第34話 作戦
首都襲撃と銘打ってはいるが、仕掛けた5国連合軍攻撃隊は壊滅した。流石に首都、易々とは通さない守備陣だったらしい。
それでも、首都まで攻め入られたという事実はドゥーチェに大きな衝撃をもたらした、それは同時に、すでに他の前線が破られているという証なのだから。今後は、中継基地から続々後続部隊が行軍してくるだろう。
ヨシュアにも、大きな衝撃である。故郷は首都の遥か遠方だが、攻め入られるとひとたまりもない、『ゴル村』と違い、”特殺隊”はいないのだ。
「やっと⁉ 連合もトロトロしてるのね~」
「しかし、要人の2,3人でも殺してくれると助かったんだけどね」
「根性がたりないのさね!」
「少しは心配したらどうなんだ……」
集会所に集められ、そのあらましを聞かされた”特殺隊”に案ずる声はない。むしろ、大して被害を与えずに壊滅した連合軍に文句を言う有様だった。思えば、”白月”の出現を境に一般兵士が急に姿を消したのも、連動しているに違いなかった。
「家族……いませんから……」
「命を握られてますのよ? ……心配なんかすっかバーカ‼」
そういわれては、ヨシュアも何も言えない。村人にはまだ伝えていないが、そう反応は違わないだろう。国家が彼女らを軽んじてきたツケが、こういう場面で返ってくる。
この局面においても、”特殺隊”の任務は変わらなかった、一にも二にも本国に召還し防衛に当たらせるべきなのに、その命令が下ってこなかった。曲がりなりにも撃退できたという自負と、汚らわしい罪人に救われる汚辱は耐え難いという、下らない意地が、またしても首脳陣に愚行を選ばせていた。
「それよりも”白月”です隊長さん、イヴはそう思います」
「あんたねえ、失敗したらあたしら消されるのよ⁉ わかってんの⁉」
「わ、わかってはいるけど……」
彼女らには、センリのほうが急務だった。”令印”を握っているのだ、失敗すればどうなるかわからない。ただでさえ不安定になっているだろう現状、”特殺隊”を欠いては”白月”討伐は勿論、その後の戦略にも大きく影響することもわからず、突発的に処断を下す可能性があった。
「レクス、どうする?」
「……」
それまで黙っていたレクスが、香茶を上品に啜った。
「隊長が、鍵」
「俺?」
「”白月”は隊長に、一方的な信頼を寄せている」
『一方的』が、殊更強調された言い方だった。
「罠にかける」
「どうするんだ?」
「捕虜の交換の代わりに、不可侵条約を結ぶ。武装解除させたのち、全員で攻める」
要は、不意打ちである。”特殺隊”の最も得意とする戦法だ。
「ん……」
合理的ではある、だが、ヨシュアには今一つ納得しかねるものがあった。よどみない口調からすると、最初からレクスはこの作戦を考えていたように思われたからだ。無論、そうしなければ命が危ういのはわかる、”白月”は敵なのだ。だがそれでも『もや』が残るのだった。
「……村の連中と、捕虜は?」
「物資を渡し、村を明け渡させる。作戦の障害になる」
「了承はとってるわ」
「殺したかった~んだけど~」
イライジャとジャニが付け加えた、どうやら、ヨシュアが言いだしそうなことはすでに根回しを終えているらしい。
「む、無理やりじゃないのか?」
「逆に残りたいと思うわけえ?」
「連合軍も、ここを見れば焼き討ちにあったとでも思うでしょ。わざわざ追跡しないわ」
そう言われると、ヨシュアも反論できない。”白月”との決戦に巻き込むわけにもいくまい。どこまでも面倒を見続けることはできない、正直、これ以上懸念事項が増えると彼も頭がはち切れかねなかった。
彼女らは明かしていなかったが、その実村人たちの撤退は事前に決まっていた。洞窟への物資の運搬は、その一環であった。最も彼女たちの場合、村人が鬱陶しいからというひどい理由だったが。
「……移送と、作戦終わってから様子を見にいってもいいか?」
「承知」
これも、想定されていた質問だったらしい。
ヨシュアは余りにも呆気ない村人達との別れと、これから訪れる”白月”との戦い、”特殺隊”、女軍人にセンリ、果ては故郷のことに想いを馳せ、密やかな頭痛にこめかみを抑えるのだった。
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