episode26 ふたりのムスメの明と暗? 常夏

◇常夏ざっくりあらすじ

 源氏が引き取った玉鬘は都でも評判なのですが、内大臣が引き取った姫君はあまり評判がよくありません。どうしたものかと悩んだ内大臣は長女の新弘徽殿女御のところへ行儀見習いに行ってくるように提案します。また二女の雲居の雁の縁談も進めることができず悩んでいます。



【超訳】常夏 玉鬘十帖

源氏 36歳 紫の上 28歳

玉鬘 22歳

夕霧 15歳 柏木 20歳



―― 夏の六条院 ――

 夏になり、源氏を初め夕霧や仲間の公達が六条院の水辺で涼んでいるの。桂川の鮎や鴨川の石臥いしぶし(ヨシノボリ、ドンコの別名)などを取り寄せて目の前で調理させてもてなすのね。

「まったく暑くて音楽を聞く気にもならないし、なにか面白い話でもないかな」

 源氏は内大臣の息子もいたので、お酒を勧めながら最近見つかったらしい近江の君という内大臣の姫君のことを聞き始めたの。

 柏木の弟の弁少将べんのしょうしょうが春ごろに内大臣の娘だと名乗り出た姫をお屋敷に引き取った話をするの。身分も低く少し個性的な姫みたいなのね。若い頃いろいろ遊んでいたらしい内大臣らしいと源氏は笑うの。雲居の雁のことでなかなか進展しない息子の夕霧に対しても、「姉妹なんだし、その子とつきあってみれば?」なんてからかったりしているの。

 それにしてもせっかく見つけた近江の君にがっかりしているらしい内大臣だから玉鬘のことを聞いたらどんなに喜ぶんだろうなぁ、盛り上がるんだろうなぁなんて源氏は思っていたの。


 夕暮れになって皆をそこに残して源氏だけ屋敷内に入るの。玉鬘を呼び寄せて、遠くに見える若い公達の品定めをするの。いろいろな種類の撫子ばかりを植えさせた夏の庭が見事で夕映えに光っているの。

 源氏は夕霧と雲居の雁の一件の話をするの。そこで源氏と内大臣が仲違いをしていることを玉鬘は知り、これでは実父に紹介してもらえるのは難しいんじゃないかって思い悩むの。

 月のない夜だったので、燈篭とうろうに灯がともされるの。部屋に和琴が置いてあるのを見て、一番の名手はあなたの父である内大臣だよと源氏は話すの。名人だから滅多なことでは演奏しないけれど、娘のキミはいつか聴くことができるよって話してあげるの。そんな話をしながら源氏が琴を弾くの。華やかな演奏なんだけど、これ以上にお父さんは素晴らしいの? って思いながら玉鬘はお父さんのことを想ったみたいね。

 源氏の琴の音に玉鬘もつい近づいていったみたい。首を傾げている玉鬘の様子は灯の明りでとても美しいので、源氏は琴を脇へやってしまうの。もっと演奏を聴いていたかった玉鬘はちょっとゲンメツしちゃったみたいね。


 何かにかこつけては玉鬘を訪ねる源氏なんだけど、六条院であか抜けて魅力的になってゆく玉鬘にますます惹かれちゃうの。でも紫の上以上に愛することはできないので、中途半端なこの恋心を断ち切るには、誰か玉鬘にふさわしい男と結婚させるのがいいんだろうなと考えるようになるの。蛍兵部卿宮か髭黒の右大将あたりが候補になるなって。

 玉鬘も最初に源氏から告白されて近寄られたころは怖かったんだけれど、それ以上のことはされなくて信頼できそうなので、源氏が抱き寄せたりすることに敢えて抵抗はしなくなったんですって。

 そんな玉鬘がとてもステキになってくるから、源氏ったら手元(六条院)で結婚させて婿を通わせて、自分のアイジンにもしようかな、なんてけしからんことまで考え始めるの。でもそれはそれで結婚する婿に対して猛烈に嫉妬することになるんだろうなぁ、と源氏の悩みも尽きないんですって。



―― 内大臣と雲居の雁 ――

 内大臣が引き取った姫君は近江の姫君って呼ぶことにしたんだけれど、あんまり評判がよくないのね。息子の弁の少将が源氏宅でツッコまれた話を聞くと、内大臣も開き直っちゃって

「ああ、田舎娘を引き取ったよ。普段他人ヒトのことをああだこうだ言わない源氏サマが、我が家のこととなると地獄耳で批判までしてくださるなんて光栄だねぇ」

 なんていじけてるの。


 源氏が探し出したというウワサの姫君はこれ以上ないくらいの評判の姫なのに、自分のところに来た姫君といったら……。それに娘の雲居の雁のことだって源氏が頭を下げてきたら夕霧との結婚を認めてやってもいいと思っているのに、源氏にも夕霧にもそんなそぶりは見られないのね。親子ともども頑固だなって逆ギレしてるみたい。いや、でも今の夕霧の冠位(身分)ではまだ低すぎてうちの婿としては見劣りがするか、とかなんとか考えながら悶々としていたみたいね。


 内大臣は気晴らしに娘の雲居の雁の部屋を突然訪ねるの。雲居の雁はお昼寝をしていたみたい。可憐な小柄の姫君で、夏の薄いころもから透ける肌もキレイで美しい所作で扇を持っているの。黒髪は多くもなく長くもないけれど、裾がとても美しいんですって。

 おとうさんの内大臣は結婚のことも考えているからあなたもきちんとしなさい、なんてお説教までするの。雲居の雁はおばあさまの大宮さまからお手紙をいただくこともあったんだけど、おとうさんに遠慮しておばあさまのところに遊びに行くこともできなかったんですって。


―― 困った近江の君 ――

 さて、問題児の近江の君をどうしたもんかと内大臣は悩んでいたの。田舎に送り返してもウワサになるし、屋敷内に置いておいてもそれはそれでよくない評判が広がりそうなので、長女の新弘徽殿女御のそばに置いて女房たちにしつけなおしてもらおうと思いつくの。

 女御さまの了承をとってから、内大臣は近江の君の部屋へ行くと五節ごせちの君という女房とキャーキャー言いながら双六をしているのね。

 見た目は悪くないどころか内大臣にも似ているのに、態度が落ち着きがなくてやたら早口なんですって。本人が言うにはお産のときに祈祷した僧侶がよくなかったから早口になっちゃったと、その説明もいちいちおかしいので内大臣は苦笑するの。


 ちょうど屋敷内に新弘徽殿女御が帰省してきているから、行儀見習いに行ってきなさいと内大臣が言うと、近江の君は大喜び。水汲みでもトイレ掃除でもなんでもやるわってやる気満々なんですって。

 いつ行けばいいですか? と尋ねると内大臣はいつでもどうぞ、なんなら今日にでも、なんて投げやりに返事したの。盛り上がっている近江の君はすぐに女御さまに手紙と歌を送ったの。


「アタシ、最近このおウチに住んじゃっててぇ、会っちゃいけないのかなぁって、今まで遠慮しちゃってたワケなんだけどぉ、一応妹だからお姉さんに会いたいなぁって思っちゃったりしてるんですぅ」

 手紙は裏にも続くの。

「今日ね、夜に会いたいなって思ったりなんかしてるんだけど、お姉さんはイヤ? もしかして引いちゃってる?」

「手紙とか字とか汚くてホントごめんね!」


~ 草若み 常陸ひたちの浦の いかが崎 いかであひ見む 田子の浦波 ~

(若草みたいにビギナーなんだけど、常陸(茨城)の浦にある河内(大阪)のいかが崎ってカンジ? 一度会ってみたい田子の浦(静岡)の波なんです)


 この歌を受け取った女御さまはあまりの支離滅裂さにビックリ。こんなカンジにお返事しないといけないのならわたくしには書けないからと女房に代わりに返歌を書かせるの。


「これはなんとも革新的アヴァンギャルドなお手紙でございますわねぇ」

 中納言という女房が女御さまの代筆で返事を書くの。


~ 常陸ひたちなる 駿河の海の 須磨の浦に 波立ち出でよ 箱崎のまつ ~

(常陸(茨城)にある駿河(静岡)の海の須磨(兵庫)の浦にいらっしゃいな。箱崎(福岡)の松のようにお待ちしているわ)


 こんなワケのわからない歌をわたくしが詠んだと勘違いされては困るわ、と女御さまが文句を言ってしまうような和歌なのね。それでも見る人が見れば、女御さまが詠んだかどうかくらい簡単にわかるはずだからとそのまま近江の君に届けさせたの。


「うっわぁ! オッシャレーなお歌よねぇ!!」

「さすがセレブだわぁ!!! アタシのお姉さんなんてスゴイじゃんっ!!!!」

 受け取った近江の君は「まつ」とかいてあるから待ってくれてるんだわ! とルンルン気分で女御さまのところへ行く支度を始めるの。甘い匂いの薫香を衣にガンガン焚きつけて、ヘアメイクもバッチリ、ド派手に決めたみたいよ。

 

 やれやれ女御さまとのご対面はどうなることかしらね。



◇永遠のライバル同士の源氏と内大臣のそれぞれが引き取っている娘のお話ですね。もっとも源氏の養女の玉鬘は内大臣の娘ですが、まだ内大臣はそのことを知りません。そして今回登場する内大臣の近江の君ですが、玉鬘とは対照的に描かれていますね。

 


~ 草若み 常陸ひたちの浦の いかが崎 いかであひ見む 田子の浦波 ~

近江の君が新弘徽殿女御に贈った歌


~ 常陸ひたちなる 駿河の海の 須磨の浦に 波立ち出でよ 箱崎のまつ ~

新弘徽殿女御の女房が代わりに詠んだ近江の君への返歌



第二十六帖 常夏


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

源氏物語や平安トリビアについて綴っています。

よかったら合わせてお楽しみくださいね。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812

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