episode7 死ぬまで持っていく秘密  紅葉賀


 ◇紅葉賀もみじのがざっくりあらすじ

 罪の子を妊娠してしまった藤壺の宮さまと源氏の君のお話です。お互い想いあっていてもそれを伝えあうこともできません。生まれてきた子は男の子で皇太子の位につきます。一方、源氏の自宅の二条院では可愛らしい紫の君と暮らしています。


【超訳】紅葉賀もみじのが

 源氏 18~19歳 紫の君 10歳~11歳

 藤壺の宮 23~24歳 葵の上 22歳~23歳


 ―― 美しい源氏の舞 ――

 源氏のお父さんである桐壺帝はご自分のお父さんのお誕生日のお祝いをするために、舞や歌の準備をしていたの。本番は御所でないところで行われるから、妊娠中の藤壺の宮にも見せてあげたいと思ってお父さんに見せる前に宮中でリハーサルをすることにしたの。源氏の君と頭中将は青海波せいがいはという雅楽の演目の舞を踊ったのね。夕暮れの日の光のもとでの源氏はいつも以上に光り輝いているの。感動して帝やほかの公達きんだち(貴族)の人たちも涙を流すほどだったんですって。あまりの見事さ、美しさにその昔源氏のお母さんをいじめた弘徽殿女御こきでんのにょうご

「神様が気に入って天国にでも連れていきそうだわね」

 なんて憎まれ口をたたいたの。

 藤壺の宮さまも自分にやましいことがなければどんなに美しい舞でしょうと思ったんだけど、それでも(やましい気持ちがありながらも)あまりに綺麗で夢のような気がしたの。


 夜になって帝が藤壺の宮さまに

「今日の青海波はどうだった?」

 とお聞きになったの。

 もちろん宮さまは本心は伝えられないけれど、

「とても美しかったです」

 とお返事したの。

「あなたに見せられてよかったよ」

 帝はそう喜ばれたの。


 源氏は翌日になって

「昨日の舞はあなたのためだけに舞いました」

 と藤壺の宮さまに手紙を送ったの。


 ~ 物思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の 袖うちふりし 心知りきや ~

(犯した罪もあなたへの想いもすべての気持ちをこめて踊った僕の気持ちをわかってもらえますか?)


 ~ から人の 袖ふることは 遠けれど につけて あはれとは見き ~

(青海波を中国の人が踊ったのは遠い出来事ですが、私も素晴らしいあなたの舞だけを見つめていました)


 普段は返事をしない宮さまだったのに

「わたしも特別な想いであなたを見てました」

 なんて返事をしたの。


 そのくらい昨日の源氏の君は素敵だったのね。好きなのに好きとは言えない。お腹の子もあなたの子なのにあなたにすらそれを言えない。でもあなたはなんて素敵なんでしょうなんて思ったのかしらね。


 桐壺帝のお父さんの前での本番でも見事な舞を披露した源氏は正三位しょうさんみという役職に昇進したの。


 藤壺の宮さまはお産のために実家に戻ったの。源氏はまた会いたいと思って実家まで行くんだけど、会ってはもらえなかったの。この恋は破滅を招くと悲しむのが宮さまで、今もまだ逢いたいと思い詰めているのが源氏の君よね。事情を知っている王命婦おうのみょうぶだけが宮さまと源氏、どちらの気持ちも知っているだけにお気の毒にと同情するの。

 源氏はそこで藤壺の宮のお兄さんで紫の君のお父さんでもある兵部卿宮ひょうぶのきょうのみやに会うんだけど、紫の君のことはまだ話さなさいのよね。



 ―― 可愛い紫の君 ――

 源氏が自宅の二条院にどうやら女の人を住まわせているらしいってことはオフィシャルになりつつあったの。どこのお姫様ということは知られてないんだけど。みんなまだ紫の君がまだ子供だってことも知らないし、この時点では源氏と紫の君は結婚もしていなかったんだけどね。


 紫の君は実のお兄さんのように源氏になついているの。どんどん可愛らしく成長していて、源氏も習字なんかを教えてあげているの。源氏が夜勤の日や他の女の人のところへ行っていて会えないときは寂しくて泣いてしまうくらいだったの。周りの女房が

「もう夫君がいらっしゃるのですから、子供みたいなお人形遊びはやめませんとね」

 と言うと、

「夫って誰のこと?」

 なんて聞いてくるカンジなの。夫なんて人はオジサンみたいな人のことだと思っていたのに、私の夫はあんなにカッコいいお兄さまなの? なんて思ったんですって。まだ10~11歳。恋もよくわからないのに、すでに結婚相手が決まっていたのよね。彼女の意思とは関係ないところでね。


 ―― 葵の上のこと ――

 お正月を迎え、正妻の葵の上のところに源氏は挨拶に行くんだけど、やっぱり上から目線で冷たい態度なのね、葵の上は。


「少しは温かく対応してくれてもいいんじゃないんですか?」

 と源氏は言うけど、葵の上は源氏の二条院に女の人が住んでいることを知っていたのね。ただでさえ夫婦仲がうまくいっていないのに、そのウワサ。そりゃ今までもあっちこっちに愛人がいることは知っていたけど、自分の家に住まわせるなんて、そのうちその人を正室にしてしまうの? ってプライドを傷つけられていたの。


 彼女は源氏より4歳年上なのをすごく気にしていたみたい。とても美しくてカンペキな女性だということは源氏もわかっているの。お父さんが左大臣でお母さんも皇族の出身だったからとても身分が高くて、大事に育てられたのね。プライドもものすごく高かったの。けれど対する源氏だって帝の皇子で身分でいえば彼女以上だから、そんな源氏には

「私は特別なんです。そこらへんの女性と一緒にしないでください」

 ってカンジでお高くとまっている葵の上に好感を持てなかったのね。


 ―― 運命の子 ――

 予定日とされる日が過ぎてもなかなか藤壺の宮さまのお産は始まらなかったの。やっぱり産まれてくる子はあの過ちの日の自分の子なんだ、と源氏は思うの。ようやく生まれた赤ちゃんは男の子。源氏の君にそっくりな赤ちゃんに藤壺の宮さまはますます罪の意識で落ち込んじゃうの。この皇子を見たらあの罪がバレてしまうわ。源氏は会いたいと王命婦に頼むけれどやっぱり会わせてはもらえない。


~ いかさまに 昔結べる 契りにて この世子の世にかかる 中の隔てぞ ~

(前世でどんな因縁があったのでしょうか。(今世この子の代で)こんなに障害があるなんて……)


 愛する藤壺の宮さまにも愛しい我が子にも会えない源氏がこんな哀しい歌を詠むの。


~ 見ても思ふ 見ぬはたいかに 歎くらん こや世の人の 惑ふてふ闇 ~

(皇子さまをご覧になっていらっしゃる宮さまも憔悴なさっていらっしゃいます。お逢いになれないあなたさまのお嘆きもいかばかりでしょう。これがおふたりの闇なのでしょうか)

 

 藤壺の宮さまの代わりに王命婦が返事を書いたの。王命婦は源氏と藤壺の宮さまのどちらの気持ちも痛いほどわかるのね。

「どちらもお気の毒でなりません」

 王命婦はそう言って泣いたの。


 宮中に戻った藤壺の宮さまと若宮さまを桐壺帝はそれはそれは歓迎して大事にしてくれるの。赤ちゃんが源氏に似ているのも、美しいものは似かよるんだねって怪しむこともなかったみたい。宮さまと源氏は生きた心地がしなかったでしょうね。


 当たり前だけど自分が父親だなんて名乗り出ることはできないし、わが子として育てることもできない源氏は

「花を育てるみたいに我が子として育てるのは無理だとわかりました」

 という手紙を宮さまに送ったの。王命婦もあまりにも源氏の君がお気の毒だから、宮さまに少しだけでもお返事をってお願いしるの。

「(手紙をくださった)あなたに縁があると思うと、この子のことを見るのが辛いのです」

 そんなお返事を書かれたの。いつも返事はもらえなかったから、こんな辛い内容の手紙でもお返事をいただけたことが嬉しくて源氏は涙を流したの。


 ―― 紫の君との暮らし ――

 藤壺の宮さまへの辛い気持ちを癒そうと源氏は紫の君の所に行くの。紫の君は源氏が最近はあまり来てくれなかったから拗ねてるの。


「あんまり逢えなくてつまらないわ」

 なんて少し大人ぶった歌を詠むのね。そのおませっぷりが源氏には可愛らしくてたまらないみたいなの。

 お琴を教えてあげると、のみこみが早くて頭がいいの。何をさせても素晴らしいなぁと源氏も感心するの。


 夜になって紫の君の部屋を出ようとすると、紫の君はとっても寂しそうなの。そして源氏の膝で眠ってしまうの。源氏も可哀想になって

「もう、今日は出かける(奥さんのところに行く)の、やめるよ」

 と紫の君に言うと、紫の君は喜んで飛び起きたの。寝たフリしていたみたいね。



 ―― 熟女とのラブゲーム? ――

 帝にお仕えしている源典侍げんのないしのすけという女官がいたの。57~58歳のお局サマ。今でいうキャリアウーマンだからさすがに品も知性もあるんだけれど、恋愛方面もハデな方だったのね。 

 源氏もシャレのつもりで一晩遊んじゃうんだけど、「まぁ、これはないな」とテキトーに接していると、宮中で源典侍が源氏と付き合っているなんてあけっぴろげにいいふらすし、なんとお父さんの帝にまでからかわれちゃうのね。


 ここで源氏の永遠のライバル頭中将もそのウワサを聞いて、

「おいおい、マジかよ。そんなばぁさんと?」

 って思うんだけど、

「いや、熟女も実はいいんじゃね?」

 なんて思い直して、こちらも源典侍と会うようになるのよ。


 ある夜、源典侍のところに来ていた源氏なんだけど、他の男がやってきたことに気づくのよ。

「ちょ、典侍の恋人か? 鉢合わせ?」

 って焦ったのね。他にもつきあっている人がいる典侍だから、その恋人に怒られるって思ったみたい。でもその男が頭中将だって気づくの。

(コイツ、からかいにきたな)

 源氏も頭中将もわざと典侍を取り合うような芝居をして、乱闘するフリをして、最後は仲良く肩を組んで帰って行ったの。


 翌日の宮中では、源氏も頭中将も何事もなかったように仕事をしているんだけど、内心は笑いをこらえていたの。その後も頭中将はよくこのネタで源氏をからかったんですって。


 ―― 帝の引退と若宮 ――

 源氏は宰相さいしょうに昇進したの。そして帝ご自身は引退して東宮とうぐう弘徽殿こきでんの女御の子ども)を帝にして、若宮(藤壺の宮の子)を東宮(皇太子)にしようとするの。そこで藤壺の宮を中宮(皇后)にして、源氏を若宮の後見人として指名したの。源氏は宮さまが皇后さまになってしまい、ますます手が届かない人になってしまうと落ち込むの。

 若宮は成長するにつれてどんどん源氏に似ていくんだけど、誰もあの秘密には気づいてないみたいね。



 ◇とにかく青海波の巻ですね。今まで一方的に源氏が藤壺の宮さまに想い焦がれていたと思っていたけれど、宮さまも想っていたのね。でも当然だけど口にはできない。源氏にすら伝えない。でも見事だった青海波の舞のお褒めの言葉になぞらえてやっと返歌を送った宮さま。フィクションの禁断の恋は盛り上がってもいいですよね。

「あさきゆめみし」でも一番好きなシーンかもしれません。青海波のくだり。



 ~ 物思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の 袖うちふりし 心知りきや ~

 源氏宰相中将が藤壺の宮に贈った歌


 ~ から人の 袖ふることは 遠けれど につけて あはれとは見き ~

 藤壺の宮が源氏宰相中将に贈った歌


 第7帖 紅葉賀もみじのが



☆☆☆

【別冊】源氏物語のご案内

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topics2 物語は繰り返す?

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054882061361

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