episode35-1 六条院の人びと    若菜下

◇若菜下(1)ざっくりあらすじ

 源氏にお嫁入りした女三宮のことを柏木は諦めきれず、苦しんでいます。

 冷泉帝が退位して明石の女御の夫の東宮が帝に、若宮が東宮になります。明石の一族の宿願が果たされたので源氏は一族で住吉に御礼参りに出かけます。


【超訳】若菜下(一)

源氏 41~46歳 紫の上 33~38歳

女三宮 15~20歳

明石の御方 32~37歳 明石女御 13~18歳

夕霧 20~25歳 柏木 25~30歳



―― 柏木の恋の病 ――

 女三宮の女房の小侍従からの返事(「しょせん高嶺の花よ」)は本当にそのとおりなんだけど、ヒドイ言われようだと柏木は思うの。もうあんな薄情な女房経由じゃなくて、なんとかして女三宮本人に直接告りたいって思い始めるの。それは普段尊敬している源氏を裏切る行為なのに、欲望に歯止めがかけられなくなってきているのよね。

 また六条院で弓のイベントが開かれて大勢の貴族たちが集まるんだけど、やっぱり柏木はもの想いにふけっているの。

「大丈夫だよな。ヤバいことにはならないよな?」

 夕霧はひとりハラハラ心配しているの。


 柏木も源氏と顔を合わせると、やっぱりこんな気持ちでいてはいけない、人から非難されるようなことをしてはいけないって考え直すんだけどカンタンにはあきらめられないみたいなのよね。

 そんな柏木は、御簾を巻き上げて女三宮の姿を見せてくれた猫だけでも手に入れたいと思ってツテをたどってなんとかあのときの猫を自分のものにしたの。突然猫とばかりじゃれている柏木の様子に周りの女房達が不審がるのよね。


~ 恋ひわぶる 人の形見と 手ならせば なれよ何とて 鳴くなるらん ~

(恋しい人のかわりに可愛がっているのに、どういうつもりで「ねうねう寝よう、寝よう」なんておまえは鳴くの?)


 そんなことを言いながら猫を懐に入れて妄想にふけっているのよね。


 そのころ髭黒の娘の真木柱まきのはしらと蛍兵部卿宮(源氏の弟、玉鬘を口説いていたヒト)が結婚したの。だけど、蛍兵部卿宮は亡くなった奥さんの面影を求めていて、真木柱が似ていないと判るとあんまり通ってくれなくなるんですって。髭黒も娘があまり幸せでないことを残念に思うのね。


―― 冷泉帝の退位 ――

 そして4年ほどの年月が流れて冷泉帝が譲位するの。このとき冷泉帝が28歳、源氏が46歳。帝に即位してから18年が経っていたの。帝には帝位を譲る男の子がいなかったのでこれからは気楽に愛する人たちと暮らしたいっておっしゃるの。源氏は冷泉帝に跡継ぎ(男の子)が産まれなかったことを残念に思うの。冷泉帝が藤壺の宮との罪の子であるってヒミツはバレなかったけれど、えにしは繋がらない運命だったんだなってひとりでひっそり感慨にふけったんですって。

 そして冷泉帝の退位によって東宮さまが即位して明石女御の子が次の東宮になるの。太政大臣(元内大臣)も引退して、髭黒が右大臣に、夕霧が大納言に、柏木は中納言に昇進するの。


―― 六条院の女君がたの近況 ――

 六条院では源氏が女三宮を大切に接しながらもやっぱり一番愛しているのは紫の上なのね。それに紫の上は女三宮とも仲良く交流しているみたい。それに紫の上はそろそろ自分もトシなので出家して尼になりたいわって源氏に話しはじめるの。


「冗談だろ? 俺が出家したいのにキミが心配でしていないんだよ?」

 源氏は紫の上の出家を認めたくないの。


 明石女御さまは明石御方のことを本当の母親と敬っていて、その明石御方は謙虚に女御さまの後見役に徹している様子がとても立派なのよね。そのお母さんの明石の尼君は(ひ孫が春宮になったので)あまりの幸せにうれし泣きしているんですって。



―― 源氏一族 住吉ツアー ――

 源氏は明石入道の宿願がすべて達成されたので住吉詣でに出かけることにするの。明石の女御や紫の上に明石の御方や明石尼君も一緒に連れていくの。

 明石の御方や女御さまや尼君の昔を懐かしく思い出した源氏が尼君に和歌を贈るの。


~ たれかまた 心を知りて 住吉の 神代を経たる 松にこと問ふ ~

(住吉の神様に願をかけたことを私以外に覚えていらっしゃるのは尼君だけですね)


 尼君もすぐに源氏に返歌をしたの。


~ 住の江を 生けるかひある 渚とは 年ふるあまも 今日や知るらん ~

(ここがいい想い出の場所となったことが年とった尼にも今日わかりましたよ)


 源氏たち一行は一晩中神楽かぐら(神様に奉納する歌や舞)を演奏して楽しむの。紫の上は普段お屋敷から出たことがなく、都から離れた旅行なんて初めてだからどんなことも新鮮で興味深かったみたい。


 世間では明石尼君が元は中流階級の夫人だったのに次に帝となる東宮さまのひいおばあちゃんになったので長寿で幸運の象徴みたいに言われているの。あの近江の君もすごろくでサイコロを振るときとかに良い目がでるように「明石尼君、明石尼君」っておまじないを唱えるんですって。



―― 紫の上の苦悩と六条院の人びと ――

 源氏は表向き女三宮を大事には扱っているけれど、どうしたって紫の上のことが愛おしくてたまらないの。

 そんなウワサは女三宮のお父さんの朱雀院の耳にも入ってくるから出家していても朱雀院は娘のことが心配で、それを見た帝(女三宮のお兄さん、明石女御のオット)は女三宮の位を上げるの。朱雀院や帝が後ろ盾バックについていて位も高い女三宮と比べると、源氏だけが頼りの紫の上はこのまま源氏と過ごす時間も減ってくるし愛情だっていずれは尽きてしまうわと思うの。

 源氏も朱雀院や帝への義理もあるので、女三宮のところで過ごさなきゃいけなくなってくるの。紫の上は源氏のいない時間を明石女御が産んだ内親王(女一の宮)を預かって気を紛らわせているのよね。


 紫の上も明石の御方も孫の世話をしているのが花散里は羨ましくなったみたいで、夕霧と藤典侍の子供を預かって育てているの。源氏自身は子供が少なかったんだけど、いつのまにか孫はたくさんできていたのよね。

 玉鬘も32歳になっていて立派な右大臣夫人なの。六条院にも遊びに来て紫の上とも仲良くしているんですって。

 そんな六条院のメンバーに比べると女三宮だけが幼くてたよりなく見えるのね。でも自分の娘の明石女御が手元を離れたので、これからは女三宮の教育をしていこうって源氏は考え直すみたいね。




◇明石の女御の産んだ若宮が東宮になったので、恐らく将来この東宮が帝になります。一族から皇后と帝が出るという明石の入道の夢が叶いますね。

 女三宮と結婚したことでますます紫の上の素晴らしさに気づいた源氏ですが、反対に紫の上の気持ちは源氏から離れ出家をしたいと考えるようになります。



~ 恋ひわぶる 人の形見と 手ならせば なれよ何とて 鳴くなるらん ~

柏木が女三宮の猫を手に入れて詠んだ歌



第三十五帖 若菜下(一)



※源氏物語第三十五帖【若菜下】を3つに分けて【超訳】している1番目のエピソードです。三十四帖【若菜上】に引き続き第三十五帖【若菜下】もボリュームがあり、今後のカギとなるエピソードが多数登場するのでこのような形式にしています。



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