第16話 決意

 センリと女軍人の戦いは膠着していた。女軍人は距離を保ちつつ火球をセンリに撃ち込み、センリはそれをいなしながら接近を試みる。両者の狙いは明白だが、拮抗した実力が互いのそれを阻んでいた。


(そういえばあいつ”異能”もってるのか? ……だめだ、今はこっちに集中しないと)


 幸い彼女たち二人とも、ヨシュアと負傷兵たちに構う余裕はない。ヨシュアは近場の瓦礫の山の陰に彼らを運びこみ、応急手当に勤しんでいた。焼き切られた傷口の御蔭で出血死の心配はないが、感染症の予防に傷口を包帯で覆う必要がある。


「出世が! 出世が! 足がないと! 市民兵!」


「足をとってこい! く、くっつけるんだ! くっつく! くっつく!」


「静かにしろ」


 兵士たちに、あれほど鼻についた傲慢さは最早ない。自分の状態を信じられずに喚き散らし、泣き叫んだ。鎮痛薬で痛みがないのは幸いだが、その分興奮の度合いが激しかった。まるで、癇癪を起した子供である。

 ヨシュアはそれをあやしつつ、この期に及んで恐らく帰国後の立場に固執するその思考に寒気を覚えた。とはいえ、センリの時ほどではない、『そういうもの』だと理解すれば、彼らにも道理はあるのだろうと一応は納得できる。しかしその一方で、ますます腹が立っていた。


「せ、正々堂々と―」


 センリが、焔鞭の不意打ち気味の一撃に言葉を飲み込みすんでで回避する、爪先のほんの少し先を掠めたそれは地面に焦げを刻み込んだ。鎧も纏わない生身では生肉のように焼き切られてしまうだろう。


「……」


 女軍人はセンリの接近を許しているように見えて、誘っていたのだ。しなりを交えた変則性と、捉えれば焼き切る火力のある焔鞭で迎撃し、一転彼女を追い込む。実戦経験の差による戦術思考には天地の差があった、無駄な動作なく、淡々と攻勢をしかけるが決して無理はしない。センリはと言えば、慣れない戦いに加えて、兵士たちの負傷で動揺して早くも息があがっている。


「……しょうがないな」


 槍を握り、ヨシュアは呟く、助けに入らなければセンリは討ち取られてしまうだろう。内心それでも構わないという思いはある、しかし、それを是とはしない心の強さが彼にはあるのだ。

 

 

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