第28話 再招集

 地下防空壕に戻ったヨシュアは、ベッドに横になっていた。居住区の整備や、物資の運搬偵察等、すべきことは無限にあるが、今は頭を整理することが先決だと考えたからだ。

 やはり、”白月”は狂人だとヨシュアは睨んでいる、ジャニのように、意思疎通はできるが話の通じない相手、というものは確かに存在する。”白月”はどうなのだろうか、もしも同種の殺人狂の場合、会合自体が無為に終わる。


「あいつがしゃべればなあ……」


 イライジャ謹製の香茶を啜りながら、ヨシュアは零した。会合から戻ってすぐに、彼女達による女軍人への尋問が再開されている。最も、防護魔法のせいで情報を得られる可能性は低いとレクスは言っていた。

 ”特殺隊”、村人、故郷、捕虜、センリ達、ヨシュアには護らなければならない対象が多い。”特殺隊”はセンリの持つ”令印”をなんとかせねばならないし、村人と捕虜は来るべき連合軍からどうにか身を隠さないとならない、センリは放っておくと何をするかわからない上負傷兵も気にかかる、故郷は如何に。そもそもドゥーチェはどうなるのだろう、敗北後蹂躙されるのは目に見えている。


「あ~」


 こうして考えたところで、結局は今やるべきことをするしかないという結論にいつもヨシュアは至っていた。村人たちを手伝って、鍛錬をし、レクスの判断を待つしかないのだ。股間の痛みは消えているが、心労は増える一方である。


「いらっしゃいます? ……出てきな短小野郎‼」


「短小じゃない! ……ったくなんだよ」


 ドアを開けると、予想に違わずジェシカが立っている。相も変らぬ派手な衣装であったが、騎士然とした装いを見るに今はジェームズが主導権を握っているらしかった。


「どうした?」


「馬鹿貴族が呼んでますわ……あんたをなあ‼」


「俺?」


 咄嗟に頭を最悪の予感がよぎる、まさか、会合がばれたのか? 


「理由は?」


「言ってませんでしたわ……夜這いだったりして‼」


「わかった、レクスに……」


「もう伝えてありますわ……情報はみんなで共有しないとな」


 自分に関することでも、結局はレクス達の判断を仰がなければいけないのだ。分かってはいたが、実際にやられると思うところもある。どうにも蔑ろにされている感じは否めない。


「で、なんて」


「素早く参じるようにと……さあさあ、早く早く、ベッドでみたいになあ」


 考えている時間はなさそうだ、ヨシュアは急いで支度をすると部屋を飛び出した。ジェシカも後を追う。




「うわ……」


 教会を前に、ヨシュアは思わずそんな声を漏らした。一面が、花畑になっているのだ。花畑と言えば心安らぐ光景のはずだったが、あまりにも密集していて何かの群生生物じみた不気味さを漂わせている。色にしても統一感がなく、毒々しい艶やかさだった。


「”異能”ですわね……趣味悪いよなあ毒だったりして」


「これから行かなきゃならないのにやめてくれ」


 ヨシュアは花を踏まないように、恐る恐る教会へ向かっていく。ジェシカは動かない、どうやらヨシュア一人での謁見は既定事項になっているらしかった。


「わたくしがいますわよ……俺もな、屍くらい拾ってやらあ」


「やめてくれって」


 憎まれ口に見えて、もちろん彼女のそれは照れ隠しである。本気で思ったことのない感情ゆえに、それを出すのは気恥ずかしいのだ。”特殺隊”殆どの者に言えることだった。幼い子供が好意を持つ相手にするように、素直になれない。殆どと言ったが、数少ない例外が最年少のイヴなのも中々に皮肉であった。

 



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