episode34-2 さざ波が揺らす心   若菜上

◇若菜上(2)ざっくりあらすじ

 朱雀院の出家に伴い、寵妃だった朧月夜が実家に戻ります。源氏はそんな彼女と再会します。

 また正室の女三宮があまりにも子供なので、源氏はますます紫の上を愛するようになります。

 そして、明石の女御が懐妊してお産のために六条院に帰省してきます。紫の上は女御さまの帰省や懐妊は喜びますが、女三宮のことや朧月夜のことで深く傷ついています。



【超訳】若菜上(二)

源氏 40歳 紫の上 32歳

女三宮おんなさんのみや 14歳 

明石の御方 31歳 明石女御 12歳

夕霧 19歳 柏木 24歳



―― 元カノと復活⁉️  ――

 朱雀院の寵妃だった朧月夜も出家を考えていたんだけど、朱雀院のすぐあとに出家するのも世間体がよくないので今は実家に戻っているの。源氏は過去のことを思い出すの。別れたくて別れたふたりではなかったから今もカノジョに恋してるのね。でも源氏が明石から戻ってきてからはお互い身分も重くなり、カノジョにまたツライ想いをさせられないと気遣って逢ったりはしていなかったの。けれども今は朱雀院が出家して朧月夜は一人暮らしになったから、源氏は逢いたくなっちゃうのよ。そこでツテをたどって手紙を出すの。


「懐かしいから少し話でもしない? もちろん直接会ったりはしないから」


 そんな手紙を受け取った朧月夜は従者にこう返事するの。

「何言ってんのよ。そんな必要ないわよ。しょせんワタシとは遊びだったでしょ? 出家されたけど院さまがいらっしゃるのにアナタとするお話なんてないのよ」


「んなこといっても昔はさ、全部無視して愛し合ったんじゃん? ちょっと(朱雀)院には気は引けるけど、まあないこともないんじゃない?」

 結局源氏は朧月夜のところに出かけることにするの。紫の上には末摘花のところに行ってくるなんてウソまでついて。

 とびっきりのオシャレな支度をしているし、源氏と朧月夜が文をやりとりしているのを紫の上は知っていたから、きっと源氏は朧月夜に逢いに行くんだわって推測するの。けれども紫の上は女三宮の降嫁以来オットの恋愛について口出しすることをやめたので素知らぬフリをしていたの。


 朧月夜は断ったハズの源氏がやってきたから動揺するの。

「もう昔みたいなことはしないからさ。話だけしようよ」

 源氏の言葉に朧月夜はため息をつきながら近づくの。源氏のいる座敷の隣の部屋に朧月夜はいるのね。ふたりの間の襖子からかみには鍵をかけているんだけどね。


(軽いカンジはやっぱ変わってないじゃん)

 源氏はそう思うの。

 夜も更けてきて鴛鴦おしどりの鳴き声なんかも聞こえてきてしっとりとした風情なの。

「ね、いつまでこの鍵かけたまんまなの?」

 

~ 年月を 中に隔てて 逢坂あふさかの さもせきがたく 落つる涙か ~

(せっかく久しぶりに逢えたのに、こんな障害があったら泣けてくるじゃんか)


 源氏は必死よね。


~ 涙のみ せきとめがたき 清水にて 行き逢ふ道は 早く絶えにき ~

(涙だけは止められないけれど、ワタシ達の逢う道なんてもうないのよ)


 朧月夜は拒むのね。けれども、


(アナタは誰の為に失脚したのかしら。ひとりで罪を負ってくれたのにワタシったらこんなに冷たくしていいの?)


 なんて少し心が揺らいでくるの。朧月夜はもともと真面目な性格でもなく、長い年月で過去の過ちの清算をしたつもりだったんだけれど、いざ近くに懐かしい人がいると思うと強く拒絶していられなくなってくるのよね。

 そうしてふたりは再会するの。変わらずに若く美しい朧月夜に初めて会ったとき以上に源氏は盛り上がってしまうの。そのままふたりは夜を一緒に過ごしてしまうの。


 朝になっても帰りたくない源氏。朧月夜も朝日をうける源氏の美しさに見惚れちゃうの。庭には藤が咲いていて、以前密会していたころを源氏は思いだすの。


~ 沈みしも 忘れぬものを 懲りずまに 身も投げつべき 宿の藤波 ~

(須磨に謹慎に行ったことは忘れてないけど、また藤の花キミに落ちちゃいそうだよ)


 朧月夜はまたこんなことになってしまったことを恥ずかしく思うんだけど、やっぱり源氏のことは恋しいみたいね。


~ 身を投げん 淵もまことの 淵ならで 懸けじやさらに 懲りずまの波 ~

(落ちちゃうって言っても本気じゃないんだからワタシは一緒に落ちたりしないわよ)


 こんな風に女子の家に出かけてデートするなんて若者みたいで久しぶりだったんだけど、朧月夜も変わっていなくて次の約束までして源氏は帰ったんですって。


 源氏は六条院にこっそり帰ってくるの。そんな様子を見て紫の上はやっぱり朧月夜のところに行ってたんだわって思うんだけど、気づかないフリをしているの。すると居心地の悪い源氏は馬鹿正直に朧月夜とのことを話しちゃうのよ。紫の上は新しく若い正室を迎えた上に元カノさんとも復活するなんて、わたしなんてホントにかすんじゃうわね、って泣いてしまったの。



―― 紫の上の絶望感 ――

 東宮さまに入内した明石女御あかしのにょうごが妊娠して実家の六条院(春の御殿)に里帰りしてきたの。紫の上は久しぶりに女御さまに会うついでに女三宮にも挨拶に行こうとするの。源氏は幼稚な女三宮を見られるのは少し決まりが悪かったんだけれどね。

 紫の上はしみじみ考えるの。20年以上も一緒に住んでいて源氏から一番愛されているって過信していたけれど、小さい頃に引き取られて育ててもらったからか自分のことを軽んじていて、今回身分の高い正室を迎えたんだわ、と思うと辛くて寂しいの。和歌を詠んでも哀しい歌ばかりなのよね。


 一方源氏は明石女御や女三宮など若い姫君を見たあとで見る紫の上は驚くほど美しいって惚れ惚れしているの。

 気高さや貴婦人ぶりが備わっていて、その上華やかで明るく優雅で何もかもが素晴らしい紫の上。去年よりも今年の方が美しく、昨日よりも今日の方が新鮮でいつまでも飽きることがないと源氏は思うの。

「どうしてこんなに綺麗に生まれてきたんだろうな」

 皮肉なことに女三宮と結婚してからますます紫の上を愛するようになるのよね。


~ 身に近く 秋や来ぬらん 見るままに 青葉の山も うつろひにけり ~

(私のところにも秋(飽き)が来たのね。青い葉もあなたの心も色が変わるのね)

 

 紫の上の詠む歌は哀しい諦めの歌なの。


~ 水鳥の 青羽は 色も変はらぬを 萩の下こそ けしきことなれ ~

(俺の心は変わらないよ? キミの様子が変わっちゃったんじゃね?)


 こんな歌を紫の上の歌の横に書いたの。ときどきはこうして哀しんで悩んでいる様子がわかるけれど、普段は普通に振舞ってくれる紫の上に源氏は感謝しているの。


 その日の夜は女三宮とも紫の上とも一緒にいなくてよさそうだったので、源氏は朧月夜のところに出かけるの。よくないとわかっていながらも気持ちは押さえられないんですって。


 そして紫の上は明石の女御と再会したあとで女三宮と対面するの。子供っぽいというより本当に女三宮は子供だったのよね。紫の上も保護者のように優しく話しかけるの。女三宮も紫の上の人柄に惹かれて打ち解けたみたいね。



―― 源氏40歳記念イベント ――

 10月になって紫の上は源氏の40歳のお祝いのための法事を嵯峨の御堂で行うの。最終日は紫の上の育った二条院で心づくしのパーティーをするの。屏風などのインテリアや引き出物などは4つとか40個とか40にまつわる数で揃えられているの。夕霧と柏木が舞を踊るんだけど、それぞれのお父さんの源氏と頭中将の「青海波」が思い出されるの。息子たちも立派で役職も当時のお父さんたちより出世していて素晴らしいの。源氏も思い出して涙ぐむのよね。

 12月には秋好中宮が六条院の秋の御殿でお祝いをするの。冷泉帝も盛大にお祝いがしたかったんだけど、源氏が事前に派手なイベントを断っていたのね。だから冷泉帝は夕霧を右大将の役職につけてお祝いパーティーを仕切らせたの。このパーティーは花散里の夏の御殿が会場になったの。(夕霧の実家でもあるので)

 あまり派手にはしないようにって源氏は言うんだけど、冷泉帝、朱雀院、秋好中宮、明石女御と皇族の方々と関りが深いからどうしても華やかな催し物になってしまうのよね。晴れがましく光り輝く「源氏一族」なのよね。



◇朱雀院の娘を正室に迎え、朱雀院の寵妃だった朧月夜と再会する源氏。兄の朱雀院の出家が源氏の人生の波紋を広げてゆきます。紫の上の心が押しつぶされそうですね。

 


~ 身に近く 秋や来ぬらん 見るままに 青葉の山も うつろひにけり ~

紫の上が絶望して詠んだ歌


第三十四帖 若菜上(二)



※源氏物語第三十四帖【若菜上】を3つに分けて超訳している2番目のエピソードとなります。この第三十四帖の【若菜上】はかなりボリュームがあり、今後のカギとなるエピソードが多数登場するのでこのような形式にしています。


☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

 関連するトピックスがあります。よかったらご覧になってくださいね。


 topics25 元カノ復活の件

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054885569227




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