episode41 思慕、痛恨 、後悔、懺悔 幻
◇幻ざっくりあらすじ
紫の上を亡くしてからの源氏の様子が1年を通じて描かれます。何をしていても何を見ても紫の上のことが思い出されます。そして紫の上の一周忌をすませてから源氏はいよいよ出家の準備を始めます。
【超訳】幻
源氏 52歳
夕霧 31歳 薫 5歳
明石の御方 43歳
明石中宮 24歳 匂宮 6歳
―― 紫の上のいない新年 ――
紫の上を亡くした秋が過ぎて冬になり年が明けたの。毎年のように新年のお祝いとか音楽会のないお正月よね。源氏は訪ねてくる人たちにも会わないで物思いに耽っているの。
女房達もまだ喪中の衣装のままでみんなで紫の上を偲んでいるのね。源氏は女房達と話をしていてもどうしても紫の上の話になってしまうのね。朧月夜や朝顔の君との恋の噂や女三宮降嫁のときは紫の上がツラそうだったって女房が話すと、いっときの戯れや気の迷いでどうして彼女を傷つけてしまったんだろうと源氏は悔やむの。
―― 雪の日に懺悔 ――
女三宮と結婚したあの日、夜明けに急いで紫の上のところに戻ったとき、紫の上は温かく出迎えてくれたけれどその袖は涙で濡れているのを必死で隠そうとしていた健気な姿を源氏は思い出して、一晩中紫の上のことを想っているの。夢でもいいから会いたい。生まれ変わったらいつめぐり逢えるんだろう。源氏はそんなことばかり考えているの。
高貴な身分に生まれ、才能にも恵まれ、准太上天皇までになったこの上ない人生だったけれども、人生の後半でかけがえのない人を亡くして、出家もできずにいる今の状況を「なんて思い切りの悪い人間なんだ」と源氏は自分を蔑んでいるみたい。
落ち込んでいる姿を見せたくない源氏はなるべく人とは会わないようにするの。夕霧とも御簾ごしに話をする程度なの。たまに奥さんのところに行ったりしてもその人が紫の上じゃないのでまた悲しくなってしまって泣けてくるのでもうどこにも出かけなくなってしまうの。
―― 紫の上のいない春 ――
明石中宮は御所に戻ったの。そのときに源氏の気がまぎれるかと二条院に
「こうしてキミと仲良くしている時間も少なくなってきたな。もうすぐお別れかな」
出家をするつもりの源氏はそんな風に匂宮に話すの。
「おばあちゃまがいってたこととおんなじだよ。そんなのやだよ、おじいちゃま」
匂宮は泣き顔を袖で必死に隠そうとしながらそう言うのよ。
―― 女三宮と源氏 ――
源氏は六条院にいる女三宮のところへ匂宮を連れて一緒に行くの。匂宮は薫と仲良く遊ぶの。源氏は女三宮に時候のあいさつで満開の山吹の話をするんだけど、出家した身には関係ないわと冷たく突き放されちゃうの。
「谷には春も(光なき 谷には春も よそなれば 咲きてとく散る もの
(光の差さない谷は季節も関係なくて、花が咲いただの散っただのと感動しませんわ)
紫の上だったらきっと思いやりのある返答をしてくれるのに、小さい頃だってこうだった、あのときだってそうだったって紫の上の言ってくれた優しい言葉や綺麗な容姿を思い出してまた源氏は涙を流すの。
―― 明石の御方と源氏 ――
そのまま冬の御殿の明石の御方のところを源氏は訪ねるの。久しぶりに会う明石の御方はやっぱり格別に素晴らしくて、受け答えもカンペキなの。出家したいけれど、未練もあるし、踏ん切りがつかないんだと愚痴をこぼす源氏に、御方は躊躇するのも分別が深いからそのまま孫たちが成人するまで(出家しないで)後見してほしいって話すの。
「藤壺の宮が亡くなった春は、今年の桜は墨色に咲いてくれ(深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け:古今和歌集)って思ったんだ。俺が小さい頃から憧れていた人だったから特別に悲しかったんだ」
源氏は昔語りを始めるの。
「紫の上もただ連れ添った奥さんに死なれたっていうだけじゃなくて、彼女を少女のころから育ててきた特別な想いがあるんだ。あんな時やこんな時の彼女のことを思い出すと堪えられないんだよ」
その夜は遅くまでふたりで語り合っていたのに、泊まりはしないで源氏は帰ろうとするの。明石の御方は少し寂しく感じるの。
「俺もえらく変わったもんだな」
源氏はそんな風につぶやいたんですって。
~ 泣く泣くも 帰りにしかな 仮の世は いづくもつひの とこよならぬに ~
(泣きながら帰ったんだ。この世はどこも
泊ってくれなかったことは寂しかった明石の御方だったけれど、それほど源氏は悲しんでいるんだわって同情したみたい。
~ かりがゐし 苗代水の 絶えしより うつりし花の 影をだに見ず ~
(花のように美しい紫の上さまがいらっしゃらなくなってから、あなたはわたしのところに来てくれなくなったわね)
こうして、どうしても寂しいときにだけ源氏は奥さんたちのところを訪ねて話をしたりはしたんだけれど、もう前みたいに一晩中デートすることはなくなったんですって。
―― 紫の上のいない夏 ――
夏になって花散里が衣替えの衣装を届けてくれるの。
~ 夏ごろも たちかへてける 今日ばかり 古き思ひも すすみやはする ~
(紫の上さまの好きだった春が終わって衣替えをするけれど、やっぱり紫の上さまのことを思い出しちゃうわね)
~ 羽衣の 薄きに変はる 今日よりは 空蝉の世ぞ いとど悲しき ~
(羽衣みたいに薄い着物になる今日からは俺の想いもまた儚く哀しいよ)
賀茂祭の日に女房達がそわそわしているので、「お祭り見物に行ってきてもいいよ」と源氏は言ってあげるの。
―― 源氏と夕霧、ふたりで紫の上を想う ――
春が終わり梅雨の時期に夕霧が様子を見にやってくるの。まだ立ち直れていないお父さんの姿に、たった一度だけ紫の上の姿を見た自分だって忘れられないのに、夫婦だったんだからその落ち込みようは仕方がないなって夕霧は思うの。
「おふたりのあいだに子どもが生まれなかったのが残念だよね」
夕霧がそう言うの。
「俺自身に子どもが少なかったからね。
~ 亡き人を 偲ぶる宵の 村雨に 濡れてや来つる 山ほととぎす ~
(山ほととぎすよ、あの人を想って今夜の雨に濡れてやってきたのか)
~
(ほととぎすよ、故郷の橘の花が今満開ですとあの方に伝言してほしいんだ)
源氏と夕霧はそんな歌を詠みながら紫の上のことを偲ぶのね。夕霧はその夜はそのまま泊っていくことにするの。紫の上が生きていたころは源氏は決して自分たちの部屋に夕霧を近づけなかったの。今こうしてその部屋にいることを許されているっていうことはもう紫の上がいらっしゃらないからだと思うと夕霧はまた悲しくなっちゃったみたいね。
―― 紫の上のいない七夕 ――
七夕のイベントも今年はしないでしんみりと過ごす源氏。
秋になって紫の上の命日を迎えるんだけど、やっぱり悲しみは尽きないの。
~ 君恋ふる 涙ははても なきものを 今日をば何の はてといふらん ~
(紫の上さまを恋い慕う涙は尽きませんのに、どうしてお命日を区切りにしないといけないのでしょうか)
紫の上が可愛がっていた女房がそう歌を詠むの。
〜 人恋ふる わが身も末に なりゆけど 残り多かる 涙なりけり 〜
(彼女を恋慕う命は残り少ないけれど、涙はまだ残り多いんだ)
源氏も女房の歌の横にそう書き添えるの。
一周忌が過ぎても相変わらず物思いに耽る日が過ぎて行くの。月日が経っても悲しみは癒えるどころかかえって増していくようなんですって。
―― 出家の準備 ――
なんとか1年を過ごしてきたから、いよいよ出家の準備をしようと源氏は身の周りの整理を始めるの。女房達に形見の品をあげて、今まで貰った恋人達からの手紙も処分するの。須磨で謹慎生活をしていたときに紫の上が送ってきてくれた手紙だけは別の束になっているのね。遠い昔の出来事だなと思いながらも源氏はその手紙を見てみると、たった今彼女が書いたみたいに筆の跡が生き生きとしているのよ。これこそ永久保存しておきたいって思ったんだけど、女房達に処分してもらうの。
~ かきつめて 見るもかひなし 藻塩草 同じ雲居の 煙とをなれ ~
(キミからの手紙は眺めて見るのももう虚しいんだ。キミと同じ煙になってくれ)
紫の上の手紙の横にそんな歌を源氏は書いて、それも一緒に燃やしてしまったの。
年末に源氏は年の瀬の法要を開くの。僧侶たちだけじゃなくて貴族たちも大勢集まるところに久しぶりに源氏は姿を見せるの。その姿は昔光源氏と呼ばれていたころよりも輝いて見えたそうよ。あまりの美しさに僧侶も涙を流すほどだったんですって。
大晦日の日に匂宮は恒例の
~ 物
(物思いしながら月日を過ごしてしまったが、今年も俺の人生も今日で終わるんだ)
お正月の行事はいつもよりも盛大に源氏は準備させたんですって。みんなへの贈り物なども立派なものが用意してあったらしいわ。
◇紫の上を失ったあとの源氏の1年を描いています。和歌で綴る紫の上への想い。季節は巡り月日も流れますが、源氏の悲しみは癒えることはありませんね。
~ 物
源氏が最後に詠んだ歌
第四一帖 幻
☆☆☆
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topics35 キミがいない世界
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054883058508
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