episode21 小さな恋の物語 乙女
◇乙女ざっくりあらすじ
源氏の息子、夕霧のおはなしです。おばあさまの家で
【超訳】乙女
源氏 33~35歳 紫の上 25歳~27歳
夕霧 12~14歳 雲居の雁 14~16歳
冷泉帝 15歳~17歳 秋好女御(梅壺) 24~26歳
―― 源氏と朝顔の君 ――
源氏と朝顔の君との手紙のお付き合いは続いていたの。お父さんの桃園式部卿宮の喪も明けたので、朝顔の君の叔母の五の宮さまも
「お父様も望んでいらしたことだし、いいご縁なんじゃない?」
と源氏との結婚を勧めるの。けれどもやっぱり朝顔の君は源氏とは結婚しようとはしないの。源氏も朝顔の君のことは尊重しているから無理やり奥さんにしようとは考えなかったみたい。
―― 夕霧の元服 ――
そのころ源氏と亡くなった葵の上の子の夕霧の元服(成人式)の日が近づいてきたの。夕霧を育ててくれた大宮さま(左大臣の妻・夕霧のおばあさま)に式を見せてあげたいと思った源氏は大宮さまの家で元服の儀式を行うことにしたの。
源氏の息子だから与えられる冠位(階級)は四位は確実だろうってみんなウワサしていたんだけれど、源氏はあえて夕霧の冠位を六位にしたの。
あまりに低い冠位におばあさまも不平を言うんだけど、源氏は親の七光りで高い冠位におごった人生を送るべきではなく、学問をしっかり修めて自分で出世するべきだと自分の考えを大宮さまに話すの。
「息子(頭中将)も不思議がってたし、頭中将の息子たちよりも低い官位の浅葱色の
源氏から事情を聞いても大宮さまはそうおっしゃるの。
「それは子供らしい不平ですね」
源氏はそう答えながらも息子の夕霧のことが可愛くてならないって思っていたみたいなの。
夕霧も予想もしていなかった低い冠位にがっかりするの。でも学問を早く修めてまわりから認めてもらおうと、今までのおばあさまの家から源氏の二条院の東の院に引っ越して大学寮に入学することなったの。源氏のような高貴な身分の人が息子を大学寮に入学させたことに大学関係者はとっても感激したの。当時は身分の高い人は学歴がなくてもある程度の身分が保証されているので大学で勉強をする人は少なかったのね。
もともとがまじめな性格で浮ついたところがない夕霧は4、5か月のうちに『史記』も読み終えてしまうの。そうして大学寮の試験にも合格して、冠位が上がるように毎日努力を重ねるの。
―― 冷泉帝の中宮 ――
同じころ、冷泉帝の中宮(皇后)を決めることになったのね。源氏の養女の梅壺女御か大納言(頭中将)の娘の新弘徽殿女御のどちらがなるのかと周囲はざわつくの。もうひとり、紫の上の父も娘の王女御を入内させていたんだけど、源氏は完全に梅壺女御のサポートにまわっているの。
結果は梅壺が中宮となり、秋好中宮と呼ばれるようになるの。亡くなったお母さんの六条御息所にくらべてなんて幸運な女性なんだろうって世間はウワサしたんですって。そして源氏は太政大臣に昇進して、大納言が内大臣になったわ。
―― 小さな恋の物語 ――
内大臣(頭中将)には娘がふたりいたの。ひとりは新弘徽殿女御でもうひとりは雲居の雁というの。雲居の雁を産んだ女性とは離婚していて、雲居の雁は内大臣の両親(太政大臣と大宮さま)の家で育てられていたの。
同じように大宮さまに育てられている夕霧とはいとこ同士の幼馴染で仲良く過ごすうちにお互い淡い恋心をいだくようになるの。お互い成長して
元服をしたら正式にお父さんの内大臣に結婚の申し込みに行こうと夕霧は考えていたんだけれど、元服のときの冠位があまりに低い身分だから内大臣に結婚の申込にも行けないの。それに二条院の東の院に引っ越してからは、雲居の雁とはあまり会えなくなるんだけど、ひとまずは勉強をして出世をして冠位を上げることにしたみたいね。
ある日、内大臣は大宮さまのもとへやってきて、雲居の雁を東宮さまの元へ入内させるつもりだと打ち明けるの。大宮さまはちらっと夕霧のことが頭をよぎったけれど、入内も悪い話ではないと思ったみたいね。
そこへ夕霧がやってくるんだけど、内大臣は夕霧と雲居の雁を会わさないのね。
「(付き合っているのを)知らないのは親だけね」
大宮さまのところの女房たちがこそこそ話しているのを内大臣は聞いてしまうの。内大臣にしてみれば、新弘徽殿女御が中宮になれなかったので、雲居の雁で次の帝の中宮を狙おうと思っていたのに、夕霧に邪魔されちゃったのをものすごく怒ったの。雲居の雁も思ってもいなかった大騒動になり泣いてしまうのよ。
内大臣は大宮さまに文句を言って、雲居の雁を自分の家に連れて行くと言いだすの。息子の内大臣にとっては源氏がライバルでその息子に娘をとられるのが悔しくて怒っているんだろうって大宮さまは思うの。
「雲居の雁にとって夕霧以上のお婿さんなんていないのに」
これが大宮さまの本音なのよね。
そんなところに夕霧がやってきたので、大宮さまはなりゆきを話したのよ。
雲居の雁が内大臣家に行ってしまうともう逢えなくなってしまうからと、夕霧は雲居の雁の部屋へと行くんだけど、鍵がかかっていて入れないの。
「空の雁も鳴いているけど、あたしみたい」
雲居の雁のひとりごとが聞こえてくるの。
「ここを開けて」
夕霧がそう言うと、ひとりごとを聞かれてしまった雲居の雁は恥ずかしくなっちゃうの。
「秋風が……吹き渡ってるね」
扉一枚ごしにふたりは切ない秋の夜を過ごすの。
自分たちが想い合ってお互いを好きでいることがそんなに悪いこととは思えないの。どうしてこんなに大騒ぎになってしまったのかわからないのよね。
大宮さまは大事に育てた孫との別れを悲しみ、雲居の雁も泣いてばかりいるの。
「若さま(夕霧)と同じく姫さまのこともご主人と思っていたんですよ」
「他の方との縁談など断ってくださいませね!」
「内大臣さまがうちの若さま(夕霧)のことを軽蔑なさるのが我慢ならないんです!」
夕霧の乳母は雲居の雁にそう言うの。
夕霧と雲居の雁は少しのあいだだけこっそり会うことができて別れを惜しむの。ふたりは離れ離れでいてもお互いを想っていようと約束をするのね。
「まさか逢えなくなるなんて思いもしなかったよ」
逢えるうちにもっと逢っていたかったって夕霧が雲居の雁にそう言うの。
「わたしもあなたと同じ気持ちよ」
雲居の雁もツライわね。
「(僕のこと)恋しいって思ってくれる?」
夕霧が聞くと雲居の雁は小さくうなずくの。
ふたりをさがしていた雲居の雁の乳母がやってきて、
「六位の人(夕霧の冠位=身分)が姫さまのお相手なんて情けないこと」
と夕霧のことをバカにしたの。夕霧は自分の冠位が低いことを悔しがったわ。
~ くれなゐ《い》の 涙に深き 袖の色を 浅緑とや 言ひしをるべき ~
(血の涙に染まっている袖の色を六位の浅緑の色だとバカにするの?)
とうとう雲居の雁は内大臣家に連れて行かれてしまったの。夕霧は夜通し泣いて、大宮さまにも会わないでそっと二条院に帰ったわ。
―― 夕霧の悩み ――
そのころ夕霧は失恋の悲しみで何にも興味が持てなかったの。彼は大学生で落ち着いたイケメンだったから若い女房たちから人気なの。夕霧はお祭りの準備の最中にその舞姫の顔を見たの。雲居の雁と同じくらいの年のキレイな女の子なのね。普段は六位の浅葱色の服がイヤで御所にもあまり行かない夕霧だけれど、お祭りのときは好きな色の
五節の舞姫が御所に参内する儀式はとても立派で、中でも惟光の娘がイチバン美しいの。夕霧は恋しい雲居の雁とは会えないので、かわりに彼女と付き合えたらいいななんて思ったみたい。惟光は娘を
夕霧は彼女に手紙を送ってみるの。お父さんの惟光もこの手紙のことを知るんだけど、好意的なのね。娘を宮仕えに出そうと思っていたんだけど、夕霧はマジメだから夕霧の妻もアリかもしれないな、なんて考えていたの。これで俺も明石の入道になれるかなって(娘の産んだ子供が出世する)妄想までしたみたいよ。
雲居の雁とは会えず、気になった五節の舞姫は宮仕えに行ってしまうし、夕霧の想いはどちらにも報われなかったみたいね。
源氏は夕霧と同じ二条院の東の院に住んでいる花散里に母親代わりをお願いするの。花散里はとても素直な性格なので夕霧を可愛がって優しくお世話をしてあげたみたいね。夕霧は花散里の顔を見ることもあったんだけど、はっきり言って美人さんではなくてお父さんの源氏とは釣り合わないなぁって思っちゃうの。それでもこんな優しい人と夫婦でいられることは幸せなんだろうなぁとも思うのよね。
年が明けて、冷泉帝は朱雀院のところへ
夕霧は勉強を頑張って従五位に昇進するの。雲居の雁のことを片時も忘れないんだけど、内大臣の反対を押し切ってまで無理に逢いに行こうとはしなかったの。こっそり手紙のやりとりだけする苦しい恋をしていたのよ。
―― 夢のマイホーム完成 ――
源氏は念願のマイホームを完成させたの。六条御息所のお屋敷のあったところに大きなお屋敷を建てたの。
そのお屋敷は六条院と呼ばれて4つの区画に分かれているの。
中宮さまが秋の町に里帰りされているときに、春の町の紫の上に和歌を贈るの。あなたさまは春がお好きかもしれないけれど、季節は秋なので紅葉が綺麗ですよって。紫の上も返歌をするの。紅葉は風に散ってしまいますからね、常緑の松は根をしっかり張っていますよって。言ってみれば「春と秋、どっちが素晴らしいか対決」。そんなやりとりはとっても風流な遊びだったみたいね。
~ 心から 春待つ園は わが宿の 紅葉を風の つてにだに見よ ~
(春をお待ちかねのあなたさまですが、わたくしの庭の紅葉をごらんくださいな)
~ 風に散る 紅葉は軽し 春の色を 岩根の松に かけてこそ見め ~
(紅葉は風に散ってしまいますわよ。この岩にしっかりと根を張る松の春の色こそごらんになって)
和歌には作り物の松まで添えたから、源氏も紫の上の機転に感心するのね。源氏と紫の上は結婚して何年経っても相変わらず仲の良い夫婦だったみたいよ。
明石の御方はみんなのお引越しが済んでから目立たないようにこっそりと冬の町に入られたみたい。源氏は明石の姫君の母でもある明石の御方をとっても大事にしたの。
◇源氏の息子の夕霧の恋の物語です。幼馴染で従姉の雲居の雁との可愛らしい初恋のお話ですね。少し年上の雲居の雁の君との恋ですが、思いがけず引き離されることになります。幼いながらも想い合っているのに、その感情がいけないことだと否定されてしまいました。ふたりは「離れていても恋しいと想っているから」と切ない約束をします。夕霧は自分を成長させて頭の中将に認められるまで雲居の雁とは会わないと誓います。
お父さんの光源氏なら引き離されても無理矢理会いに行ったりするかもしれませんね
~ くれなゐの 涙に深き 袖の色を 浅緑とや 言ひしをるべき ~
夕霧が六位を侮辱されたときに詠った歌
第二一帖 乙女
☆☆☆
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