episode46 ふたりの恋 椎本
◇
薫から話を聞いた匂宮は宇治の姫君とコンタクトをとりたくて仕方がありません。ようやく中の君と手紙のやりとりができるようになりますが、そんな矢先にお父さんの八の宮が亡くなってしまいます。
【超訳】
薫 23~24歳 匂宮 24~25歳
大君 25~26歳 中の君 23~24歳
―― 匂宮が宇治へゆく ――
2月に匂宮が長谷寺(現:奈良県桜井市)を参拝して帰りに夕霧所有の宇治の山荘に泊まるの。夕霧は物忌みで宇治には来ることができなくて代わりに薫が匂宮を出迎えるのね。匂宮も苦手な夕霧じゃなくて友人の薫だったので嬉しそうね。どうしても宇治に行きたい匂宮が長谷寺詣での帰りに宇治に寄るという作戦をたてたみたいね。
夕霧の山荘から宇治川を挟んだ向かいが八の宮のお屋敷らしく、噂の姫君とのニアピンを匂宮は期待しているみたい。お供の人達も旅の疲れを癒しているの。匂宮は旅慣れていないから疲れているんだけれど、滅多にできない旅行だから夕方ごろからは楽器を用意させて音楽の宴を始めようとするのよ。
宇治川のほとりの山荘で奏でられる音楽は対岸の八の宮のお屋敷にも聞こえてくるの。
「この笛の音(薫が吹いている)は六条院(源氏)風ではなくて太政大臣(頭中将)系統の演奏に似ている感じがするな」
八の宮はそんな風に感じるの。このような華やかな暮らしからかけ離れた生活をしているから自分はともかく年頃の姫君たちは不憫だなぁとも八の宮は思うの。できれば誠実な薫に姫君の婿になってもらいたいって考えるんだけれど、彼は色恋には目もくれない真面目オトコだからそれは望めない。かといって薫以外の
薫は近くまで来ているのでもちろん八の宮のお屋敷に行きたいんだけれど、家来が大勢いるので宴を抜け出すことはできないのね。まして匂宮と一緒に姫君に逢いに行くっていうのはムリなのよ。匂宮もここまで来て姫君たちとなんのコンタクトもとれないのが不満みたいね。
そんなところに八の宮から薫あてに和歌が届くの。
~ 山風に
(風に乗って音楽は聞こえてきますが、隔たりがあるので白波しか見えません=やはり私たちとあなた方の間には隔たりあるようですね)
匂宮は薫の代わりにノリノリで返歌をするの。
~
(そちらとこちらとを波が隔てていても風は吹き渡りお互いを通わせるよ=んなもん、あっという間に飛び越えるぜ?)
薫は八の宮を訪ねることにするの。他にも音楽が好きな同僚や八の宮に興味がある人も一緒に行くんだけれど、身分の高い匂宮は出かけられないの。匂宮は自由に行動できない身分の重さを恨むのね。
夕霧の山荘も別荘らしい趣のあるお屋敷だけれど、八の宮邸はもっと風情があってわびさびの世界なの。薫たちお客を出迎えた八の宮は琴の演奏を披露するの。
―― 匂宮と中の君の和歌のやりとり ――
出かけられなかった匂宮は少しでも姫君たちに自分をアピールしたくて桜の枝を添えて手紙を寄越してきたの。
~ 山桜 にほふあたりに 尋ね来て 同じ
(美しいと評判のここの桜をキミたちの
こんな恋の歌をもらったことのない姫君たちはお返事が書けないわとふたりで譲り合っているんだけれど、もったいつけるとかえって期待させてしまうからさりげないお返事をした方がいいって女房たちがアドバイスするのね。そこで中の君が返事を書いたの。
~
(アクセサリーの材料集めのついでに立ち寄る程度の春の旅行者なのですね = ほんのいっとき通り過ぎるだけの方でしょう?)
とても美しい文字で書かれていて和歌としても匂宮の恋の歌を上手に交わしている歌で匂宮はグッときちゃったみたい。後ろ髪をひかれる思いで都へと帰っていったのよ。
それからは薫の仲介なしで
「いっそのこと不美人ならこんなに悩むこともないだろうに」
美しい姫君の将来をどうしたらいいかと八の宮は迷っているみたい。このとき大君が二十五歳、中の君が二十三歳になっていたの。
ふたりの姫君のうちひとりでも結婚してくれれば、残りの姫も(経済的に)面倒を見てもらえるだろうからどちらかを結婚させようと思うんだけど、大切な姫を託すことのできる相手が見当たらないの。みんな興味本位でからかっているだけだと思っているの。でも匂宮は熱心に想ってくれているように八の宮にも見えるみたいね。
―― 八の宮の死 ――
秋になって薫は中納言に昇進するの。仕事も忙しくなって中々宇治にも出かけられなかった薫なんだけど、ようやく八の宮を訪ねるの。街中の都はまだそうでもないんだけれど、宇治はすっかり美しい秋の景色なの。
八の宮は自分が亡くなったあとの姫君たちのことを薫に頼み、薫もそれを引き受けるの。そしてもう一度あの琴が聞きたいと薫は八の宮にお願いするのね。八の宮は娘たちに琴を弾くように、それから若い者だけで楽しみなさいと部屋を出ていくの。
お父さんから姫君を任せてもらえたのに、薫は特に口説いたりはしないで、我ながら奥手すぎるなって自分をディスるんですって。ゆっくりと自然に自分に姫君の気持ちが向いてくれたらいいと思っているみたいね。
その夜は夜が明ける前に薫は帰り、また仕事の合間をぬって宇治に行こうと考えているの。匂宮も秋のうちに紅葉見物に宇治に行きたいと
秋が深まり、八の宮は阿闍梨の元で修行をするために山に行くの。姫君たちには万が一のときの心構えを話すの。自分が亡くなっても簡単に結婚などはしないように、宮家の名を汚さないように、皇族の娘としての品位を落とさないようにって伝えるの。姫君たちはお父さんが亡くなるなんて想像もできなくて、そんなお父さんの話に戸惑ってしまうの。
「留守の間も寂しがらないで。楽器の演奏でもして健やかに過ごしていなさい」
そして八の宮は翌日に山の奥深くに旅立ったの。
「わたしたちひとりではとても暮らしていけないわね」
大君も中の君もそんなことを言いながら寝るのも起きるのも遊びも勉強事も一緒に過ごすの。
月日は過ぎて八の宮が山から戻る予定の日になるんだけれど、帰ってこないで代わりに使いの者がやってきて八の宮は病気だって言うの。驚いた姫君たちは急いで温かい着物などを山に届けさせるの。
しばらくして八の宮は亡くなったという知らせが来るの。姫君たちはただただ悲しんでせめて亡骸に会いたいって言うんだけれど、後世に障りがあるからって阿闍梨が許してくれなかったの。
薫にも訃報は届いて、この前話したのが最後だったなんてと悲しみにくれるの。それからすぐに阿闍梨のところにも宇治の山荘にもお見舞いの使いをやって、葬儀も薫が仕切ったの。姫君たちは薫の対応を有難く思ったの。
―― 薫と大君 ――
匂宮もお見舞いの手紙を送るんだけど、悲しんでいる中の君は返事を書くどころじゃないのね。匂宮は「薫にならこんな態度をとらないだろうに俺はスルーかよ」ってがっかりするのね。紅葉見物に宇治に行こうとも考えていたけれど、姫君たちが喪中だからそんな計画も実行できなくなったわね。それでもまた長文の手紙を書くみたい。
~
(鹿が鳴く秋だけれど、どうしてる? まだ気持ちはしんどいよね?)
中の君があまりにも泣いていて匂宮の手紙に返事をしないから、大君が代わりに返事を書くの。
~ 涙のみ きりふさがれる 山里は
(涙ばかりで霧に覆われている山里で声をそろえて(ふたりで)泣いています)
するといつもと筆跡が違うからいつも返事をくれているのがどっちで、今回返事をくれたのがどっちなんだ? と匂宮は悩むの。
~ 朝霧に 友惑はせる 鹿の音を 大方にやは 哀れとも聞く ~
(悲しんでいるキミ達のことを放ってはおけないんだよ)
「俺だって悲しんでいるよ」
そんな手紙を匂宮はまた送るのね。姫君たちは匂宮のことを軽い気持ちでからかい半分の男の人たちとは違うって思っていて、男の人のステキなお手紙だとも思っているけれど、もうお父さんの八の宮もおらず、自分達は身分不相応だからこのままふたりで宇治で暮らしていこうと決めているみたい。
日にちが少し経ち忌中が明けたので薫は宇治に行くの。すると、姫君たちと顔を合わすどころか物越しでの会話もしてもらえないので、不純な気持ちではないのにあんまりなんじゃないの? って薫がめずらしく女房の弁の君に不平を言うの。
何年間も薫が八の宮に心を込めて尽くしてくれていたことを思い出した大君は少し近くで話してみようと思うの。けれども親兄弟でない他人に声を聞かせるなんて、まるで相手の気持ちやお金を頼りにしているように見えてはしたなく思えてしまうの。そんな気持ちも薫はわかってあげているの。
~ 色変はる
(前にお見かけしたあなたが墨染の喪服を着て悲しんでいる気持ちを察するよ)
ひとりごとのように薫が和歌を詠むと、
~ 色変はる 袖をば露の 宿りにて わが身ぞさらに 置き所なき ~
(喪服の袖も涙に濡れていて気持ちは癒えることはないのです)
消えてしまうような声がして大君はそのあと奥の間にさがってしまうの。
匂宮と薫が会うといつも宇治の姫君の話になるの。結婚の許可をとらないといけないお父さんの八の宮がいなくなったので、本人さえ了承してくれれば決められるんだけれど、姫君たちは匂宮を警戒しているの。匂宮の女好きのウワサは知られているのね。
冬になってまた薫は宇治に行くの。雪の中をわざわざ来てくれたので大君が薫の相手をするの。打ち解けたとまでは言えないんだけれど、前よりは長い時間話をするの。薫は大君のことが好きなんだって自覚しているのに、匂宮の話を持ち出すの。女好きなんて噂はウソで、彼は素晴らしい人で中の君と匂宮の仲を取り持ってあげたい。それから自分は大君のことが好きですって告白もしたの。
~ つらら閉ぢ 駒ふみしだく 山川を しるべしがてら まづや渡らむ ~
(氷のように閉ざしていらっしゃるあなたがたを匂宮に紹介することになったけど、あなたのところには僕が逢いに行くからね)
大君は面倒な展開になっちゃったわとはっきりした返事はしなかったの。
―― 匂宮と中の君 ――
春。匂宮と中の君はあいかわらず和歌のやりとりだけの関係なのね。去年の春に桜と一緒に贈った歌のことを思い出してまた匂宮は中の君に歌を詠むの。
~ つてに見し 宿の桜を この春に
(去年は旅行の帰り道に眺めたあなたのところの桜だけれど、今年は直に会って(桜を)手渡したいんだ)
あいかわらずの美しい文字の積極的な気持ちに中の君はカタチだけ返事をするの。
~ いづくとか 尋ねて折らん 墨染めに 霞こめたる 宿の桜を ~
(どこの桜のことをおっしゃっているのかしら? わたしの桜は墨染めで霞に覆われているのよ?)
こんなつれない返事で中の君との仲がちっとも進まない匂宮は薫になんとかしろって言うんだけど、薫は面白がってるの。
「キミが本気かどうかわかんないからね」
「運命の人に出逢えるまでいろんな女の子に会ってるだけだろ?」
自分の女好きという噂の言い訳をしたいみたいね。
夕霧は今でも自分の娘の六の君を匂宮と結婚させたいって考えているんだけど、匂宮はおカタい義父ができるのはイヤみたいでずっと断り続けているのよね。
―― 大君の姿 ――
薫のお母さんの女三宮が住んでいる三条の宮が火事で焼けてしまったので女三宮は六条院に引っ越すの。そんなこんなで忙しかった薫は夏になってやっと宇治に出かけることができたの。
お屋敷は風を入れようとあちこちが開いていたの。そこに風が吹いてきて御簾を巻き上げたの。可憐で華やかで柔らかみが感じられる姿が見えて、薫は感嘆のタメイキなの。髪も上品で優美なの。もうひとりも優しそうで美しくすこし弱々しい感じがするの。最初の姫君が中の君であとから見えた姫君が大君だったのよね。
◇ふたりの姫君のお父さんの八の宮が亡くなってしまいました。薫はようやく大君のことを好きだと自覚したようです。そこで自分は大君と、中の君には匂宮と結婚させようと計画を立て始めたようですね。
~ つらら閉ぢ 駒ふみしだく 山川を しるべしがてら まづや渡らむ ~
薫が大君に贈った歌
第四十六帖 椎本
☆☆☆
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