episode11 ココロ安らぐ里 花散里
◇
また新しい女性のお話です。花散里という女性と源氏は付き合っていたのですが、通う回数はあまり多くありませんでした。父が亡くなり、政治の中心から追いやられた源氏に愛想をつかす恋人もいたのですが、花散里は昔と変わらない態度で源氏に接し、源氏を癒してあげるのでした。
【超訳】
源氏 25歳
―― 心優しいカノジョ ――
亡くなった桐壺院(源氏のお父さん)がまだ帝であったころ、後宮(帝のお妃が住むところ)に
その麗景殿女御には一緒に暮らしている花散里と呼ばれる妹がいて、源氏と付き合っていたのだけれど、源氏は何人も付き合っている人がいるから彼女のところにはあんまり通っていなかったの。でも源氏はあいかわらずで別れることもしなければ奥さんとして迎えるわけでもなかったのよ。
政治の中心は右大臣となって、源氏にとっては面白くなく、気分も腐ってしまうの。そんなときにふと花散里のことを思い出して訪ねてみようと思ったらしいの。
―― 中川のオンナ ――
中川というところを通りかかると、琴の音色が聞こえてきて、そういえばそこの家の女の子とも一度だけ遊んだことがあったっけなと源氏は思い出したの。
「彼女も俺のこと覚えてるかな――」なんて家来に様子を見に行かせると、
「今頃来られてもこっちも困るわ」
と冷たくあしらわれちゃったの。
すぐに恋してしまう源氏だから、こうして逢いに来てくれないと言って悩んだり恨んだりしている女子が多いのよ。源氏はあまり逢いには行かなくても忘れたりはしないから、時々こうやって声をかけたりしてはまた女子を悩ませるのよね。
―― 麗景殿女御のお屋敷にて ――
源氏は最初の予定通り麗景殿女御のお屋敷に向かうの。ひっそりとしていて仕える人達も少ないけれど、女御さまは品があって優しいままのご様子だったみたい。二十日目の月が昇り、庭の橘の木からは懐かしい香りがして、ホトトギスも鳴いているの。
~ 橘の 香をなつかしみ
(橘の香りを懐かしんで飛んできたホトトギスのように私もこの橘の花の散る里を訪ねてきました)
女御さまも和歌を返して丁寧に源氏とお話したのね。時が経っても変わらない態度でいてくれる女御さまは素晴らしいなと源氏も感じたみたいね。
―― 源氏の心が落ち着く里 ――
それから花散里の待っている部屋へと源氏は行くのね。普段はちっとも逢いに来てくれない源氏なのに、その美しい姿を見るとそんなことも彼女は忘れてしまうみたい。そして彼女は源氏を責めることもなく幸せそうに笑っているの。源氏もそんな優しい彼女に癒されるの。でまた「恋しかったんだよ」なんて言葉を彼女に贈るんだけど、まあそれもそうそう嘘ではないみたいなのよね。
長い間逢いに行かないと、心変わりすることだってあるでしょうね。そうなるとあの中川のオンナの態度を責めることはできないなと源氏は思うの。それを思うといつでも変わらない態度で優しく接してくれる花散里がやっぱりいいなと源氏はしみじみ想ったんですって。
◇また新しいカノジョの登場です。花散里の君。今まで登場した「源氏から一番愛されたい、ナンバーワンになりたい、他の恋人なんていなければいいのに」なんて思ったりする女性たちとはタイプが違う花散里さま。
女御さまの妹で身分も低くないけれど、とても控えめ。逢いに来てくれるだけで幸せ。逢えないときはあなたのことを想っているからそれだけで幸せ。また逢える日が楽しみだわ。今のままで十分幸せ。
同じ状況でも中川のオンナは、ちっとも逢いに来てくれないじゃない、また別のオンナのところに行ってるんでしょ、まったくムカつくわ、って思っていたでしょう。
そこを比べると花散里さまの性格のよさというか穏やかさが際立つわよね。源氏もいつも心優しいカノジョに癒してもらうのよね。
彼女、この先もずっと源氏に大切にされます。大豪邸の六条院の住人にもなります。ジェットコースターのような激しい恋ばかりをしている源氏の君もたまには波風の立たない穏やかな湖面に舟を浮かべるような恋もしていたのね。
~ 橘の 香をなつかしみ
源氏宰相大将が麗景殿女御に贈った歌
第十一帖 花散里
☆☆☆
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054885525035
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