episode12 とりあえず謹慎します。  須磨

 ◇須磨ざっくりあらすじ

 朧月夜との密会が知られてしまい、右大臣たちに責められる源氏は自分から謹慎生活をしようと都を離れて須磨へ行く決心をします。大切なひとたちと離れての寂しい須磨での生活が始まりました。



【超訳】須磨

 源氏 26~27歳 紫の上 18~19歳

 女院(藤壺の宮) 31~32歳 明石の君 17歳~18歳



 ―― 都を離れる決心 ――

 桐壺院が亡くなり朱雀帝の現在、政局は右大臣派が握っており、源氏への風当たりが厳しいの。そんな中で(右大臣の娘の)朧月夜との件もバレてしまい、源氏は自分から都を離れて須磨で謹慎しようと決心するの。

 帝の寵姫ちょうきと付き合っていたことで右大臣も弘徽殿大后こきでんのおおきさき(右大臣の娘で帝の母、朧月夜のお姉さん)の怒りを買っていて、朝廷から島流しとかの罰が下るかもしれないから、そうなるくらいなら自分から潔く政治の中枢から離れようと思ったのね。


 そうなるといつ都に戻れるかわからないから、いろいろな人に事情を話したり、お別れをするのね。


 当然なんだけど紫の上がものすごく悲しんでいるの。小さい頃に二条院に連れられてきてからずっと源氏と一緒だったからお別れなんてできないと泣いてしまうの。私も一緒に行くと言って泣くんだけれど、京とはかけ離れた生活環境になるし、謹慎だから連れていくことはできないの。


 花散里もとても悲しんだし、源氏のことを心配したわ。他にも源氏が都からいなくなることをひとりでこっそり嘆いていた女の人もたくさんいたでしょうね。


 藤壺の宮さまからも源氏を心配するお見舞いがあったみたい。もちろん人目にたたないようにこっそりとね。


 いよいよ出発する日が近づいてきたので、源氏は左大臣家に挨拶に行ったの。

 ここには息子の夕霧がいるけれど、まだお父さんの源氏が遠くに行ってしまうことがわからない年齢なのね。亡くなった正室の葵の上のお父さんの左大臣やお兄さんで源氏の親友でもある頭中将たちと昔話をしながらお別れをしたみたいね。


 ―― 紫の上とのお別れ ――

 左大臣家以外にも挨拶に行くところがあるので、紫の上にはいろいろな人とのお別れで忙しくてね、なんて源氏は言い訳するの。

「あなたが都からいなくなってしまうこと以外に悲しいことなんて私にはないわ」

 なんて紫の上が言うから、この人が一番自分のことを想って悲しんでくれているんだなって源氏はしみじみ思うの。


 紫の上のお父さんの兵部卿宮ひょうぶのきょうのみやは右大臣に目を付けられるのを恐れて娘と距離をおくようになり、手紙すらくれなくなったの。兵部卿宮の正室は紫の上の不運を喜んだくらい。(紫の上は正室の子ではないの)

 実の親から見放された紫の上を源氏は

「もし京にもどることができなくなったら、どんな家だろうが必ずキミを迎えるから」

 と約束をして慰めたんですって。


 出発の準備やら親しい人とのお別れやらで疲れ切っていた源氏は鏡に写った自分を見て、痩せたな、哀れだなって思ってこんな歌を詠んだの。


 ~ 身はかくて さすらへぬとも 君があたり 去らぬ鏡の かげははなれじ ~

(俺は須磨へ行ってしまうけれど、鏡に写った姿をキミのところに置いていくよ)


 ~ 別れても 影だにとまる ものならば 鏡を見ても なぐさめてまし ~

(あなたがいなくなっても鏡にだけでも姿が残っているならずっと眺めていられるのに)


 紫の上はそう詠んでまた涙ぐむの。その優雅で美しい姿に源氏はやっぱり彼女のことを一番愛しているんだなって思ったらしいわね。


 源氏はもし戻ってこれなかったことを考えて財産などを紫の上に託して出発の準備をするの。自分の家来たちにも待っていてくれる者は紫の上に仕えるようにと言うの。


―― 大切な人たちとのお別れ ――

 他にも藤壺中宮さまや花散里の君など縁のある人たちとお別れをするの。さすがに朧月夜の君にだけは会いにいけず手紙でのお別れだったらしいわ。


 そのあと東宮さま(藤壺の宮の産んだ子)のところへも挨拶に行ったの。もちろんとしてね。

「いつか都の春の花(あなたさまが即位される姿)を見ることができるでしょうか」

 源氏は桜になぞらえて東宮さまにお別れを言うの。

「少しでも会えないと僕は寂しいのに、遠くに行っちゃったらもっと寂しくなっちゃうな」

 春宮さまがそうお返事されるの。東宮さまのお母さんの藤壺の宮さまにも挨拶するの。


「おもいがけない罪(朱雀帝への謀反)のために謹慎することになりましたが、心当たりのある本当の罪(藤壺の宮と犯した罪)があります。自分がどうなっても東宮様が無事に即位できるなら本望です」

 そんな風に源氏は藤壺の宮さまに伝えたらしいわ。亡くなったお父さんの桐壺院のお墓にもお参りに行ったわ。


 最後の夜は紫の上と一緒に過ごして別れを惜しむの。


 ~ 生ける世の 別れを知らで 契りつつ 命を人に 限りけるかな ~

(生きている間に離れ離れになるなんてね。命ある限りは一緒だって信じてたんだけどな)


 別れるときに源氏はこんな歌を詠んだの。


 ~ 惜しからぬ 命に代へて 目の前の 別れをしばし とどめてしがな ~

(お別れの時間を引き延ばせるなら命を差し出してもいいわ)

 

「もう少し一緒にいられるなら死んでもいいわ」

 命を差し出すイコール死んでしまうということだから、そもそも一緒にいられないんじゃ? なんて思うのだけれど、そんな矛盾もわからないくらい紫の上は混乱していたようなの。

 そんな紫の上の心の叫びに源氏は出かけづらいんだけれど、朝になる前に旅立ったの。



 ~ ふる里を 峰のかすみは 隔つれど ながむる空は 同じ雲居か ~

(山が邪魔してふるさとは見えないけれど、あの人が眺めている空も雲も同じだろうか)



 ―― 須磨での暮らし ――

 京から1日で着く距離なんだけど、須磨はわびしいところだったの。在原行平ありわらのゆきひら(実在の人物、百人一首にも登場)が住んだことのある付近なんですって。けれど家来の良清が準備した源氏の家は二条院と比べれば簡素かもしれないけれど、風流なお屋敷ではあったみたいよ。

 梅雨の時期になると源氏も人恋しくなって、紫の上や藤壺の宮や朧月夜とも手紙で近況を聞いたりしていたみたい。


―― 都に残された人たち ――

 京の紫の上は起き上がれないほどの落ち込みようなの。源氏が使っていた道具、弾いていた楽器、脱いでいった衣服までもまるで死んでしまった人のように扱っているの。心配した女房は紫の上の親戚にあたる僧侶(源氏と出会うきっかけになった北山のお寺にいる人。紫の上のおばあさんの兄)にお願いして祈祷をしてもらうの。紫の上の心が鎮まるように。また源氏との幸せな日々が戻ってくるようにって。

 源氏がよくもたれかかっていた柱を見るだけで紫の上は胸が悲しみでふさがれるんですって。小さい頃からいつも一緒で時にはお父さんがわりでもあり、お母さんがわりでもあり、今は夫である源氏が恋しくてならないのね。


 藤壺の宮さまも東宮を護るために源氏が謹慎していることを嘆いているの。源氏への想いもあるから宮さまの心境はフクザツよね。宮さまが出家する前は源氏がまた大胆な行動に出られると困るから必死で自分の気持ちを封じていたけれど、出家して男女の関係を結ぶ可能性がなくなってからは源氏への返事も情愛が出てきたみたい。

「(あなたのために)涙を流すことがわたくしの仕事だと思っています」

 こんな手紙を源氏に送るの。


 紫の上からの返事には一緒に衣替えの衣装も添えてあって、色も仕立て具合も源氏好みで素晴らしいんですって。


~ 浦人うらうどの 塩汲む袖に くらべ見よ 波路隔つる 夜の衣を ~

(あなたの袖と比べてみて。遠く離れた都で夜ひとりで泣いている私の袖と)


 見事な女性に成長した紫の上のことが昼も夜も恋しい源氏は彼女を須磨に迎えようかとも思うの。


 左大臣は息子の夕霧の様子をいろいろと知らせてくれたみたい。


 伊勢に行ってしまった六条御息所とも手紙のやりとりはしているみたいなの。元々は愛し合っていたのに御息所が生霊になってしまうというアブノーマルさに恋人関係を終わらせたけれど、源氏はそんな風にさせてしまったのは自分のせいだと心苦しく想っているんですって。


 困っている花散里に経済援助をしてあげたりもしていたの。都に残してきた大勢の人達と手紙をやりとりしていたのね。今までの罪を悔い改めるための勤行の生活を送りながらね。


 ―― 朧月夜のその後 ――

 自分との密会のせいで都落ちしてしまった源氏のことを想うと朧月夜はとても悲しかったんだけど、夫である朱雀帝の寵愛は変わらなかったの。それどころか心優しい朱雀帝は父親である桐壺院の遺言(何事も源氏と共に治めるように)に背くことになってしまったことを悔やんでいるくらい。けれども祖父の右大臣や母の弘徽殿大后には逆らえないのよね。

「私だって源氏がいないのは寂しいだから、あなたはどんなに寂しいんだろうね?」

 帝が朧月夜にそう言うと、彼女はほろほろと涙を流すの。

「その涙はどっちの男のためなの?」

 朧月夜がまだ源氏のことを想っているのも朱雀帝は責めるわけでもなかったので、それはそれで朱雀帝の優しさが朧月夜の良心を苦しめたみたいね。


―― 須磨の秋 ――

 須磨での寂しい夜に源氏は琴を弾いたり和歌を詠んだりするんだけれど、そうするとあまりの寂しさと都への懐かしさで周りの家来たちが泣いてしまうの。自分の都落ちのために自身の家族を都に置いて仕えてくれている家来のことを思ってこれからは少しでも皆の気持ちを紛らわして明るく振舞おうと源氏は思ったんですって。源氏は学問にも芸術にも優れていたんだけど、中でも須磨の浜辺を描いた絵は見事な出来栄えに仕上がったの。


 ―― 都では ――

 都でも源氏がいなくなり、源氏を慕う声も聞かれたんだけど、弘徽殿大后はそういった発言も禁止するの。

 二条院では紫の上が源氏の留守をしっかり守ろうと頑張っていたので家来の人たちも誰も辞めたりしないで紫の上にお仕えしようと決めたみたい。紫の上があまりにも美しくて誠実な性格で誰に対しても思いやりがあるので、源氏の君がこの方を特別に愛されるのも当然のことだわと納得したんですって。


 ―― 明石の娘の話 ――

 須磨では源氏が紫の上を迎えようかとも思ったんだけれど、あまりに都とかけ離れた生活だからそれもためらわれるのね。そうして冬を迎え、月や景色を愛でて月日は流れるの。


 源氏たちのいる須磨は明石の近くだったのね。

 紫の上と出会うきっかけになった北山で話した明石入道あかしのにゅうどうの娘のことを思い出した家来の良清が手紙を書いたんだけど、返事はなかったの。代わりに父親の明石入道から手紙が来るの。そこには娘を良清ではなくて源氏に嫁がせたいと書いてあったの。

 入道の妻は身分が違うと反対するんだけど、入道自身は本気で娘と源氏を結婚させようと思っていたの。


 ―― 頭中将との友情 ――

 そんな頃、都から来客があったの。宰相中将さいしょうのちゅうじょう(頭中将)だったの。源氏の話をするのも禁止されているような都だったのに、弘徽殿大后に怒られるのも覚悟で親友の源氏に会いに来てくれたの。その友情に源氏も感激してふたりでお酒を飲み、昔を懐かしんで涙を流したそうね。

「キミがいつまでも捨て置かれるようなことはないよ」

 頭中将はそう源氏を励まして帰っていったの。


 ―― 須磨の嵐、それから…… ――

 須磨に来てからも源氏は心労が多いのでお祓いをしようと浜辺で陰陽師を呼んでお祓いを始めたの。

 すると急に風が吹き荒れて、雲は曇り、豪雨になったの。あっという間に暴風雨になり周りのものを吹き飛ばしちゃったの。


 暴風雨から避難して屋敷で源氏は夢を見たの。何者かが

「なぜ宮のもとに来ないのか?」

 って源氏を呼んでいる夢だったんですって。源氏は海の中の龍王が自分を呼んでいるのかと不気味に感じていたらしいわね。



 ◇宮中での源氏バッシングを受けて自分から謹慎を申し出て須磨へと移る巻ですね。政治的にはみんな右大臣の機嫌を伺っているから味方はいなくなった。それでも源氏が都からいなくなると寂しいと泣く人の多いこと、多いこと。

 付き合っていた恋人たちはもちろん同僚や家来、女房にも慕われてたみたいでみんな別れを惜しんだみたいですね。

 大勢と別れを惜しんで須磨へと旅立ちました。

 須磨へ移り住んでからも都の人たちとの文通が盛んですね。



 ~ 生ける世の 別れを知らで 契りつつ 命を人に 限りけるかな ~

 源氏が紫の上と離れるときに詠んだ歌


 ~ 惜しからぬ 命に代へて 目の前の 別れをしばし とどめてしがな ~

 紫の上が源氏との別れに混乱して詠んだ歌


 ~ ふる里を 峰のかすみは 隔つれど ながむる空は 同じ雲居か ~

 源氏が須磨に着いて詠んだ歌



 第十二帖 須磨




 ☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

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 topics6 お別れ会だってタイヘンだわよ

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054882616976

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