episode8 似た者同士のふたり? 花宴
◇
春になり、源氏は宮中でひとりの女性と出会い恋に落ちます。あとでその女性が自分の兄である東宮(皇太子)の后になる予定であることを知ります。この女性が朧月夜の君です。
【超訳】
源氏 20歳 紫の君 12歳
藤壺中宮 25歳 葵の上 24歳
―― 朧月夜の宴 ――
桜の季節になり、桐壺帝がお花見の宴を開いたの。藤壺中宮さまや、
藤壺の中宮さまも源氏の美しい様子に心の中でこんな歌を読まれたんですって。
~ 大かたに 花の姿を 美ましかば つゆも心の おかれましやは ~
(後ろめたいことが何もなければ美しいあなたの姿を眺めていられるのに)
桜の舞を踊る源氏のステキさを心から素晴らしいと思っているけれど、あんな罪をおかしているのだからそんな風に想ってはいけないわ。あなたのことも想っているのに。この想いは自分の心に閉じ込めておかないといけないのよ。源氏の君にも知られてはいけないわ。中宮さまの複雑な心境が伺える歌よね。
―― 月夜の出逢い ――
宴会もお開きになってほろ酔いでいい気分の源氏は藤壺の局(宮さまの住んでいらっしゃるお部屋)のあたりをうろつくんだけれど、きちんと鍵がかかっていて忍びこめないのよね。
ついでに弘徽殿(弘徽殿女御の住んでいるお部屋)のあたりを通ると鍵がかかっていないの。女御さまはじめ多くの方の住んでいるお部屋(お屋敷)に入るとひとりの女の子がこんな和歌を口ずさんでいたの。
~ 照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜に 似るものぞなき ~
(新古今集:大江千里 淡くかすんでいる春の朧月夜が一番の月夜なことだ)
すぐに恋に落ちる源氏はこの女の子を和歌で口説きはじめるの。
~ 深き夜の あはれを知るも 入る月の おぼろげならぬ 契りとぞ思ふ ~
(こんな深夜の月が好きだなんて俺たち気があうんじゃね?)
女の子は相手が源氏ってわかって、ふたりは一夜を一緒に過ごすのだけれど、自分の名前や身分は明かさなかったの。
「それじゃ
なんて源氏は頼むと
「自分から探そうとはしないわけ?」
と彼女は言うの。結局名前も教えてはくれないし、朝になってしまうし、お互いの扇子だけ交換したの。
―― あの子は誰? ――
さて、この扇子の持ち主は誰なんだろう。源氏は気になっていろいろと推理するの。
弘徽殿にいたのだから、花宴を見に来ていた弘徽殿女御の妹だろうけど、妹は何人かいる。中には東宮さまに
「あの子が東宮妃になる子だったら、ちょっとヤバくね?」
かといって責任をとって彼女と結婚することにすると、あの右大臣から婿扱いされることになり、それも面倒くさい。ひとりでああでもないこうでもないと考えていたみたい。
交換した扇(彼女の扇)は桜色で
~ 世に知らぬ ここちこそすれ 有明の 月の行方を 空にまがへて ~
(こんな気持ちは初めてだよな。夜明けの月(キミ)はどこにいるんだ?)
一方で二条院の紫の君は賢く愛らしく成長しているの。随分子供っぽいところもなくなってきたみたい。他のところに出かけたりしないでと泣いて困らせることもなくなったの。
―― 再会 ――
あの夜の女の子は物想いにふけっているの。そう、彼女が東宮さまのお妃になる子だったのだけれど、あの源氏と過ごした夜のことが忘れられないの。恋の病よね。
女の子のお父さんの右大臣が自宅で藤の花の宴会を開いたの。右大臣としては好きでもない源氏を本当は招待なんかしたくないの。でも悔しいけれど源氏をゲストとして呼べばパーティーの格も上がるのでしぶしぶ招くのね。オシャレな春のコーディネートでやってきた源氏の美しさに桜の花の魅力が半減するほどなんですって。
宴会の途中で源氏は酔ったふりをして抜け出して、娘たちのいるであろう部屋のあたりをうろつくの。
「結構飲まされちゃってさ、誰かかくまってくれない?」
「俺、扇子をなくしちゃって。誰か俺の扇子知らない?」
知らないわよねぇとざわついている
~ あづさ弓 いるさの山に まどふかな ほの見し月の 影や見ゆると ~
(この前見かけた子を探してるんだけどさ、その子にまた会えると思う?)
すると几帳の向こうからこんな和歌が返ってくるの。
~ 心いる
(本当に好きなら迷ったりする?)
あのときの子の声だったのね。こうして源氏はこの前の子を探し出したの。
◇また源氏の君のアバンチュールですよ。藤壺の宮さまで懲りていないのかしらね? 可愛い紫の君もいるのに。また新しい恋人登場です。
朧月夜の君。朧月夜って、もやのかかった春特有の月のことなんだけど、私の受ける彼女の印象はパキっとクリアで自分の意見をしっかりもっている女性という感じです。もやもやなんて全然してない。結婚相手は決まってるけど、イケメン源氏に口説かれたらそりゃときめくわよ、いいじゃない、カレとも付き合ったって、ってカンジ? 対する源氏も「オレさ、大抵のことは許される身分なわけよ」なんて言って口説くのよね。ある意味、似たもの同士です。源氏と朧月夜の君って。
~ 深き夜の あはれを知るも 入る月の おぼろげならぬ 契りとぞ思ふ ~
源氏宰相中将が朧月夜に贈った歌
第八帖 花宴
☆☆☆
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