが栄える。化粧をし、服を整えれば王侯貴族の社交場でも視線を独占できるだろう。

 だがそれには、彼女を覆い隠さんとする黒雲を払わねばならないが。黒雲は、肉食蟲の大群である。骨どころか、纏っていた兵士の服すら貪りつくし、尚も次なる食事を求めている。

 黄金の濁流に呑まれるもの、何かを囁かれ発狂し自分を切り刻むもの、拳銃で蜂の巣にされるもの。少尉の感知できないところでも、負けず劣らずの地獄絵図が繰り広げられていた。100いたはずの味方は、すでに3分の1も残っていない。


「お―」

「きゃはっ‼」


 何を言おうとしたかは、ミール自身にもわからなかった。その言葉が発せ切られる前に喉は切り裂かれ、倒れると同時に頭を踏み潰された。


「お前指揮官だろ⁉ 頼む降伏させてくれ‼ いやさせてください!」

「なんでもする! だから殺さないでくれ‼ この通り! 有り金全部出す! 奴隷にでも何でもなる‼」

「お願いします‼ 死にたくないんですううう‼」


「わ、わかったから俺の後ろに! 後ろに!」


 数少ない兵士の生き残りは、一人の青年兵のもとに殺到していた。というよりも、そこしか命を保っていられる場所がなかった。青年兵の周りだけが、不自然な程に地に血を吸い込ませてはいなかった。


「隊長さん……その人たちは?」

「いっちょ揉んでやるぜ!」

「あははははははは‼」

「標的は潰す」


「こ、この人たちは捕虜だ! 手を出しちゃだめなんだぞ! 絶対だぞ‼」


 槍を手に、泣き叫び震え必死に隠れる敵兵を同じように恐怖に震える身で庇う。勝ち目もない、死ぬ覚悟もない。だが、幼いころから教え込まれた正義感だけが彼を退かせなかった。

 彼の名はヨシュア、『ドゥーチェ軍』市民兵にして今しがた100はいた敵兵を瞬く間に壊滅させた彼女ら“特殺隊”の指揮官であった。


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