第30話 月夜
衰弱、という結論だった。看護していた村人達はともかく、治療はヨシュアに言われてスミが適切に処置した。食事も療法も欠かさない、ただ単に、彼らの生命力が絶えたというだけだ。足の切断のショックもあるだろうが、どうしようもない、と。遺言もない、そういえば静かだなと確認してみた時には、既に死んでいたそうだ。
「きゃっ、虫です!」
「うるせえな」
「はあ……」
共同墓地で行われた、負傷兵二人の葬儀も兼ねた埋葬に誰も来なかった。”特殺隊”、村人まではわからないでもない、直接的な被害は”特殺隊”はともかく村人たちには徴収という形であったからだ。
だが、センリが出席しないことにヨシュアは憤っていた。直前までに抱いていた哀れみが消え、怒りがこみ上げる、同時に、そんな自分も嫌悪した。
スガワとトゥーコが埋葬を手伝っているのも、ヨシュアに対する罪悪感からである。亡骸の人物に関しては、何も思っていない、それが彼女たちのスタンスだった。ジェシカは興味がないと早々に帰っていった。
「ふう、終わったな」
「疲れましたね」
「……」
悼みではなく、重労働の終わりに発する達成感のみがスガワとトゥーコにはあった。ヨシュアはそんな二人を無視して、花を添える。教会からとってきた、センリの花だ、せめてこれくらいはという気遣いだった。
思い返しても、墓の下に眠る二人に良い思い出はない。先達、センリに負けず劣らず鼻につく傲慢な男だった。だが、それでも―
「くそ……」
月の浮く夜空を見上げる、ありふれた死の一つ、だが、身近で起こるとそれは別の意味を帯びてくる。それを無視し、日常と割り切り心を閉ざす者たちもいる、だが、ヨシュアはそうはなれなかった。
だから、せめて手厚く葬ってやろうと決意したのだった。
「隊長、もどろうぜ」
「お腹すきましたあ」
スガワとセンリがヨシュアを急かす、二人、否”特殺隊”は『そう』いう者たちである。一己の人と理解していても、こういう場面ではヨシュアは顔を顰めざるを得なかった。
月夜と二人で、ふと”白月”を思い出す。あの戦士も『そう』いう者なのだろうか?
「あの……」
「ああ、悪い、行こう―」
言いかけて、ヨシュアは湧いた疑念に気づく、二人のどちらの声でもない。
「ど、どうも」
その主が、視界に入ってきた。目まで隠している毬藻のような緑の髪に、華奢な体躯、初めて見る少女だった。
「お前―」
だが、ヨシュアにはそれが誰かすぐにわかった。右手の人形、着崩した連合軍の軍服、そしてなによりも甲高い幼女のような声。
「”白月”……」
「はい」
はにかんだように頬を染める姿が、墓場には似つかわしくなかった。
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