episode47 恋の終わりと恋の始まり 総角
◇
亡くなった八の宮からふたりの姫君のことを薫は託されました。薫は想い人である大君と、中の君には匂宮との結婚を考えます。
【超訳】
薫 24歳 匂宮 25歳
大君 26歳 中の君24歳
夕霧 50歳 明石中宮 42歳
―― 薫の想い、大君の気持ち ――
八の宮の一周忌が近づいてきて、世間慣れしていない姉妹に替わって薫が法要の準備を仕切ってあげるの。薫はこれからのことを大君に話すんだけど、大君は薫との結婚なんて考えられないの。宇治の山荘で亡くなったお父さんを偲んで生きていくつもりみたいね。けれど若い中の君は結婚させてあげたいって思っているの。
薫と大君の恋愛関係はちっとも進展しないのね。
~
(長い紐で作った
薫がこんな歌を詠むと大君はまたいつものね、なんて思っちゃうの。
~
(紐でなんか繋げないもろい涙なのにどうやって飾りなんか作れるのかしら?=将来なんてお約束できないわ)
ツレナイ大君の返歌に
「一緒にいられないなら僕は生きていけないんだよ」
そんな風に薫はつぶやくの。
大君は自分のことから話をそらすように匂宮と中の君のことを話し始めるの。
その夜遅くなって人が少なくなったのを見計らって薫はふたりのあいだにあった屏風を押しのけて御簾の内側に入っていくの。大君は驚いて逃げようとするんだけど、薫が衣服の裾をつかんで口説き始めるの。
「酷いわ。喪服姿を見られるなんてあり得ないわ。女のわたしでは抵抗もできないのに……」
「急に思い立ったんじゃないよ。もうずっとあなたのことが好きなんだ。あなたの気持ちが僕に向いてくれるのをずっとずっと待っているんだ。どうして受け入れてくれないの?」
大君は薫を信用しきっていたのにこんなことをされて泣いてしまうの。だから薫もそれ以上無理強いをすることはしないでふたりで夜を過ごすの。そんな夜が明けると、露に濡れた秋草が朝日をうけて光っているの。その景色を眺めているふたりはとっても優美でいい雰囲気なのよね。
「こうやって同じ気持ちで月や花を一緒に眺めたいんだ」
薫がそう言うと
「こんな風に直接お顔を合わさないでいられるのなら、隔てない心でお付き合いできるのに」
大君の返事はこうだったの。
朝になって薫が帰ってから大君は自分はやっぱり独身で通そう、薫は父も認めていたから中の君と結婚させようと考えるの。それから眠っている中の君のところに大君は戻るんだけど、薫の移り香が大君から香ってくるから、中の君はふたりは恋仲になったって思っちゃうのよね。
―― 迫る薫、かわす大君、戸惑う中の君 ――
一周忌が終わって、薫が宇治に通って来ても大君は会おうともしないの。薫の結婚相手には中の君がいいって大君は思っていて、中の君にもそれとなく結婚話をするの。でも中の君は大君と薫が付き合っていると思っているし、自分は結婚しないで宇治で暮らしていくって決めているから薫との結婚話は納得できないのよね。
そっけない大君の態度に薫は弁の君(出生のヒミツを離してくれた女房)に協力してもらって姫君の寝室に案内してもらうことにするの。大君と中の君は一緒の部屋なんだけどね。でも人の気配に気づいた大君が寝室から逃げ出しちゃうの。そのあとで寝室に侵入した薫は中の君と対面することになっちゃうの。かといって「あなたじゃないです。間違えました」というワケにもいかなくてそのまま話をして夜を過ごすことになるの。
中の君は大君が話してた結婚話はこのことだったんだわ、お姉さまが仕組んだことだったのね、と傷つくの。薫も僕は大君にこんなに嫌われてんの? って落ち込んで弁の君に愚痴って帰って行ったの。
―― 匂宮の電撃婚 ――
つれなくされても、どうしても大君のことが諦められない薫なのね。手紙や和歌を送りながら悶々としているみたい。だったら先に匂宮と中の君を結婚させてしまえば大君も自分と結婚してくれるんじゃないかって考え始めるの。
「今度宇治に行くときは絶対にオレも連れてけよ。ひとりでフライングすんなよ?」
匂宮は薫にそう伝えるの。
「キミは惚れっぽいからね。中の君が傷ついたら可哀想だからね」
まるで中の君の保護者みたいな薫なの。
「見てろよ。これは本気の恋なんだぜ?」
匂宮が真面目にこう言うの。そうして薫も匂宮を宇治に連れて行く作戦を考え始めるの。
宇治までコソコソ通っているのがお母さんの明石中宮にバレないように匂宮は薫と一緒にこっそり都を抜け出すの。山荘に到着してもまずは薫だけがお屋敷に入って、弁の君に「大君に話がある。そのあとで中の君のところに案内してほしい」って取次を頼むのね。
大君は薫が中の君との結婚のことを承諾してくれたと思って薫と対面するの。でも薫は中の君と結婚するつもりなんてなくてまた大君のことを口説くのね。そのころ隠れていた匂宮が薫のふりをして弁の君に中の君のところまで案内させて、彼女の寝室に侵入するの。
薫の作戦を嘆く大君なんだけど、薫はまたその夜も大君と深い仲にはならないで話をするだけで朝を迎えるの。
そんな薫とは対照的にすぐに男女の仲になってしまった匂宮が朝になって中の君の寝室から出てくるので、女房達は何が起こったのか飲み込めないみたい。中の君もこれもお姉さまの仕組んだことなの? って思っているみたい。大君は中の君に言い訳はできないんだけれど(大君は中の君と薫を結婚させようとしていたので)、匂宮が贈ってきた後朝の歌の返事は中の君にさせるのね。
~ よのつねに 思ひやすらん 露深き
(ありふれたことだと思ってる? こんなにタイヘンな想いをしてキミに逢いに来たんだよ?)
その夜も匂宮は中の君のところに通ってきたの。こうなってしまってはふたりの結婚を認めるしかないと大君は思うことにするの。匂宮は中の君の素晴らしさにすっかり心を奪われて、将来を誓うの。一方、一線を越えずまだ付き合っている状態じゃない薫はその日は宇治に行かなかったの。
結婚の儀式は3日続けて通わなきゃいけなくて3回目の朝に結婚の儀式をするんだけれど、中の君の衣装や儀式を薫が整えてあげるの。
~ さよ衣 着てなれきとは 言はずとも
(深い仲になったわけじゃないけれど、少しくらい恨み言を言ってもいいよね?)
中の君のお祝いの手伝いはしてあげるけれど、大君が自分の気持ちに応えてくれないから少しイヤミったらしい歌を薫は大君に贈るの。
~ 隔てなき 心ばかりは 通ふとも 馴れし袖とは かけじとぞ思ふ ~
(隔てない心はいいにしても、慣れ親しんだ仲だなんて言わないで)
匂宮は毎晩夜遊びしているらしいってウワサを
「これからあんま
「キミが住む家をオレん家の近くに用意するからね」
匂宮はマジメにそう言うんだけれど、なんだか言い訳がましく聞こえる匂宮の言葉に中の君は「もう捨てられるの?」って落ち込んじゃうの。
明るくなってきた中で見る中の君は本当に美しくて整った顔立ちをしているの。自分の方が身分も高いと思いあがっていた匂宮だったんだけれど、それは間違いだった、中の君のことをもっと知りたいし、もっとよく見たいって今まで以上に彼女に恋するようになるの。
匂宮は艶っぽくて美しいの。その匂宮がこの世だけでなく来世まで夫婦でいようと中の君に約束するの。
中の君にとっては思いがけない結婚だったけれど、あのクールな薫と結婚するよりはよかったのかもしれないわって思い始めたみたいよ。
~ 中絶えん ものならなくに 橋姫の 片敷く袖や
(引き裂かれるわけではないけれど、キミを一人にしちゃうから泣いちゃうかもね)
帰らないといけない匂宮なんだけど、離れたくなくてこんな歌を詠んだの。
~ 絶えせじの わが頼みにや 宇治橋の はるけき中を 待ち渡るべき ~
(あなたとのご縁が切れませんようにって、あなたが来てくれることを祈っているわ)
悲しみをこらえながら歌を返してくれる中の君に匂宮はまたグッときちゃったみたい。
中の君も匂宮が帰ったあとの残り香に胸をしめつけられているの。いつのまにか匂宮に惹かれていたみたいね。女房たちも初めて見る匂宮の姿にカッコいいだの素敵だのと大騒ぎだったのよ。
匂宮は帰る途中も宇治に引き返したいと思うくらい中の君に夢中なの。しょっちゅうは逢いに行けないから手紙だけは毎日送ることにするの。
―― 前途多難な匂宮の結婚生活 ――
9月になって薫が匂宮を宇治に連れ出してあげるの。宇治でもふたりを出迎えてくれるけれど、やっぱり大君は薫の気持ちには応えられないって障子越しにしか話をしてくれないの。
匂宮も無理をして宇治に出かけてもまたすぐに都に戻らないといけないからツライみたいね。あんなに「恋多きオトコ」だった匂宮も今では中の君以外に通っているところもないみたいなの。六条院に夕霧の娘の六の君はいるけれど、あんまり興味を持ってもらえないってお父さんの夕霧は不満のようね。とにかく匂宮は中の君オンリーでどうやったら一緒にいられるか、そればかり考えているの。
薫は火事にあった三条邸の再建が終わったら大君を迎えようって考えるの。
10月にも紅葉狩りを口実に薫と匂宮は宇治に行くんだけど、明石の中宮さまが使いをよこして大げさな紅葉の宴にしてしまって、匂宮が抜け出してこっそり中の君のところに行けなくなっちゃうの。匂宮もツライみたいで山荘のあたりの色づいた樹々を見て涙ぐんでるの。
~ 秋はてて 寂しさまさる
(秋が終わって寂しくなる木の間を松風もあんま激しく吹くなよ……)
(逢いたくて逢いたくて仕方ないのにそんなに妨害すんなよ……)
お膳立てした薫も事情を知っている少数の人たちも、匂宮は本当に中の君のことを愛しているんだな、ここまで来ているのに逢えないなんて可哀想にって同情するの。
山荘では近くまで匂宮が来ているのに結局訪ねてきてくれなかったから「もう飽きられたの?」って中の君も大君も落ち込んだの。
―― 大君の歎き、そして…… ――
親がいないからこんな風にカルく見られてしまうんだわって大君はふさぎ込んで心痛のあまり病気になってしまうの。
一方匂宮も外出禁止令が出てしまい、夕霧の娘の六の君との縁談が本人の意思とは関係なく決まってしまうの。明石の中宮さまに「気になる人がいるならそちらは愛人でいいでしょ」なんて言われてしまって、薫もどうしたもんかと頭を抱えるの。匂宮は何を見ても何をしていても中の君のことを想い出しているみたいよ。
大君が体調を崩していると聞いて薫は宇治まで出かけるの。御簾ごしなんだけれど、身体が弱っている様子なので、薫は大君を都に引き取ろうと決めるの。匂宮がなかなか通ってこられないことも心変わりではない、彼のせいではないと話すの。
けれども匂宮の(六の君との)結婚の話が宇治にも伝わってしまうの。中の君は自分は立派な奥さまが決まるまでの繋ぎの役目みたいなものだったんだわ、これからわたしはどうしたらいいのかしらと悩んでしまうの。大君はそのニュースのショックで具合がますます悪くなってしまうの。そんなときに匂宮から中の君に手紙が届くの。
~ ながむるは 同じ雲井を いかなれば おぼつかなさを 添ふる
(同じ空を眺めているのに、こんなに逢いたいって想う気持ちが時雨になっているんだ)
もう長い間匂宮に逢えなくて恋しく想っている中の君はこんな歌を返すの。
~ あられ降る
(あられが降る深里は(あなたが眺めているという)空も曇っているわ)
(時雨どころかあられみたいな涙を流しているからあなたが見ている空も見えないわ)
匂宮のお母さんの明石の中宮も少しは譲歩してくるの。
「あなたの将来のためにも権力者である
でも権力者の娘を正妻にして愛する中の君を傷つけたくないって匂宮は抵抗し続けているんだけれど、中の君側には伝わらないことで匂宮も中の君もツライ状況になっているわね。
―― 薫と大君の恋の結末…… ――
十一月になって薫は大君のお見舞いに行くと、随分と弱ってしまっているの。匂宮の結婚の噂で衰弱してしまったって女房の弁が話すの。
「どうしてこんなになるまで僕に知らせてくれなかったんだ!」
薫は仕事もそっちのけでつきっきりで看病して、阿闍梨たちにも祈祷をさせるの。薫はそっと大君の手をとるの。
「声だけでも聞かせてほしい」
「もう逢えないで死んでいくのかと思っていたの」
大君がやっとの声でそう言うの。
「そんなに待っていてくれたの?」
薫はしゃくりあげて泣くの。横になっているところに薫が付き添ってくれるから大君は恥ずかしかったんだけれど、今まで無理に一線を越えようとはせずに誠実でいてくれた薫に友情のような愛情のような気持ちを大君は持っていたみたいね。
「こんな風にわたしは短い命の予感があったからあなたの気持ちに応えられなかったの。だからあなたと中の君に結婚してほしかったのよ」
「それなら悲しい思いばかりするのが僕の宿命だよ。僕はあなた以外のだれとも結婚するつもりなんかないよ」
そしてとうとう大君は亡くなってしまったの。
~ おくれじと 空行く月を 慕ふかな つひにすむべき この世ならねば ~
(遅れないようにキミのあとを追っていきたいよ。キミと永遠に過ごせるのはこの世ではなかったんだから)
呆然自失の薫は宮中に参内もしないで宇治に引き籠るの。あのマジメでカタブツの薫がそこまで落ち込むんだからどんなに素晴らしい女性だったんだろうって都ではウワサになっているみたい。
~ 恋ひわびて 死ぬる薬の ゆかしきに 雪の山には 跡を消なまし ~
(恋わびて死ねる薬が欲しいから雪の山に入って行って跡を
薫の悲しみが癒えないままに時は12月になって、ある雪の夜に匂宮が馬で宇治に駆けつけるの。これまで来られなかったことを中の君に謝って、なんとかご機嫌をとろうとするんだけれど、中の君は簡単には許してくれないみたい。
薫は都に戻ることにして、匂宮は中の君を自宅の二条院に迎えることを決心するの。
◇薫の大君への想いは報われることなく終わりを告げてしまいました。亡くなった大君を想う薫の歌があまりにストレートです。あんなに「恋なんてしない」って言っていましたけれどね。
対する匂宮は中の君と心を通わすことができ結婚しましたが、こちらも匂宮の気の多さや六の君との結婚やお母さんの反対など前途多難のようですね。
~ おくれじと 空行く月を 慕ふかな つひにすむべき この世ならねば ~
~ 恋ひわびて 死ぬる薬の ゆかしきに 雪の山には 跡を消なまし ~
薫が亡くなった大君に贈った歌
第四十七帖
☆☆☆
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