第54話 隊長‼ ”特殺隊”はあなたについていきます!
「何だよこれ‼」
ヨシュアの叫びが木霊した。センリと別れた後向かった、故郷たる村……いや、集落は、灰燼と化していたのだ。ものの見事に、何もない。灰と、そのあとに広がる場だけが残っていた。追剥すら、素通りしていくだろう。
「焼き討ちさね!」
「しけた所ですわ……何も残っちゃいねえ!」
「やっぱり連合軍かしら?」
「見せしめかもしれないわ」
「冷静に分析しないでくれ!」
ヨシュアは悲痛だ、肩と耳の痛みがより一層酷さを増してきている。
故郷はすでになく、父や村人の姿もない。連合軍の略奪か、ドゥーチェの見せしめか、それすらもわからない。スミとリザが探ってはいるものの、”令印”魔術師殺害の余波で警備が厳しくなっていて、実情を知るのは困難だった。
目撃情報を探ろうとしても、辺境も辺境で周囲に集落以外の人口はない。最寄りの村にリザが潜入しそれとなく聞いてみたが、やはり知る者は誰もいなかった。
ヨシュアが膝を屈し、灰を握る。これは自分が招いたことなのか? 自分のせいで故郷は―
「……」
「”白月”が、迫っている」
レクスが肩を落としたヨシュアに語り掛けた。現実問題、過ぎてしまった事と目下進行中の脅威では、後者に重きを置くべきである。冷酷ではあるが、正しい判断だった。
「近くの駐屯所襲って締め上げるさね⁉」
「連合国軍~いじめてもいい~」
これでも彼女たちは気遣っている。この蛮行の首謀者を見つけ出し、復讐しようというのだ。当然、多くを巻き込んで、それが彼女たちの流儀だ。そのために、協力は出来得る限り惜しまないつもりだった。素直に表せず、我欲のためと嘯かないではいられないのが哀れだった。
ヨシュアは、ゆっくりと立ち上がった。
「……行くぞ」
「どちらに? ……俺は国軍がいいな!」
「……親父たちを探しにだよ」
ヨシュアは、まっすぐに跡地を見た。それは、不退転の覚悟、いつもの彼であった。
「けど……お父様たちは……」
「死体はないだろ?」
ヨシュアは、ひるまない。確かに遺体はなかった、だがそれで生存を断定もできない、回収した可能性も、獣の餌になった可能性もある。生きていても、果たして真っ当な状態であろうか。
「簡単に死ぬもんか」
だがヨシュアはそれを認めない、あの父が、住民が簡単に死ぬものか。必ず助け出し、叱られよう。そう決意していた。
歩き出したヨシュアに、肩を竦めて一人、また一人と”特殺隊”は続いていく。
「あてはあるのですか? イヴは心配です」
「世界中廻れば、どこかにいる」
「なんだそれ⁉」
「い、いい加減すぎます」
相も変わらず、ヨシュアの決定に誰もが文句を言った。そして誰もが離脱しなかった。隊長と”特殺隊”はどこまでもいくのだ。
「『聖・ジョルール寺院』、ドゥーチェ国内に関しては、そこがもっとも詳しい」
「じゃあそこに行くぞ、待ってろよ親父、皆!」
シャソワール大戦は程なく集結し、敗北に終わったドゥーチェは再びソイボンの支配下に置かれることとなる。だが、それを不服とした五国連合軍内にて内紛が勃発。ドゥーチェはその最中独立したり、ソイボンと同盟を結んだり、一国として独立を勝ち取り安定をみるのは、50年の歳月を要した。
そこには”特殺隊”の名が度々出て来た、時に国賊、時に救世主、”白月”と組んでみたり、隊員を増やしたり失ったり、勝ったり負けたり、毀誉褒貶を繰り返し、やがてその名を消した。
後世、彼女達への評価は様々だ。単なる罪人部隊から、ドゥーチェを形作った一因、時代の犠牲者、狂気の集合体、果ては一種の象徴、架空の存在であるとの説もある。
そして物語の題材には欠かせないものだった、死刑囚で形成され、数多の戦いに名を残した凶手の美女集団、これほど掻き立てられるものはない。善玉、悪玉、個人に迫ったもの、長く長く、ついには原型がなくなってしまうほど長く伝えられた。レクス、イヴ、カーシャ、スミ……全員がだ。
一方で、ヨシュアは影が薄かった。資料が少ないうえ、伝えられる限り、隊員たちが彼を褒めたり称えたりする事が残っておらず、お飾り、あるいはただ状況でいただけという考察が一般的である。目立った武功もなく、無視する文献や物語も多い。
そしてそれこそが、彼女たちの叶った数少ない望みの一つだった。彼を、自分たちの中だけに仕舞っておきたかった。誇りを、尊敬を、そして愛を知られるのは照れ臭かった。
”特殺隊”が終生従った隊長、市民兵ヨシュア。何故彼女たちがそうしたのか、真実を知る者は昨今でも一握りである。
隊長‼ ”特殺隊”はあなたについていきます! あいうえお @114514
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