episode34-3 慶びの春と忍び寄る影 若菜上

◇若菜上(3)ざっくりあらすじ

 明石の女御が自分の出生の事実を知ります。自分の今の幸せが周りの人達の愛や想いのおかげだと悟ります。その後若宮を無事出産し、六条院は慶びに包まれます。

 一方で夕霧の友人の柏木は結婚できなかった女三宮のことが忘れられません。



【超訳】若菜上(三)

源氏 41歳 紫の上 33歳

女三宮 15歳

明石女御 13歳

柏木 25歳 夕霧 20歳



―― 明石女御の真実 ――

 明石女御あかしのにょうごさまの出産が近づいているから源氏はいろいろと祈祷をさせているの。夕霧が産まれたときに奥さんの葵の上を亡くしているから源氏にとってお産はトラウマになっているみたい。だから紫の上に子供がないのを残念に思ったこともあるけれど、危ない目に合わせずにすんだのはよかったって思っているの。明石女御さまはまだ幼くて身体つきもか弱いから出産に耐えられるのかどうか源氏はもちろん、紫の上もとっても心配しているみたいね。

 具合のあまりよくない明石女御の気分を変えた方がいいと陰陽師たちが言うので、源氏は女御さまに明石御方あかしのおんかたの冬の御殿に移ってもらうの。明石御方は明石女御さまについて宮中に上がって何年か経っているんだけれど自分が生みの母親だという真実をまだ話していないのね。


 冬の御殿に住んでいる明石の御方のお母さんの明石の尼君は孫娘の女御さまが来てくれて大喜びなの。そこで嬉しくなった尼君は女御さまの実のお母さんの明石の御方のことや紫の上に預けたいきさつを話して聞かせるの。

 権力のある源氏の娘で紫の上からの愛情を受けて育ち、当たり前のように春宮妃になったと思っていたけれど、自分の今の立場や幸福は周りの人のおかげだったって改めて気づかされるのよね。女御さまも自分が紫の上の本当の子供でないことはなんとなく気づいていたみたいなの。実のお母さんが少し身分が低い人だっていうことも知っていたんだけれど、明石の御方だとは思っていなかったみたい。おじいさんの明石の入道がもう山に籠ってしまったことも悲しいことだったわね。

 そこへ明石の御方もやってきて、尼君が女御さまに真実を話してしまったと知るの。臨月で体調も思わしくないときに精神的にも不安定になってしまうんじゃないかって明石御方は心配するの。

 

~ 老いの波 かひある浦に 立ちいでて しほたるるあまを たれか咎めん ~

(こんな日がくるなんて長生きしていてよかったわって嬉し泣きしているわたしを怒ったりしないでね)


 嬉しくて話しちゃったのよ、と尼君はこんな歌を詠んで泣いているの。


~ しほたるる あまを波路の しるべにて 尋ねも見ばや 浜の苫屋とまやを ~

(おばあさまに案内していただいて生まれた浜辺に行ってみたいわ)


 明石女御はこんな歌を詠うの。すると明石の御方も


~ 世を捨てて 明石の浦に 住む人も 心の闇は 晴るけしもせじ ~

(今も明石にいるおじいさまのわたくしたちを思うお心はまだ晴れないでしょうね)


 山に籠ってしまった明石入道のことを歌に詠んだのよね。



―― 明石女御さまの出産 ――

 3月に女御さまは若君を無事出産。出産後は女御さまと若宮は春の御殿に移動してしまうの。紫の上は赤ちゃんのお世話が嬉しくてならないみたい。明石の御方も女御さまの実の母親ってみんなには知られているけれど出しゃばったりしないで周りを気遣うから、みんな明石の御方を褒めるのね。宮中からもお祝いの品が届いて祝福ムードでいっぱいの六条院。もちろん源氏も大喜び。

 紫の上は子供好きで若宮の面倒を見てあげて、明石の御方も紫の上を尊重しながら自分のすべきことをしていて、ふたりはとても仲良くしているの。以前は明石の御方に嫉妬したこともあったけれど、今は友情で結ばれているようなふたりのようね。明石尼君だけは女御さまと若宮さまが冬の御殿からいなくなってしまってがっかりしちゃったみたいね。


 明石にも若君誕生のニュースは伝わり、明石の御方のお父さんの明石入道あかしのにゅうどうは願いがすべて叶ったからと明石のお屋敷を離れて山奥に籠ってしまうの。最後に娘の明石の御方に長い長い手紙を書いたのね。


 それには姫君(明石女御)の若宮出産を祝い、明石の御方が産まれる前に見た夢の話が書いてあったの。

 夢の中で入道は須弥山しゅみせん(仏教で世界の中心となる山)を右手に持っていて、その山の周りを月と日の光がさしているの。入道自身は山の陰になっていて日は当たらないんだけど、その山を広い海に浮かべて置いて入道は小さい舟で西の方に去っていったんですって。


 この夢は入道に娘が産まれてその子孫から帝(日)と皇后(月)が産まれることを暗示していたの。それからはその夢が現実になるようにさまざまな願をかけて明石の御方を育てたの。そして夢のとおりに明石の御方は姫君を産んでその姫君が入内して妃となって若宮を産んだわよね。

 きっとこのまま姫君が皇后になって若宮が帝になるだろうから入道の夢のすべてが叶うことになるわね。そうすると、入道が極楽浄土に行く(西の方に船で行く)ことも叶うだろうから、私がいつ死んでも気にすることはないけれど、願を叶えてくださった仏様へのお参りはするようにって書いてあったの。


~ 光いでん 暁近く なりにけり 今ぞ見し よの夢語りする ~

(夢が叶いそうになったので初めてこの夢の話をしてみました)


 奥さんの明石の尼君宛てはとても短い手紙だったんだけど、長生きして若宮の御代になるのをごらんなさい。私とは極楽浄土で逢いましょうって書いてあったんですって。


 この手紙を書いた3日後に山へ入られたと使者が話すのね。明石を離れたときがそのまま永遠のお別れになってしまったと明石尼君と明石の御方は大きな悲しみにくれたの。


 明石の御方は手紙を女御さまに渡すの。おじいさまの想いを忘れないように、それから紫の上の御恩を決して忘れてはいけないと話すのね。そのあと源氏もやってきて入道の手紙を読んだの。特に夢の話には興味をひいたのね。(源氏も占いで帝と皇后が産まれるって言われたから)そしてやっぱり明石の御方と恋に落ちて姫君が産まれたのは宿命だったんだなぁって思うのですって。

 あなたの産まれた事情はこうだけど、紫の上の有難さを忘れちゃいけないからね、実の子でないあなたを愛し慈しんで育ててくれて、今もあなたを愛してくれているんだからねと源氏は女御さまに話をしたの。側で聞いている明石の御方にも源氏が紫の上のことを特別に想っていることがわかったみたいね。


 源氏は紫の上とうまく連携して女御や若宮の世話をして仲良くしてくれていることを明石の御方に感謝するの。源氏がその日紫の上のところに戻って行くのを見て、明石の御方は今まで以上に源氏が紫の上を愛しているように感じられるの。高貴な女三宮でも紫の上に敵わないのに、身分の低い自分がよく源氏の夫人になっているわってしみじみ感じたみたいね。



―― 柏木の恋 ――

 夕霧は女三宮のことは自分に持ち掛けられたかもしれなかった縁談だったので、なんとなく様子をうかがっていたのね。源氏は表面上大切に扱っているだけっぽいなって見抜いているのよ。女房たちも派手で騒がしいカンジで落ち着いた大人がいないようなの。女三宮には源氏がいろいろと教えてあげていたから少しは夫人らしくはなっているけれども、女三宮のウワサを聞くたびに夕霧はやっぱりカンペキな女子なんていないもんなんだなって思うんですって。けれど、源氏と長く一緒にいる紫の上の悪いウワサなんて聞いたことがないから、やっぱり台風の日に見たあの紫の上は最高の貴婦人でいまだに忘れることができないみたい。


 そして夕霧の友人の柏木は女三宮と結婚できなかったから落ち込んでいるの。女三宮の女房の小侍従こじじゅうから女三宮の情報を聞くんだけど、源氏の愛情の深さはやっぱり紫の上がイチバンで女三宮は飾り物のような扱いだって知るとひとりモヤモヤしているのよね。


「僕だったら宮さまにそんな思いをさせなかったのに」

「六条院(源氏)みたいに立派な男ではないけれどさ」

「もし院が出家したら宮さまをいただきたい」

 そんなことを小侍従にぼやいているんですって。


 ある日、六条院の春の町で柏木や夕霧たちが蹴鞠を楽しんでいて、女三宮たちも御簾内から見物しているのね。途中で夕霧と柏木が階段きざはしで休憩するの。散った桜の花びらが雪のように階段に降ってくるの。近くの御簾の向こうでは女三宮の女房たちがいるんだけれど騒がしくて几帳もどこかにやってしまって少しお行儀がよくないのよね。そんなときにハプニングで女三宮のいる部屋の御簾を猫が巻き上げてしまって中が丸見えになっちゃったの。

 女三宮の姿も見えてしまうの。春らしい紅梅がさねに桜色の細長ほそなが(上着)が華やかで黒髪がとっても美しいの。小柄でほっそりとしていて、顔立ちもとても美人さんなの。女房たちは御簾が巻き上がっていることに気づいていなくて、焦った夕霧が咳払いをして女三宮に知らせるの。それで女三宮は奥に下がったんだけど、なんか隙だらけの女の子だなぁって夕霧は思ってしまうの。


 けれども柏木は結婚したかった相手の顔を見てしまってますます盛り上がっちゃうの。蹴鞠のあとの飲み会でも柏木はうわの空なの。夕霧はきっと女三宮のことを想ってるんだなって思うの。柏木はきっとあまりに恋するあまりに神様が彼女の姿を見せてくれたんだなんて感激してるみたい。

 源氏は自分も太政大臣(元内大臣)に蹴鞠は敵わなかったけどキミも上手いねと柏木を褒めるの。若々しく美しい源氏を目の前にすると、源氏に勝てるものなんて何もないと柏木は落ち込むのよ。


 夕霧も一緒の牛車で帰るんだけど、柏木が源氏は紫の上ばかりを寵愛になっているから女三宮がお気の毒だって愚痴を言い始めるの。夕霧はそんなことはないと否定するの。


~ いかなれば 花に伝ふ うぐひすの 桜を分きて ねぐらとはせぬ ~

(どうしてあの人は僕のところに来てはくれないんだろう)


 そんな歌を柏木が詠むからやっぱり女三宮の姿を見て恋に落ちてしまっていると夕霧は焦るの。


~ 深山木みやまぎに ねぐら定むる はこ鳥も いかでか花の 色に飽くべき ~

(もう帰る家が決まっている人なんだから飽きたりするわけないじゃん)


 お前はなんか誤解しているよと夕霧は柏木に忠告してあげるんだけど、盛り上がっている柏木は聞き入れなかったの。

 柏木はまだ独身でお父さんの太政大臣の家に住んでいるの。どうしても自分の気持ちを知ってほしいと柏木は小侍従経由で女三宮に手紙を出すの。


~ よそに見て 折らぬなげきは しげれども なごり恋しき 花の夕かげ ~

(自分のものにはできない悲しみは深いけれども、あの夕方に見た美しさに今も恋しています)


 僕は恋の病にかかっています、なんて手紙を受け取った女三宮は男性に顔を見られてしまったことで源氏に叱られるって怯えちゃうの。もちろん返事なんて女三宮は書かないから、柏木には小侍従が「高嶺の花に恋してもムダよ」って書いたみたい。



◇明石女御が無事男の子を出産して明石入道の願望がすべて叶いました。母親代わりの紫の上と実の母の明石の御方も協力して皇子さまのお世話をしています。

 一方、柏木はいまだに源氏に嫁いだ女三宮をあきらめられずにいます。源氏の息子であり柏木の友人でもある夕霧が「早まったことをするなよ」と心配していますね。



~ よそに見て 折らぬなげきは しげれども なごり恋しき 花の夕かげ ~

柏木が女三宮に贈った恋の歌



第三十四帖 若菜上(三)


※源氏物語第三十四帖【若菜上】を3つに分けて【超訳】している3番目のエピソードです。この第三十四帖の【若菜上】はかなりボリュームがあり、今後のカギとなるエピソードが多数登場するのでこのような形式にしています。

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