episode13 最高のカノジョと最愛の妻 明石

 ◇明石ざっくりあらすじ

 須磨から明石へ移った源氏は明石の君と出会います。ふたりは愛し合うようになり、明石の君に赤ちゃんができます。そんな頃に都に戻るよう帝から指示があり、京に帰って最愛の紫の上と再会します。



【超訳】明石

 源氏 27~28歳 紫の上 19歳~20歳

 明石の君 18~19歳


 ―― 源氏、明石へ ――

 嵐は何日も続いたの。この前の夜に見た夢と同じ怪しい者が出てくる夢ばかり源氏は見ているの。京からの使いが紫の上からの手紙を持ってきたんだけど、京も嵐がひどくて宮中行事も政治もストップしているんですって。


 ちっとも嵐はおさまらず神仏にお祈りをして、主従や上下の関係なくみんなで集まり避難しているの。そんな夜に源氏の夢にお父さんの桐壺院が出てきたの。

「なぜこんなところにいるのか。住吉の神の導きに従いなさい」

 そうおっしゃったんですって。

「父上とお別れしてからは悲しいことばかりです。このままここで死んでしまおうと思っています」

 なんて源氏が言うと、

「とんでもない。おまえが可哀想でどうしても見ていられなくてここに来たんだよ。ついでに(おまえの兄の)帝にも申し上げることがあるから京にも行ってくるよ」

 とおっしゃるの。

「私もお供します」

 と源氏が泣いてお父さんを見ようとすると、もうそこには桐壺院はいなくて月だけが煌いていたの。


 ようやく嵐がおさまると、小舟に乗った人がやってきたの。その人が明石に住む明石入道あかしのにゅうどうだったの。明石入道といえば、以前源氏の家来が噂をしたことのある人(episode5 過ちと略奪  若紫)だったのね。

 その人は「嵐がおさまったら舟を出せ」という住吉の神のお告げでやってきたと言うの。源氏もあんな夢を見たし、明石入道も勧めるので明石に移ることにしたの。



 ―― 明石の君との出会い ――

 明石入道の邸宅はとても立派で都と変わらないくらい趣味のいいお屋敷だったの。元々風光明媚な場所である上に庭や邸宅は趣向を凝らしているようよ。源氏たちは浜辺の棟で暮らすことになるの。入道の一人娘の明石の君は山手の棟に暮らしているのね。

 源氏はさっそく紫の上や藤壺の宮さまに明石に移ったことを手紙に書いたの。


~ はるかにも 思ひやるかな 知らざりし 浦よりをちに 浦づたひして ~

(知らない土地(須磨)からもっと遠くなっちゃったけれど(明石)遥か彼方から君を想っているよ)


 紫の上への手紙と歌は少し書いては涙して、涙を拭いてはまた少し書いて、を繰り返したんですって。従者の惟光たちは本当に紫の上さまへの愛が深いんだなぁって思ったみたいよ。


 須磨は寂しく静かな印象だったけれど、ここ明石の空は澄み渡っていて明るい雰囲気で漁村も賑やかなんですって。


 明石入道は出家しているので毎日読経をしているけれど、娘を源氏と結婚させたいのでそれとなく源氏に娘の話をするの。源氏は都で待っている紫の上のことを想うとそんな気になんてなれないって最初は思うんだけど、なんだかんだいって明石の君のことを意識しだすのよ。

 明石の君は源氏の姿をちらっと見かけて、「世の中にこんな美しい方がいらっしゃるの?」と驚いてしまい、自分となんて身分が違いすぎるて釣り合わないから、お父さんが結婚させようとしているのを辞めてほしいと思っているの。


 源氏が琴を弾くと、それを聴いていた明石入道は娘の琴も素晴らしいんですと源氏に話すの。源氏もそんなに上手なら聴いてみたいねと興味を持つの。明石入道は源氏に自分の話を聞かせるの。娘はみやこの貴人と結婚してほしいと住吉の神にずっと願をかけてきたんですって。今回源氏が須磨で謹慎することになったのは運命だって思ったんですって。源氏も話を聞いているうちに運命的な縁を感じてくるの。


 まずは手紙のやりとりから始めるか、と源氏は明石の君に和歌を贈るんだけど、返事はこないの。


~ 遠近をちこちも しらぬ雲井に 眺めわび かすめし宿の こずゑをぞとふ ~

(知らない土地で寂しく暮らしてるけれど、キミの噂を(お父さん)から聞いたんだ)


~ 眺むらん 同じ雲井を 眺むるは 思ひも同じ 思ひなるらん ~

(物思いしながら眺めていらっしゃる同じ空をながめている(娘の)気持ちもきっとあなたさまと同じなのでしょう)


 明石の君が返事を書かないので、お父さんの明石入道から代筆の返歌が届いたりしてすんなりとはうまくいかないみたいね。

「(父親からの)代筆の返事なんて初めてもらったよ」

 源氏は苦笑いね。


 代筆の返事はもういらないから、と源氏はまた手紙と歌を贈るの。


~ いぶせくも 心に物を 思ふかな やよやいかにと 問ふ人もなみ ~

(悶々と悩んでいるんだ。「どうしてる?」って気にしてくれる人もいないから)


 とても綺麗な紙に美しい文字。明石の君はますます恐縮してしまうの。それでもお父さんに返事を書くように責められちゃうの。


~ 思ふらん 心のほどや やよいかに まだ見ぬ人の 聞きか悩まん ~

(想ってくださるっておっしゃるけれど、本当ですか? まだ会ったこともないのに悩んでいらっしゃるなんて)


 明石の君の歌は歌の出来具合も文字の美しさも京の貴婦人と比べても見劣りがしないようよ。


―― 都の天変地異 ――

 そんな頃、都では天変地異が起きていて、激しい雷雨の夜に朱雀帝の夢に桐壺院が出てきて、ものすごい目で睨んだんですって。帝は源氏を追いやってしまったことを院が怒っていらっしゃると焦るの。そして院から睨まれたからか、帝は目の病気になってしまい、右大臣は亡くなり、弘徽殿大后も病気になってしまったの。

「私が源氏の官位を剥奪はくだつして京から追いやってしまったからこうなったんだ。彼を戻そう」

 朱雀帝はそう考えるんだけれど、源氏を憎んでいる弘徽殿大后は大反対なのよね。


 ―― 最高のカノジョ ――

 春ごろからはじまった源氏と明石の君との手紙のやりとりなんだけど、そこからは進まないのよね。明石の君はやっぱり身分が違いすぎるから無理ですと源氏の気持ちを拒むの。私は源氏の君が明石にいるときだけ手紙のやりとりのお相手ができればそれだけで十分だわ、いつかは京に帰ってしまう源氏の愛人にはなりたくないわって思っているの。

 そう言われるとより盛り上がる源氏は明石入道に協力をお願いするの。明石の入道もこっそり暦を占って吉日を選んで明石の君の部屋を綺麗に整えて結婚の準備をするの。ようやく源氏は明石の君のいる山手の棟に行けるようになったのね。月の美しい夜、山手の棟まで馬で行く途中、紫の上のことを源氏は思うの。できることならこのまま馬で京に行ってしまいたいって。


~ むつ言を 語りあはせん 人もがな うき世の夢も なかば覚むやと ~

(あなたと付き合えればこの世の辛さから救われるんだ。慰めてほしいんだ)


 源氏は必死で明石の君を口説くの。


~ 明けぬ夜に やがてまどへる 心には いづれを夢と 分きて語らん ~

(暗闇で彷徨う私には夢と現実の区別がつかないわ)


 なんとなく彼女の雰囲気が六条御息所に似ているなって源氏は思ったらしいの。そしてとうとうふたりは結ばれたの。明石の君は源氏が想像した以上に上品で素晴らしい女性ひとだったの。


 こうして明石の君という恋人ができたことを紫の上にも手紙で知らせるの。ただ直接的には書かないで

「夢を見てしまったんだ」

 なんて言い方で。それからこんな歌を添えたの。


 ~ しと づぞ泣かるる かりそめの みるめは海人あまの すさびなれども ~

(キミのことを思い出すと泣けてくるんだ。こっちでのことは遊びだからね)


 紫の上は文句を言ったりはせずに一首だけ和歌を詠んだの。


 ~ うらなくも 思ひけるかな 契りしを 松よりなみは 超えじものぞと ~

(あなたのこと信じてたのに。恋人を作るなんて絶対にないわって)


 こんな歌が返ってきて最愛の人を傷つけたと後悔した源氏は少しのあいだ明石の君ともデートしなくなるの。浜辺の棟でひとりで過ごしながら風景画を描いたりしているみたい。そうなると明石の君も「やっぱり私なんて」と落ち込んじゃうの。


―― 明石の君との別れ ――

 年が明けて帝は譲位(帝を退位)を考えるの。すると次の帝になる東宮(藤壺と源氏の子)の後見人が源氏なので源氏を都に戻すことに決めたの。夏には都へ戻るように明石にまで帝の使者がやってきたの。

 

 都へ戻れるのは源氏としては嬉しいんだけど、それは明石の君とのお別れでもあるから複雑な心境だったの。それに明石の君が妊娠したので毎日毎日明石の君のところに通うの。

 秋になって本当に明石を離れないといけなくなり、最後のお別れに明石の君に琴を弾いてもらうの。明石入道が言ったとおりの素晴らしい音色だったんですって。源氏は自分の琴を明石の君に預けるの。キミたちを京に迎えるから。また逢えたら一緒に弾こうって約束をして。


 ~ なほざりに 頼めおくめる ひとことを つきせぬにや かけてしのばん ~

(”また逢ったら一緒に弾こう”なんて軽くおっしゃったんでしょうけれど、泣きながらそのひとことだけを信じてあなたを想っているわ)


 ~ 逢ふまでの かたみに契る 中の緒の しらべはことに 変はらざらなん ~

(また逢える日までの約束に置いていく琴みたいに俺たちの愛情もいつまでも変わらないよ)


 琴の調子が狂わないうちに必ず逢おう、と源氏は明石の君に言ったの。


 源氏が行ってしまい、明石の君はものすごく落ち込んだの。お母さん(明石入道夫人)も娘が可哀想だって同情しているの。明石入道もそうなんだけど、娘のお腹に赤ちゃんがいるからとなんとか気持ちを立て直したみたいね。


 ―― 最愛のツマとの再会 ――

 久しぶりに都に戻り紫の上との再会を果たす源氏。しばらく会わないうちにまた美しくなっていた紫の上。こんなにも美しくて可憐な紫の上とよく離れていられたよな、と源氏はしみじみ思うの。明石の君のことも正直に話すのよ。お屋敷の二条院も紫の上がしっかりと留守を守っていたのね。

 

 政治でも復帰して権大納言ごんのだいなごんという役職についたの。朱雀帝からもお召しがあってふたりは宮中で再会するの。東宮さまにも会いに行くと随分成長して大きくなっているのよね。お勉強もよくできていつ即位されても大丈夫なほど聡明な少年になっているみたいね。きっとそのあと藤壺の宮さまにも挨拶にいったはずよね。


 何人も付き合っている恋人がいた源氏だったけど、都に戻ってからは紫の上オンリーで他の人のところには通うのをやめたみたい。



 ◇明石の君との出会いと別れ、紫の上との再会の巻ですね。

 謹慎に行ったはずなのに新しい恋人を作るなんて(しかも子供まで)、紫の上はそうとうショックだったでしょうね。解説書には「このとき紫の上の心が死んだ」と表現していたりもします。

 明石の君にしても、「どうせ明石ココにいるときだけでしょ」と覚悟していたけれど、やっぱり京に帰ってしまうと悲しいし寂しい。

 また女の子を泣かすのです。もう何人目なんだか……。




 ~ うらなくも 思ひけるかな 契りしを 松よりなみは 超えじものぞと ~

 紫の上が源氏に贈った歌



 第十三帖 明石



☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

源氏物語や平安トリビアについて綴っています。

よかったら合わせてご覧くださいね。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る