第19話 捕虜
地下防空壕において、本来”特殺隊”が集会所にしていた部屋に、ヨシュア達一同は集まっていた。部屋を、イライジャの淹れた安静効果のある茶と、香が仄かに漂い鼻をくすぐる、各自の部屋もここに統合されているのだった。スガワとトゥーコが不在なのは、女軍人の監視を買ってでたからだ。ヨシュアはもうそれほど気にしていないが、やはり見捨てて逃げだした手前バツが悪いのだろう。
部屋が一か所になったのは、しばらくは村人達も地下防空壕に住むに当たって、ヨシュアが部屋を空けるように指示をしたからだ。自分たちばかりが好きに使う訳にもいかない、勿論、彼女たちは不満たらたらだったが。
「で、何があったんだ?」
茶を啜りながら、ヨシュアがレクスに尋ねる。座っていると局部が椅子に当たって具合が悪い。
「”白月”に遭遇、交戦した」
ヨシュアは思わずむせて咳き込んだ。
「何?」
「あの赤おかっぱは、別動隊だったんでしょ、”異能”持ちだし。」
リザが口を挟んだ。
「一人なのは……それだけ強者かはぐれものか……」
「隊長にやられてるあたり、そこまで腕は立たないみたいね。……一矢報いてはいるけど」
イライジャの言葉に、一同の視線がヨシュアの股間に集中する。年長組が、くすくすと嗤った。当然ヨシュアは面白くない。
「な、なんだよ……」
「気にしません、イヴはそんな小さな女ではないのです」
「何の話だ!」
「隊長さん……そういう子もいますから……大丈夫です」
「どういう⁉ 別になんともなってない!」
ヨシュアは憤りを隠せない、多少腫れて赤くなっているが、それだけで『機能』には何の障害もない。……はずだ。
「話を戻す。偵察の最中”白月”と遭遇し交戦。互いに有効打なしのまま、半刻し”白月”は撤退した。”天帝”が追跡を試みるも喪失。隊長の助力に隊員を向かわせた場合の戦力低下を考えると全滅の恐れがあり、撤退後の派遣となった」
「そうか……そんなにか」
ヨシュアの記憶にある限り、”特殺隊”が苦戦どころか傷を負った場面すら思い起こせない。参謀のレクスとリザは勿論、戦闘力では随一のイヴとカーシャも揃っていたのに取り逃がしている事実が、そのまま”白月”の実力を示していた。
ちなみにヨシュアは気づいていないが、本来追跡任務に駆り出されるべきスミとリザがではなくイヴが救出班に選ばれたのは、彼女ら彼を常に監視していたおかげだった。危機に陥っている事をいち早くしった彼女たちは、ヨシュアの救出を前提として判断した行動したからだった。真っ先に二人がヨシュアの前に現れたのは、偶然ではないのだ。無論、そのことは誰も言わない。日常はおろか下の事まで把握されている訳ではあるが、それを踏まえたうえで安全を確保するためである。
「結局どんな”異能”かも分からなかったわ」
「武器とか、戦い方はどうだ?」
「体術と剣術だけでしたわ、と言ってもどちらも凄まじい技巧でしたけど……それとよ、人形持ってたぜ!」
「人形?」
「ままごとで使うような手編みのやつだよ! あれがあいつの”異能”に関係してるんじゃないかい⁉」
「すごく早かった~ヨットーロもちょっと切られちゃった~」
「ちゃんと消毒しとけよ?」
胸元の浅い切り傷を見せつけながら、ジャニがヨシュアに身を預けて絡みついた。ほんの一瞬、場に他の隊員から放たれた殺気が充満し、すぐさま包み隠すように押し殺された。
「レクス、で、どうする?」
「策がいる、直接対決は推奨しない」
「赤おかっぱも利用するわよ、折角の捕虜なんだから」
「待て待て、拷問とか囮とかは禁止だぞ? わかってるよな?」
「また始まったさね!」
「いい加減になさいなそれ、そっちの方が確実なんだから」
「ダメだ、戦争でも……守るべきことはあるんだよ」
頼りなく、だがしっかりとヨシュアは言い放った。
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